番外編 リバースレイド*レイシアⅨ
アールグレイの香りが充満する部屋の中、奥方は口を開く。
「なぜ、進軍を止めたと思う?」
何か語ってくれるのではないのか。
「コストがかかるから」
「あれだけ準備したというのに?」
またあざ笑うようにそう、吐くと、紅茶を口に含んだ。
妙に喉が渇く。
あれだけ。私たちも屋敷中にスキルや魔術を発動させていたのだから、何かは分かる。
進軍準備の会議、いたるところに用意された武器、進軍がしやすいようになっている屋敷、領地。最後のは元々そうなっているのだろうが、他の領地はここまでしていない。
私たちが見ていない、見えていないところでもまだ何か準備しているというのか。
「面倒くさいからよ」
ビスケットを一口に食べると、また話だす。
「…屋敷中に魔術を掛けるなんて、安直なこと、良く考え付いたわね」
「ッ」
わかっていたが、やはりバレていた。
ただ、安直と言われるのは納得できない。
「最初の提案は、リーナですが」
「っ、そうなのね。なぜ乗ったの?」
すぐに冷静を取り戻した奥方は、高まる心臓を抑えるように深呼吸を繰り返す。
質問攻め。こちらの余裕を無くすつもりか。
「では、なぜ子供も気づいたと思いますか?」
質問返し。失礼に当たるが、今は気にしてられない。
「分からないわ」
「それはあなたが幼稚だからですよ。すぐ顔にでる、態度に出る。とんだお嬢様育ちですねぇ」
「そういうアナタはどうなの?そういうところ」
「はぁ?見ていて気付かないんですか。あぁ、見ていませんよね」
あれ、調子が狂う。誠実なはずなのに。
「馬鹿にしているの?」
「ええ、馬鹿にしていますとも。だって、子供に悟られるくらいの態度しかできないアナタに何ができるというんですか」
「はぁ。まぁ、いいわ。話を戻しましょう?」
「なぜ進軍を止めたか、それは」
妙な間を残してくる奥方を無視して、メイドに紅茶のお代わりを入れてもらう。
再びアールグレイの香りが鼻をかすめる。
「面倒くさいからよ」
「…で?」
「何で使用人のために軍を動かさなきゃならないのよ?」
知りませんが。
「何で他人の家を助けなきゃならないのよ?」
「ではなぜ進軍しようと提案したのですか?」
「イメージ挽回、挽回。私って性格悪いでしょ?」
違う。
「それだけ?」
「他にも?…レイシアに復讐するため。レイシアを殺すため。これでどう?」
「…そうですか」
ふと時計を見ると、とうに20時を過ぎていた。
緊迫した空間の中、口を開くのを躊躇った結果がこれだ。
「そろそろ失礼しますね」
私はソファーから立ち上がると、扉を開く。
「紅茶、ごちそうさま。失礼しました」
内心で舌打ちしながら部屋を出る。
得られた情報など無かった。無駄足だったことに後悔しつつも、足止めにはなったと思い、レイシア達が待っている部屋に戻った。
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