第2話 婚約者の役目を果たします!!

一回目の婚約……私の親友と浮気をしていた。結局私と婚約破棄、親友と婚約


二回目の婚約……急に身分差の恋人ができたことを私に報告。私が恋愛相談に乗り、私と婚約破棄&なんとか恋人と婚約


三回目の婚約……人の婚約者を取るのが趣味という女性にメロメロに。何故か私が悪役令嬢に仕立てられそうになったのをなんとか回避し婚約破棄


四回目の婚約……クラスのマドンナ、リリアーノにジェーンが恋をし、気づけば両思いに。結局、私と婚約破棄


「こう考えると私の人生ってろくなもんじゃないわよね」


「どうかしたのか?」


どうやら声に出していたらしい。急いで微笑み首を振る。

ただいまレイド様との夕食の時間。空気は重い。会話がなかなか弾まない上、机が広すぎて大きな声を出さないとレイド様に声が聞こえないらしい。


「レイド様、私のことは気にせず恋人の方と夕食をとってくださっても大丈夫ですよ?」


すると不思議そうにレイド様は首を傾げる。


「恋人?あっ……いや、大丈夫だ。向こうは少し遠い所に住んでるしな」


まぁ、遠距離恋愛。これは俄然燃える!二人を幸せにさせてあげたい!


「もし、よければこの屋敷に一緒に住んでは?私は特に気にしませんよ?婚約して結婚さえしてくだされば……年上のやばい人に嫁ぐこともありませんし」


no problemと明るく笑うと彼は目を見開きこちらをみた後、視線を逸らす。


「いや、向こうには向こうの生活があるから大丈夫だ。あとすまんが最後の言葉がよく聞こえなかったんだが……」


「いえ、気にしないでください。独り言ですから。あと、単純に気になったんですがレイド様でも恋人の前では笑ったりするんですか?」


私がグイッと体を乗り出して聞くと嫌そうにレイドは顔を歪めて答える。


「別に元々笑ってないわけじゃない」


え?でも、社交界では笑ったことを見た人なんて一人もいないって。


「屋敷では普通に笑ったこともある。だよな、カーナ」


先程私を案内してくれたメイドはカーナというらしい。カーナさんはコクリと頷く。


「私がヘマやらかした時とかすごく笑ってきます」


そういうとジト目でカーナさんはレイド様を見る。


「それは……すまなかった。でも、こう見えてカーナは失敗することが多いんだ」


「ロザリナ様にそんなこと言わないでください」


プイッとカーナさんは顔を背けると部屋を出て行ってしまった。


「ふふっ、案外、カーナさん可愛らしんですね。あ、話戻しますけど、なぜパーティーでは笑わないんですか?笑えばみんなレイド様に近づきやすくなると思いますけど」


わざわざ笑わないようにする意味がわからない。鉄仮面の騎士様という異名も変わるかもしれないのに。


「付き纏われるんだ」


「へ?」


「無表情でも沢山の女性に付き纏われるんだ。もし、笑ったら……想像はつくだろ?」


うわぁ……と思わず私は顔を顰める。まさか付き纏われているほどの被害だとは思わなかった。私、その人たちに刺されたりしないかな……なんて不安になる。


「色々とお疲れ様です。……あ、でも私の前くらいは笑ってくださいね!自分でいうのもなんですけど、今までの婚約者たち、結構顔がよかったからかっこいい顔には耐性ついてると思うんです。だから、私の前くらいは笑ってくださいね!」


ニッと私は笑うと、うっすらだけどレイド様も微笑みを浮かべてくれた。


「恩にきる」


「私、レイド様は笑ってた方がいいと思います!笑ってた方が好きですよ!」


すると何故か彼は顔を真っ赤にして睨む。


「お前は思ったことをすぐ言葉にしすぎだ」


あれ?この反応もしかして好きとか言い慣れてない?


「レイド様、恋人さんにはちゃんと思ったことを伝えることを心がけた方がいいですよ?女性はその方が喜びますから」


「お前もか?」


まぁ、物によるけど。誰だって素直に『かわいい』とか思ったことを男性から伝えられるのは嬉しいんだから。

何を思ったのか黙り込む私をみてレイド様は口角を上げると私を見つめる。


「な、なんですか?」


「婚約者がお前でよかった。ありがとう」


途端に顔全体が赤くなるのが自分でもわかる。


「なっ……お、思ったことをちゃんと伝えるのは恋人さんにしてください!」


半分ヤケクソ気味にそう告げ、私は急いでご飯を口に詰め込む。

恋人がいるんだからレイド様には恋しちゃダメ、恋しちゃダメ!そう、心に言い聞かせながら、その日の夕食は終わった。











それからあっというまに一週間が経った。

レイド様とも、メイドのカーナさんともいい関係を築け、今までの婚約の中で一番と言えるほど幸せな日々を過ごしている。特にレイド様とは短い時間ではあるが、朝と夕食の時には話が弾むようになり、今ではたまに微笑んでくれることも増えた。そんなある日、嵐は突然やってきた。

屋敷の中を歩いていると誰かが言い争う声が聞こえ急いでその方向へと向かう。


「ロザリナを呼びなさいよ!私がお灸を据えてやるわ!」


女性のキンキンとした声に続き、カーナさんの声が聞こえる。


「やめてください。お帰りください。ついでにレイド様に付き纏われるのもやめてください」


「あの人と私は運命で結ばれてるの!」


これは思ったよりもやばい状況では?

『周りがうるさいうえに、女避けがほしくて俺はお前を婚約者にしたのだからな』

そういえばそんなことを前にレイド様が言ってたわ。女避けってこういうことかしら?なら、私が出て行かなきゃ!


「はじめまして、ロザリナです!」


思いっきり女性の前に私は飛び出す。急いでカーナさんが私を屋敷の奥に押し込めようとするが私はカーナさんを押し退ける。


「カーナさん、私、あの方と話さなきゃいけないの。私がレイド様と婚約したのもそのためですもの」


「ですが……」


私はニコリと微笑みカーナさんに告げる。


「下がりなさい」


上からの命令は絶対。カーナさんは悔しそうに唇を噛みながら離れていく。

ごめんね、カーナさん。でも、これが私の仕事だから!


「あ、あなたがロザリナ?」


「えぇ、私がロザリナです!」


ここは勢いが肝心!


「ロザリナ……様、レイド様と別れてください!」


「お断りします!」


「なっ……」


これ以上別れたら私の人生めちゃくちゃになるわ!


「なんで、なんであんたなんかがレイド様と婚約してるの!?私がどれだけこれの方を思っていたのかあなたは知らないでしょう⁉︎」


「えぇ、知らないわ!でも、だからって婚約破棄はできない!」


バチンッ


勢いよく私の頬に女性の手が振り下ろされた。


「あっ」


思わずといったように女性は声を上げる。反射的に私を叩いてしまったのだろう。


「満足ですか?私を叩いて」


「っ‼︎」


「愛してるから婚約破棄しろ?それは本当にレイド様も望んでいることなの?」


「……でも、私はっ、」


女性の方へグイッと一歩私は足を踏み出す。


「愛してる人と婚約できるほど甘くないのよ。愛してても、相手は違う女性を愛してることもあるの!」


「あんたにそんなことわかるわけがない!!」


「わかるわよ!!……私、これで婚約五回目なんだから」


ヒュッと彼女は息を呑む。私は呼吸を落ち着かせると淡々と話す。


「全員、愛そうとしたわ。本当に愛していた人もいた。でも、彼らは違う女性を選んだのよ。毎回毎回、馬鹿らしくなるくらい、婚約破棄されたわ。いつだって婚約破棄された後はやっぱり落ち込むし、慣れることなんて一生ないと思うわ!レイド様とだって、あなたが婚約破棄しろなんて言わなくても、いつか、もしかしたら……。だからね、だから……」


ふぅと息を整え、私は女性を見つめる。


「だから、あなたには幸せになってほしいの。私みたいな思いをしてほしくない」


多分、私が婚約破棄して彼女がレイド様と婚約したところで、彼には恋人がいるのだから彼女が望むような生活は送れない。そのくらいならいっそのこと今、私が悪役になってしまったほうがいい。そして彼女にはレイド様をキッパリと諦めてもらうのだ。


「ロザリナ様……。私、レイド様のことが好きですの」


「えぇ、知っているわ」


「諦めなきゃダメですか?」


「いいえ、辛くないのなら諦めなくてもいいわ」


「ずっとずっと好きだったの」


「……えぇ、知っているわ」


痛いほど知っている。恋をした時の気持ち。愛してる人の気持ちが自分に向いていないと知った時の気持ち。諦めたくても諦めない気持ち。

彼女は悲しそうに視線を伏せると全てを吐き出すかのように息を吐き出す。

そして、少し悲しそうにそれでいてスッキリしたような顔でこちらに向かって微笑む。


「わかりましたわ、レイド様のことは諦めます。ですが、一つだけお願いをしてもよろしいですか?」


思いのほかキッパリと諦めてくれたことに安堵しながら考える。

お願い?何かしら?まぁ、お願いなら絶対にきかなきゃいけないということもないし。


「わかりました。それで、お願いとは?」


「あの、そのですね、」


口籠る彼女に私は首を傾げる。


「私のお、お友達になってくださらないかと」


予想外の言葉に私は固まり二、三度瞬きをする。


「お友達!?そんなことでよろしいのですか?お友達だなんて私からしたら大歓迎ですが」


「私、あなたともっと話してみたいのです。実は、私も、婚約破棄を二回されたことがあるの。だから、婚約破棄されても強く生きてるあなたみたいな人がいるなんて……とっても嬉しかったの!頬を叩いてしまって本当にごめんなさい。私、私……」


優しく背中をさすると彼女は涙で頬を濡らす。


「一旦、私の部屋に来ないかしら?一緒にお茶でもしましょう!」


明るくそういうと彼女は微笑んで頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る