第63話 来訪

 ジャスパー子爵に手紙を出して一週間。

 たまっていた木の板も片付け終わり、仕事の分類を行ってくれる機構もできて、だいぶ僕の仕事が減った。

「あ、ジャスパー子爵来たみたいですよ」

「えー、早すぎ。着替えたほうがいいかなぁ?」

 僕が今着ているのは、良い素材のシャツと膝上の丈ズボン。

「そうですね、不本意ながら礼儀というものがありますので」


 だよねー。一応僕が持っている服の中でも一番いい例の王子系ファッションの服だ。なんだかんだ気に入ってるからいいんだけどね。

「換装魔術、風魔術・炎魔術、混合魔術、発動。人間味上昇・好印象バフ付与」

 アレ●クサがいつの間にか開発していた最強バフ。ちなみに不死のバフなんてのもある。無敵じゃん。

「カイム様…そんなに魔術使えたんですか!?」

 あ、口で言っちゃってたみたいだ…。

 ”もうっ、このっ、お・バ・カ♡”


 吐き気がする。

「い、いや、隠れて練習してただけだから、僕が使えるのはこれくらいだよ…」

 嘘だよ…。

「まぁ、閑話休題。ジャスパー子爵に会いに行きましょう」

 待って、閑話休題って話してる途中に言うかな…?

 ”変わった方ですね…”

 お前に言われたくねぇーよ。


 僕たちは速足でネンガ村の入口に向かうと、馬車がもう止まっていた。

「お待たせしました、ジャスパー子爵。申し訳ありません」

 僕とピーノ、先にスタンバイしていた執事長おじいちゃんは深々と頭を下げる。

「いや、それくらいはどうでもよい。それより自己紹介だ。今更だがな」

「はっ、はい!」

 見た目はピーノが言ったとおりだけど、怖そうな人ではなさそうで、ちょっと驚いた。


「私はハス・ジャスパー子爵である。キミは?」

「僕はカイム・セルトファディア男爵です。今日はよろしくお願いします」

「ああ、とりあえず、会談に移ろうか。何処か話せる場所はあるかね?」

 結構人の領地でずけずけ口を出してくるなぁ。

 もう少し僕の指示に従う素振りでも見せてくれればいいのに。

「ふぉっふぉっふぉ、カイム様、しゃーねーですぞ」

 執事長が、髭をさすりながらそう答えた。

 心が読めるの!?……あれ、これ、デジャブな気がする…。


「会談できる場所…。そうですね、屋敷に行きましょうか」

 僕が昨日つくった、僕の正式なお家。今まで僕らの質素な家と、いろんなゴミを混ぜて作った本格的な屋敷。

 規模は小さいが、整った庭もついており、村全体の家の形もそれに合うように改変させてもらった。

 僕らは整備された石畳を数分闊歩すると、例の屋敷が見えてくる。

「おお!なかなか立派ですなぁ」


「昨日完成したんです」

「どうりで綺麗なわけだ。では、お邪魔させてもらうぞ」

「はい、こちらへ」

 屋敷の大きな扉を開くと、使用人たちが囲んだ玄関に出る。

「いらっしゃいませ、ジャスパー子爵閣下。おかえりなさいませ、カイム様」

 腰を折り、綺麗に礼をした使用人に、お疲れ様、と挨拶すると僕はジャスパー子爵…不本意ながら敬称をつけさせてもらうが…閣下の前に立つ。


「お疲れだと思いますので、少し休憩をはさみましょうか。そうですね、三時になりましたら、ミッディーティーブレイクを兼ねて、会談しましょう」

「いい案だな。では、少し休ませてもらう」

「客間をお使いください。ウル、案内を」

「かしこまりました。ジャスパー子爵閣下、わたくしウルがご案内させていただきます。よろしくお願いいたします」


 ウルは最近ジオラスにやってきた、

 男性の中に混じって、活躍する、若い女性剣士だ。

 女性剣士、と言うと筋肉質で浅黒な女性を思い浮かべる人も多いと思うが、全くの逆で、華奢で、色白で美人。

 身長は低いが、大きな両手剣を振り回し戦うスタイルから、《リトル・ベルセルク》という異名を持つ。

 本来の彼女の役目は、僕の剣の先生なんだけどね。今日は特別だよ。


「まず、客間にご案内いたします。お荷物とジャケットをお預かりします?」

「ああ、頼んだ」

 ”解析完了。ノーマルドラゴン Lv12の鱗が用いられた最高級ジャケット”

 …マジ?てか、頼んでないし。

 ”嘘です。普通のジャケットです”

 …良かったー!!僕は何に安堵しているのか分からないけど。


 僕はウル先生とジャスパー子爵の背中を見つめながらそんなことを考えていた。

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