崖っぷち令嬢は婚約破棄されたくない!
桃麦
第1話 5回目の婚約者は恋人持ち!?
「ごめん、ロザリナ。婚約破棄してほしい……。本当にごめん……本当に……」
なんと言うこともない、当たり前の日々の延長線上であったはずのある日のことだった。
目を伏せながら私の婚約者であるジェーンはそう告げ、驚いた私は私は目を大きく見開く。
「そんな、まさか、」
「ごめん、わかってくれ」
でも、驚きながらも心のどこかでは納得していた。
あぁ、やっぱり。私と婚約破棄ということなのね……。やっぱり……。
「やっぱり、ジェーンとリリアーノ様は両思いだったのねっ!!おめでとうございます!」
こんなんでも私は一応女性だ。恋バナは大好物である。目がキラキラと輝いているのが自分でもわかる。
「……ロザリナ、怒らないのか?」
驚いたようにジェーンはこちらを見返す。私は大きく頷き答える。
「もちろん!!祝福するわ!それで?それで?どちらから告白を??」
するとジェーンは顔をりんごのように真っ赤に染め、はにかむ。
「実は俺からなんだ。この前あったときに…」
嬉しそうに話し始めたジェーンに相槌をうちながら、私は小さくため息をついた。
ジェーンとリリアーノ様の恋は応援していたから思いが通じ合ったのは嬉しいけれど……複雑ね……。愛していた人が私の好意にも気づかずに離れて行くだなんて。
ジェーンとリリアーノ様の恋は応援していたが、それは愛していた人に幸せになってほしいという思いも含めてだった。彼のように、愛のない婚約ではなかったのだ。少なくとも、私にとっては。
それに、これからのことを考えるとさらに気分が落ち込む。また、婚約者探しに逆戻りね。
家に帰るとすぐにお父様のところへ行き、ジェーンのことを話した。
「ジェーンは、良い方なのですが、私とはあまり相性がよくなかったので婚約破棄させて戴きました」
何でもなさそうに微笑みそう告げた私を見つめ、少し考える仕草を見せた後お父様は頷いた。
「そうか。合わなかったのならしょうがないな。だが、これで婚約破棄は4回目だ。そろそろ結婚しないと行き遅れになるぞ」
「わかってます、お父様」
ですが残念ながらこれはもう宿命だと思います。という言葉は口に出さずに心にしまう。今まで婚約破棄してきたものは世間では、相性がよくなく破棄した、となっているが実際は違う。
毎回私の婚約者たちは恋人を作り離れていってしまうのだ。
私の魅力のなさが問題なのか、彼らがおかしいのか、私にはわからないのだけれど。
「ロザリナ、次の婚約で最後だと思いなさい。多分いい相手は見つからないだろうが、これが最後のチャンスだ」
「わかりました。ありがとうございます、お父様」
次の婚約で最後。結果は目に見えているが、やっぱり次の婚約で私の人生が決まってしまうという事実は思いのほか強く私にのしかかった。
「ですが、もし、もしも、私が婚約破棄されたらどうなるのですか?」
「考えたくはないが、その時は……何十歳も年上の人に嫁ぐことになるか、平民として暮らすかだな」
その言葉を聞き私はヒッと青ざめると急いでお父様の机に手をドンっと置く。
「お父様、絶対に浮気しない男の人を婚約者にしてください!!」
私の勢いに押されながらお父様は頷く。
「あ、あぁ、もちろんだ」
今度こそ、絶対にまともな人と婚約するんだ!
そう、心に決め私はお父様の部屋を出た。
お父様から呼び出されたのはそれから一週間後のこと。
多分、婚約者が決まったのね。誰になったのかしら?できれば、浮気しない人、浮気しない人、浮気しない人!
胸をドキドキさせながらお父様の書斎へ入る。
「ロザリナ、婚約者が決まった」
「早速ですが、どなたですか?私の婚約者は」
お父様は手元に置いてあった書類を私に差し出した。その書類を見て思わず私は息を呑む。
「お、お父様、本当にこの方と婚約するのですか!?でも、だって、この方は……」
「あぁ、こいつと婚約するんだ。どうしてもロザリナが嫌なら解消しても……」
「婚約させていただきます!」
これを逃せば一生縁談には恵まれない。そのことを知っている私は逃すものかと食い気味に婚約をお願いする。
「なら、今すぐこいつの屋敷へ行きなさい」
「へ?」
「実は、この婚約には一つ条件があるんだ。」
条件……。やっぱり4回婚約破棄された私と婚約するくらいなのだから条件がつくのは当たり前よね。
「それで、条件はなんですか?」
「婚約したその日から同じ屋敷に住むこと。もちろん手は出さないという言質はとってる」
不思議な条件ね。なにか、理由でもあるのかしら?
「わかりました。では、早速行ってきます」
「なんか、あったらすぐに帰ってきていいからな!」
「ありがとうございます、お父様!」
馬車をギリギリまでお父様は見送ってくれた。
さぁ、あとは私の努力しだいね。
馬車の中で私はグッと拳を握りしめる。
私の婚約者となる人は社交界ではとてつもなく有名な人だ。彼の名はレイド・リューク、またの名を鉄仮面の騎士様という。
彼が微笑んだを見た人は誰一人としていないらしい。まるで鉄の仮面をしているかのように動かない。その上、騎士としていつも鉄の鎧をつけている。それらのことから彼は鉄仮面の騎士様と呼ばれている。
そして、彼が社交界で有名な理由はその容姿にある。それはそれはとてつもなく整った顔立ちをしているのだ。彼の容姿にノックアウトされた女性たちは両手に余るほどいる。なのに、彼は婚約者を作ったことがないらしい。噂では恋人がいるとか、いないとか……。
「どちらにしても婚約破棄されないように私が努力するだけね!」
でも、どうやって婚約破棄されないようにすればいいかしら?
そんなことを黙々と考えているうちにどうやら馬車は屋敷に着いたらしい。
馬車の窓から外を見ると大きな屋敷がそびえたっていた。
「お、思ってたよりも私の婚約者、大物ね」
馬車から降りると一人のメイドが私を迎えてくれた。
「お待ちしておりました、ロザリナ様。私はこの屋敷のメイド長のカーナです。レイド様はこちらで待っております」
カーナさんの後をついていくと大きなドアの部屋にたどり着いた。
「失礼いたします」
「あぁ、入れ」
中から重厚な声が聞こえ、カーナさんはゆっくりと扉を開く。部屋の中は質素で、部屋の奥にある机と椅子しか家具といえる家具がない。
そんな部屋の中、奥の椅子に深く腰掛ける男性がいた。
「お初にお目にかかります。ロザリナ・リュディーといいます」
私の声を聞くと彼はゆっくりと顔を上げる。
パチリと目があった瞬間私は思わず呟いてしまった。
「うわぉ……」
レイド様はさすがというしかないほど綺麗な顔立ちをしていた。スッと通った鼻筋にサラリと流れる艶のある銀髪。鋭くこちらを見つめる瞳は私も一瞬心がぐらつきかけてしまうほどの威力だ。
「レイド・リュークだ。カーナ、下がれ」
そう言われてカーナさんは部屋を出て行った。それを確認し、レイド様は鉄仮面の顔をさらに硬くする。
「まずはお前に言わなければならないことがある」
「……なんでしょう?」
なんで、こんな緊迫した雰囲気なのかしら?……まさか、会って数分もたってないのに婚約破棄とか!?それだけはやめて!お願い!
「実は俺には恋人がいる。平民のな。だから、俺がお前を愛することはないと思ってくれ。周りがうるさいうえに、女避けがほしくて俺はお前を婚約者にしたのだからな」
……。
「直球、ですね」
「そうでもしないと女は変に期待をするだろ」
一応婚約破棄されるのではなくてホッと肩の力を抜く。
フフッと思わず笑いそうになるのを抑えながら私は微笑み答えた。
「わかりました。肝に銘じておきますね」
すると、レイド様は驚いたようにこちらを見つめる。
「お前、それでいいのか?」
「えぇ、もちろん。婚約破棄をされないのであれば大丈夫です。もともとまともな婚約は期待していませんでしたから。それに、変に恋人を作られて途中で婚約破棄されるほうが困ります。……婚約破棄、しませんよね?」
おずおずと尋ねると目を見開きながらも彼は頷いた。
「それならよかったです!あ、私、これでも結構恋愛相談乗るのがうまいんです。もし、その恋人さんのことで相談したくなったら言ってくださいね!」
恋愛相談と言えば2回目の婚約者は酷かったなぁ……。婚約者である私に唐突に恋人ができた宣言した後すぐに恋人との恋愛相談してきたし……。まぁ、それに比べればこんな契約みたいな婚約もまともだ。変な期待をさせられるのも困りものだもの。
「あり、がとう」
「いいえ、なんかあったら言ってくださいね!女性ってみんな恋バナ好きですし。じゃあ、私、そろそろ自分の部屋を見に行ってみてもいいですか?ずっと気になってたんですよね!」
「あぁ……」
ニコニコと最後まで微笑みながら私はレイド様の部屋を出る。外ではカーナさんが待っていて私を私の部屋まで案内してくれた。
「ゆっくり夕食の時間までお休みください。何かあればそこのベルを鳴らしてくださいね」
部屋に誰もいなくなると私は一人で騒ぎ始める。
「まぁ、なんて広いの!私の部屋にはなかった設備まで!すっごく広ーい!ふふっ、本当に……すごいわね……はぁ」
思わずこぼれたため息を弾き飛ばすように首をブンブンとふる。
「なんで、私こんなに落ち込んでるのかしら?……もしかしたら、思っていたよりも私、期待してたのかもしれないわね」
浮気をせず、暖かく私を受け入れてくれる人、そんな婚約者だったらいいな、と心のどこかでは期待してしまっていたのかも。
私がまともな婚約なんてできるはずがないのに。この婚約で婚約破棄されたら私の人生は詰む。確実に詰んでしまう。
まさに、崖っぷちね……。
思わず溜め息を吐きそうになったが急いで私は首を振った。
「いいえ、落ち込んでる場合じゃないわ!精一杯、今を楽しまなくちゃ!」
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