第69話 決定
「ごちそうさまでした」
「いえ、ありがとうございます。失礼します」
ピーノとウル先生は、足音一つ立てずに部屋から出て行った。
「では、先程の話の続きをしよう」
「はい!お気に召していただけましたか?」
表情を見る限り、気に入ってはくれてそうなんだよね。
「ああ、とても美味しかった。是非ともレシピを教えてほしいものだ」
「あとで印刷してきますね。…えっと、僕の方からは、米を、」
「私の方からは、新作菓子、開発途中の菓子の試食品を」
「お米の相場は、いくらくらいでしょうか?」
「…大体、10キロあたり10000セルだな。ウチの菓子は一つ50円程度でつくっているから」
「…安いですね!」
「ああ、安心しろ。クオリティは高いと自負している。…正直赤字寸前なのだ」
「えぇ!?じゃ、じゃあ米11キロでお菓子200個でどうですか!?」
「それだとそちらが破産してしまうぞ!?」
「だ、大丈夫です!僕が魔術で何とかしますので!」
「で、では、一年はそうさせてもらっても良いだろうか?」
「ええ、も、勿論!一年でなくても、どうぞ!」
僕たちは焦りまくった結果、立ち上がって、固く握手していた。
「「お願いします!」」
「交易証書みたいなの、作りましょうか…?」
「ああ、頼む」
僕はこの空間に漂う、ほんの少しの二酸化炭素を紙に変える。
風魔術と着色魔術を混合魔術に変換して、即興のインクにした。
「内容は…」
「任せる」
分かんないんですけど…!?
”ジャスパー子爵領、セルトファディア男爵領、両領の交易について記す。
子爵領からは、開発途中の物も含む菓子200個、
男爵領からは、米11キロ。
以上の事は、一年の交易の約束で、それ以降は男爵領からの米を10キロにする、とかでいいんじゃないんですかね?”
あ、それでいいんだ…。
”適当ですから。形式とか知りませんし”
知らないのかよ。
「えっと、じゃあサインをお願いします」
僕は空気を変換して、同じ紙をもう一つ作り、ついでに羽ペンを作る。
「ああ、ここでいいか?」
「はい!」
達筆…すごい…。
「あ、ハンコもお願いします!」
シャチハタはダメだよ?
「…朱肉を貸してはくれないか?」
「はい!どうぞ!」
た、高そうなハンコ…。
「僕も書きますね」
ア●クサ、風魔術。完璧なリシエル語でお願いね。
”かしこまりました”
「書道でもやってるのか?」
「い、いえ?」
「いや、字が見事なものだと思ってな。それと、君の言動、大人びているな、それくらいは、男爵…爵位を持つものとしては十分な素質だと思うが、あれほどの魔術、男爵の年齢では習得できないはず。それなら、侯爵閣下に王宮魔術師として推薦されてもおかしくはない…。しかも此処は辺鄙で才能を伸ばすには惜しすぎる…」
「え、えっと?」
「君はなぜ王宮魔術師にならなかったのかね?」
「王宮魔術師ですか…。僕は…」
僕は言葉を詰まらせながら、ゆっくりと話し始めた。
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