第65話 胸熱

「ときにカイムくん。貴族と言うのは、傲慢だとは思わないかい?」

「何に対して、そう、思われたのですか?」

「質問に答えなさい。傲慢だとは思うかね?」

「思います」

 僕が言えることじゃないかもしれないけど。やっぱり、自分って俯瞰してみるのは難しいから、僕は他の人から見たら、傲慢かもしれないし。


「私もね、そう思うよ。話を変えよう。私は君に今まで虚言を吐いていたことをまずは謝罪しよう。しかし、正式な場では、虚偽はつかない主義でね。実は私、辺境伯になったんだ」

「ふぇっ!?」

「驚き方が斬新だな。キミのそういうところ、よく育てなさい」

「は、はい。お、おめでとうございます」

「ふふ、ありがとう。私はね、領地返上したんだ」


「左様ですか…」

「なんだね、その返事。面白いじゃないか」

 なんだこの人は!?何が言いたいのかが全然分からないぞ!

「私が言いたいのは、私はあの子爵が気に入らないのだ」

 また心が読める系ですか…。ご都合主義も甚だしいですぞ。

「そ、そうなんですか」

「君は大人びたところもあるけれど、やっぱり子供だな」

 はーい、中身四十路でーす★


「なんだ、その苦笑いは!?」

 子供だなんて、二十そこらの小娘に言われたくないですよー。僕のほうが実質倍生きてますからねー。

 おっと、失敬。

「まぁ、そうゆうことだ」

「どうゆうことですか」


「私にはあの子爵は傲慢に見えてしょうがないのだ。爵位も持たぬ使用人を演じるのは大変だったぞー」

「ありがとうございます。助かりました」

「もっと労え!」

「ウル先生がいなければ僕は対応に困っていました。ウル先生のお力は強大で素晴らしいです!」

「ふっふっふー。あ、ついたぞ」

「行ってきます」


 ウル先生は、フーっと、大きな息を吐いて、

「行ってらっしゃいませ、ご主人様♡」

 ハートポーズも加えて、やって見せた。前世の血が疼く。

 まって、今のチェキ欲しい…あー猫耳もありかもな。

「どうした、少年?」

「な、何でもないです…」

 鎧を着た彼女とは正反対のメイド服を着て、髪をアップにまとめている。

 うん、売り上げ一位だ。前世の僕なら100万は貢いでたね。ま、そんなお金なかったけど。


「行ってきます」

「ああ、頑張れよ」

 僕の肩をバシッとたたくと、どこかへ行ってしまった。

 僕はドアをノックする。

 反応なし。毒を仕込まれて倒れたとか?

 いや、僕の家の使用人がそんなことするわけないし。

「失礼します」

 

 中には、誰もいなかった。

 先に来てしまったようだ。なんだよ。

 僕はとりあえず、家具職人から買った、良家にありそうなよさげなソファーに腰掛ける。

 すると、ノックの音が聞こえた。

「そうぞ」

「失礼する」


 もちろん、入ってきたのはジャスパー子爵。

 僕は立ち上がって、ソファーへ勧める。ジャスパー子爵が座ってから腰を掛けると、一緒についてきたピーノが紅茶を入れてくれた。

「子爵閣下、ミルクはどうしましょう?」

「ストレートでかまわない」

「かしこまりました」


 ジャスパー子爵が一息つくと、話し始める。

「では、これより、非公式会談を始めるとしよう」

 刹那、会談室は静寂に包まれた。

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