第68話 試食

「失礼します」

 ピーノが湯気をまき散らすパンケーキをお盆の乗せて入ってきた。

「わぁ!おいしそう!」

 きつね色の焼き目がついた表面からおいしいにおいが。

「変わった菓子だな。それにしても香りが良いな」

「普通のパンケーキには、バネラの葉で香りをつけさせていただきました」

「バネラ?」

 

 僕が首を傾げると、ピーノは満面の笑みを僕に向けてきた。

「カイム様の言う、バニラですよ」

「ああ、あれか!」

「バネラ…バニラの葉っぱを煮詰めて、パンケーキの水と混ぜて作りました」

 本物のバニラが葉っぱから香りがするかは知らないけど、この世界では、葉っぱから香りがするらしい。

「そのような使い方ができるのか…」


「カイム様も、子爵閣下も、冷めてしまいますから、お食べください」

「ああ、いただこう」

 僕は指と指を間に入れて、お祈りのポーズをとる。

 勿論、子爵閣下も同じようにして。

「いただきます」

 フォークとナイフを握ると、子爵閣下は、隅の方から切って口に入れる。


 まずは、メープルなしで。

「!!ふっくらとした甘みが口に広がる…。重曹にこのような効果が?」

「いえ、重曹はパンケーキのふくらみを増すために使っています。バネラをパンケーキに混ぜたから、だと思いますよ」

 ピーノが丁重に説明し、メープルシロップを子爵閣下に進める。

「こちらを掛けると、より甘みが増しますが」

「いや、今回は遠慮しておく。これは何もつけなくても食えるな」


 いつの間にか舌鼓を打っていた子爵閣下は、満足そうな顔でつぶやいた。

「これは菓子革命が起きるぞ…」

「そ、そこまでですか!?」

「ああ。ケーキは作れるが、このような発想は誰もしていないと考えると、お前の発想力に驚かされる」

「ありがとうございます!」

 初めて会った数時間前よりも、表情が明るい。


「確かにそうですね。でも、ケーキのスポンジは風魔術をつかって、膨らませていますし…」

 えっ!?そうなの?

 いや、元の世界の作り方は知らないけど。

「メイド、米粉パンケーキは?」

「あ、はい!もうすぐ出来上がりますよ!ウルちゃんが持ってきてくれますよ」

 軽やかなノックが響くと、ウル先生が入ってきた。

「失礼します。米粉パンケーキと、おかわりの紅茶をお持ちしました」


「これが、米粉パンケーキ」

 普通のパンケーキより少し白い分、きつね色の焼き目が綺麗に見える。

「いただきます」

 神に祈りを捧げると、ナイフとフォークを持ち直す。

「ん!?米粉パンケーキのほうが甘みが強い…。香りはしないな。そうか、バネラを使っていないからか。これは…ニンジン?」

「そうです。甘みを足すためや、食感を楽しむために小さくして入れてみました」


「パンケーキは、朝食にも食べれるし、おやつとしてもいただける、優れたお菓子ですから」

 ピーノは、オリジナルアレンジのパンケーキに向かって、満面の笑みをこぼしていた。




 最近は、『純文学チャレンジ』なるものを勝手に自分の中で開催しています。

 今週の投稿頻度が低かったのも、そのせいです。

 これから、面白くない話の週一投稿になるかもしれませんが、お付き合いしてくださると嬉しいです!

 あと、おすすめの作品・文豪教えてください!

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