第3話 波乱のパーティーへ向かいます!!

部屋に着くと彼女は色々な話をしてくれた。

名前はナターシャということ。婚約破棄されたときにレイド様が励ましてくれたこと。その日から今度こそ愛した人に離れてほしくないと猛アタックをしたこと。急に婚約者ができて思わず押しかけてしまったこと。言い負かされないように思わず私に対して強くあたってしまったこと。

全てを話してくれた。


「ロザリナ様、本当にごめんなさい。頬が腫れてしまってるわ」


「大丈夫よ、ナターシャ!冷やしてるんだし、腫れても明日には治りますわ。あ、よければナターシャも私のことをロザリナって呼んでくれないかしら?友達ですもの!」


「もちろんです!ロザリナ!」


話してみると彼女は気さくで優しい性格の持ち主だとわかる。ふふふっと笑いあっているとバンッと急に部屋のドアが開いた。


「ロザリナ、無事か⁉︎」


私は部屋に入ってきたレイド様をみて思わず目を見開く。レイド様は私と一緒にお茶を飲むナターシャをみると思いっきり私の手を引っ張った。


「危険人物に自分から近づくだなんて何やってるんだ、ロザリナ!」


「え、いえ、あの……レイド様はどうしてここに?」


「カーナから連絡をもらって急いで戻ってきたんだ」


レイド様の後ろで控えるカーナさんは素知らぬ顔で佇んでいる。突然やってきたレイド様をみて寂しそうにナターシャは微笑む。


「私、そろそろお暇させていただきますね」


「あぁ、早く出て行くんだ!」


今まで何度も屋敷に押しかけてきたせいかレイド様はきつい目でナターシャを見つめる。


「やめてください!ナターシャは危険人物なんかじゃ……」


「っ!?頬がこんなに腫れてるじゃないか!!まさかこの女にやられたのか!?今すぐ手当てを……」


むぎゅー

思いっきりレイド様の頬を両手で挟むとムッと彼は顔を顰める。


「なにほするんは(何をするんだ)」


「レイド様が全然話を聞いてくれないからです!見てください、手当も何も今冷やしてるじゃないですか?あと、言っておきますけどナターシャは悪い子じゃありません!私が保証します!!」


「「「……」」」


シーンと静まり返った部屋の中で最初に声を上げたのはナターシャだった。


「ロザリナ、もう大丈夫よ。元々を言えば私が完璧に悪いのだから」


「ナターシャはいいの?勘違いされたままで!」


「勘違いでも何でもないわ。私が悪いの、全部。今日は、ありがとう。また機会があったらお会いしましょう」


「待って、ナターシャ!!」


走って部屋を飛び出してしまったナターシャを追いかけようと足を扉に向けた瞬間、グッと手首を誰かに掴まれた。


「離してください、レイド様!!」


「断る!もし、手を離してロザリナに何かあったらどうするんだ!」


その言葉とレイド様の真剣な顔にそんな状況じゃないのに思わず私は頬を染める。


「レイド様、先程から私の名前を初めて呼んでくださるのですね」


「あっ……」


「名前を呼んでくださってとても嬉しいです!……ですが、ナターシャのこととは話が別。ナターシャは本当にいい方なんです!私に何かあったら、とおっしゃいますが、別に私に何かあっても何も問題はありません。レイド様は恋人さんと仲睦まじいままで、私じゃない新しい婚約者を作ればいいのです。別に、婚約者は私である必要などないでしょう?」


レイド様の顔なら婚約者など1発で見つかるだろう。たとえ、恋人がいてもレイド様のそばにいたいと思う人はたくさんいるはずだ。


「待て。実は、言う機会を逃していたのだが俺に恋人は、」


「いいのです、レイド様」


何か言いかける彼の言葉を遮り話を続ける。


「レイド様と恋人さんが何をしようと私は気にするつもりはありません。ですから、私とナターシャのことも気にしないでくださいね!」


これならレイド様も満足だろうと思いニコニコ微笑みながら彼をみたが、思いがけない表情に私は思わず固まる。彼は呆気に取られたように目を見開き、穴が開くくらい私を見つめていた。数秒して復活した彼は決まり悪そうに下を向く。


「……わかった。明日の夜には伯爵家でパーティーがある。今日はゆっくり休め」


「あ、はい」


私の返事を聞くと、悲しくも愛おしそうに私を見つめながら私の頭を撫でてカーナさんとともに出て行ってしまった。


「へ?へ?」


アタマナデラレタ

レイドサマガヤサシイ

ナンデアンナメヲスルノ

私は勝手に染まっていく頬を冷やしながら布団に包まる。

この熱は叩かれたせい!この熱は叩かれたせい!

まだまだ夜とは程遠い昼のせいか瞼は全く落ちない。


「あんなの、恋しちゃうじゃん……」


そんな私の声は誰にも聞こえることはなかった。







思えばレイド様は最初の時こそ性格が悪そうだったが今ではよき婚約者だ。恋人がいたこと以外は私の理想の男性であり、いや、理想以上の男性だ。見た目だけでなく、気遣ってくれる心も、微かだが浮かべる微笑みも、優しく温かい声も。何度も叶うはずがない恋をするだなんて自分で自分が馬鹿らしいことくらいわかっている。でも、それでも……。








「化粧とドレスでここまで人って変わるものなんですね……。ロザリナ様、とても綺麗です。」


私に綺麗なドレスを着せ、化粧を施したカーナさんはそう告げる。


「最初にこの屋敷に来た時よりも随分綺麗になりましたね」


「本当ですか⁉︎」


もしかしたら前の婚約者へのストレスのせいでホルモンバランスが崩れていたのがここにきて治ったのかもしれない。そんなことを考えながら私は嬉しさで思わず頬が緩む。


「カーナさんの技術のお陰でもあると思います。いつも本当にありがとうございます!」


そんな私を見るとカーナさんは悔しそうに天を仰ぐ。


「早くちゃんとロザリナ様にお嫁に来て欲しいものです。レイド様もちゃんと想いを伝えればいいものを……」


「カーナさん?何かおっしゃいましたか?」


「いいえ、何も。ただレイド様の不甲斐なさに呆れているだけです」


そういうとカーナさんは私の手を引っ張った。


「そろそろ行きましょう。レイド様が馬車の中でお待ちです」







屋敷を出て馬車の前にくると中からレイド様が出てきた。

私を見るとピシリと固まり凝視してくる。何事かと私も思わず固まる。


「ロザリナか?」


「えぇ、そうですけど?何か問題でもありましたか?」


「いや、その……とても、綺麗だ」


その言葉に思わずドキンと心が跳ねる。

だ、ダメだ、落ち着きましょう。

正直レイド様の恋人さんに彼は天然の女たらしだと声を大にして叫びたい気持ちをなんとか押さえつける。


「ありがとうございます。それではいきましょうか。遅れてしまっては元も子もありませんもの」


カーナさんに見送られながら馬車は出発した。


「久しぶりですね。二人になるのは」


「あぁ、そうだな。いつもカーナがいたしな」


「……そうですね」


「……」


……気まずいっ!

私がレイド様を意識してしまっているせいか全く話が進まない。


「さ、最近は恋人さんとどうですか?」


レイド様は私の質問には答えず、唐突に私との距離を詰めてきた。


「っ⁉︎ど、どうかなさったのでしょうか?」


「そういえば前に、相談に乗るのが上手いと言っていたよな?」


「えぇ、恋愛相談ですけれど。それがどうかなさいました?」


首を傾げてレイド様を見ると彼は恥ずかしそうに少し顔を隠すようにそっぽを向く。


「実は、相談に乗って欲しいんだ」


まぁっ!レイド様が私に恋愛相談!

思いもしなかった言葉に驚くと同時に、ここまで信用してくれている喜びと嬉しさ、そしてほんの少しの胸の痛みを感じながら私は身を乗り出す。


「実は、いつもある女性のことを考えて目で追ってしまうんだ。目があうと逸らしてしまうし、彼女ともっと話したいのに話しかけるのに怯えてしまう。騎士だというのにこんなことに怯えてるなんてバカらしいんだがな」


「いいえ、馬鹿らしくなどありません!恋ってそう言うものですから!」


「恋?」


「えぇ、レイド様はその女性に恋をしているのでしょう?」


私の言葉を聞くとレイド様は耳まで真っ赤に染めて混乱し始める。


「恋?俺が?この俺がか?」


え、待って、その反応もしかして恋だと気づいてなかったのかしら?最初に恋愛相談って言われたから気づいているものだと思っていたけれど気づいていなかった?


「これが恋なのか?」


「いやいや、待ってください、レイド様、恋人さんがいましたよね??恋ってわかりません?恋ですよ?」


「あっ……。その、実はロザリナに言っとかなければならないことがある」


「なんでしょう?」


まさか次こそ婚約破棄⁉︎

深刻な表情のレイド様をみて私は思わず身構える。こう言う時は今までの経験上、ろくでもないことを言われるのだ。


「実は、俺には恋人はいない」


「え?」


「最初はロザリナも俺と婚約したらそれを盾に俺に引っ付いてくる女性だと思っていたんだ。だから、恋人がいるといえば幻滅してくれると考えたんだ。すまなかった。あいつらの言うことを信じていればよかった……」


あいつら?誰かに何か言われたのかしら?


「会った時に行ったと思うが、周りがうるさいうえに、女避けがほしくて俺は婚約者を作った。その時の相談相手がロザリナの一回目と二回目の婚約者なんだ」


「え⁉︎二人と知り合いなのですか?」


「たまたまパーティーで話してな。その時にロザリナのことを教えてもらった。優しくて強い女性だと。俺にちょうどいいとも言ってたな」


もしかしたら、私がまた婚約破棄されたと知って、教えてくれたのかも。

二人なりに婚約破棄してしまったことを申し訳なく思っていたのかもしれない。

二人の気持ちに少し心が暖かくなる。


「そうなのですね。それなら二人にお礼を言っておかなければ。あ、あと、レイド様、恋人さんのことは気にしないでください。どちらにせよ、レイド様には新しく想う方ができたのですから。あら?もしかしてその想い人って身分が釣り合うのですか?」


「あぁ」


「っ!こ、これから行くパーティーにはいらして?」


「まぁ、来てると言えば来てる」


そ、それならわざわざ私と婚約する必要はないのでは⁉︎というか、この感じは私は婚約破棄されてその方と婚約をし直すのでは⁉︎

顔を真っ青にしていると馬車が目的の場所に着いたようでガタリと止まり、ドアが開く。


「着きましたね」


「着いたな」


私はこれ以上レイド様の顔が見たくなくて急いで馬車から降りる。


「その方には想い人がいらっしゃって?」


震える声でさっきの続きの質問をすると彼は残念そうに首を振る。


「わからない」


「そう……ですか……」


五回目の婚約破棄は流石にお父様が怒るわよね。お先真っ暗だし。だから、先に謝っとくわね、お父様。私、やっぱり好きな方には笑顔でいてほしいわ。


「レイド様、今日、その方に想いを伝えてあげてください。恋愛は先手必勝ですよ!」


涙が溢れそうなのをグッと堪えながらそう告げる。だけどやっぱりレイド様といると泣きそうで……基本、パーティーはパートナーと入場しなくてはならないが、今日くらいは許してくれるわよね。


「先に行きますね、レイド様」


「え、ロザリナ?待っ」


レイド様を馬車の中に置いたまま私は走ってその場から逃亡した。

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