第66話 図星

「では、これより、非公式会談を始めるとしよう」

 ジャスパー子爵閣下のその一言で、部屋が静寂に包まれた。

 僕はそんな雰囲気をぶち壊すかのように、ジャスパー子爵に話しかける。

「ジャスパー子爵閣下。僕はあなたが何の用でこんな辺鄙な場所に来たのか、知らないので、教えてくださいますか」

「…交易関係を結ぶために、こちらに赴いたまでだ」

 それだけではない。絶対に。

「それなら、僕が子爵領に行くことも出来ましたが」


「…私は侯爵領について知りたいのだ」

「僕も、子爵領について知りたいのですが」

 もっと核心的な理由。絶対にこれじゃない。

「私の目的は交易関係を結ぶことだ。それ以外に何か理由でも必要なのか?」

 少し苛立ちを含んだ口調で言う。おっと、怒らせちゃったかな?

「いえ、聞きすぎました。無礼をお許しください」

「ふん」

 鼻息を盛大に吐いた彼は、いつの間にか置かれていた紅茶に口をつける。


「ありがとう、ピーノ」

 僕はピーノに小声で感謝を伝えると、退出するように命じる。

「失礼します」

 いつもより恭しく礼をした彼女は、足音一つたてずに部屋を去っていった。

「では、どのようなモノをご所望でしょうか」

 交易にご所望は用いてよいのか、どうなのかは知らない。

 けど、どうにかバフと言葉遣いで、イメージを挽回したい。


「そうだな、そちらは稲作が盛んだと聞いた。こちらは川が通っていないのでな」

 米、か。もっと大量生産できる機構を作らなきゃ。

「そちらでは、何を作られているのですか」

「主に輸入したものを加工して、交易をしている。菓子が多いな」

「お菓子ですか…。具体的に説明をお願いします」

 和菓子とかもあるのかな?いや、それは日本から輸入しろって話か。

「エックスレッド、レジアン、スキーオム…。大体はリシエルの伝統的な食べ物だ」


 ピーノ、エックスレッドとレジアン、あるらしいよ(第59話参照)。

「すいません、どのような食べ物か教えてください」

「エックスレッドは、砂糖を多く含んだ焼き菓子だ。基本的には、薄力粉、卵、牛乳、砂糖、フルエユの実を使い、ピザ窯で焼き上げる。サクサクした食感と、フルエユの触感が楽しめる、有名な伝統菓子だ」

 クッキーに果物を入れた感じ?でもクッキーって牛乳入れないし、バターを入れる気がするなぁ。

「フユエルの実?」

「はぁ、そんなのも知らないのか。フユエルの実は、サクランボは分かるか?」

「はい」

 そりゃ知ってますよ。片方しか食べないと死んでしまうやつね。迷信だけど。

「サクランボと、オレンジ…はさすがに知ってるよな。それらを合わせた、小さめの柑橘系の果物だ。皮はかなり固いが、中身がゼリー状になっている」


 変わった食べ物だなぁ。やっぱり異世界オリジナルもあるのか。

「フユエルの実は、味付け、食感に使われているが、実は形を崩さないためにすりつぶして入れている製品もあるんだ」

「へぇ…。フユエルの実は単品でもおいしいのですか?」

「そりゃそうだ。しかし、ねっとりとした食感が嫌いと言う人も少なからず居るな」

 納豆のにおいと粘り気が無理って言う人みたいな感じかな…。

 あれ、ジャスパー子爵閣下、凄い話してる気がする。


「あのー、ジャスパー子爵閣下って、お菓子好きだったりします?」

「ぐきっ」

 図星だった。

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