番外編 執事長の終活ノートⅣ

 坊ちゃんが、カン塔に地図を受け取りに行ったところ、ルノという娘が迎えてくれたそうで、地図は持って帰ってこなかったのじゃ。

 まぁ、忘れてるじゃろうなと思って、わしが取りに行く予定もあったのじゃが。


 まだ受け取ってないなら、わしが今から行って取ってきてやろうかのぅ。

 わしはカン塔に歩き出した。

 老人と言えど、専属老執事。体力はあるのじゃ。階段をダッシュで二階へ。


 まずは、ノック。真面目じゃよ。わしは。

「こんにちは、オッズ殿。居るかの?」

「オッズじゃないけど、いるよ」

 そのこえは、オズワルト殿だった。

「入っていいかの?」

「どうぞ」


 古びた木の引き戸をそっと開けて、中に入る。

「いらっしゃい」

 オズワルト殿は、裁縫をしている。

「おじゃましますぞ。前に頼んだ地図を受け取りに来たのじゃが」

 一瞬ぽかんとしたが、どうやらどこかで見たみたいで。

「地図?どっかにあるんじゃない?いいよ、探すの手伝ってあげる」

 

 紙の山を二人であさる。

「ねぇ、何枚?」

「五枚ですぞ」

 もともとは、木の板で作る予定だったが、坊ちゃんが大きな紙を作ってくださったのじゃ。それで、わしらは紙の山を探している。


「この絵は?」

 わしはオズワルト殿にとある一枚の絵を見せる。

 雨に濡れた天使が、空へ手を伸ばしている絵。どうもオッズ殿の絵に見えない。

 いや、オッズ殿も繊細な地図を描いてくださるのだが、やっぱり違うのじゃ。

「これは、俺が描いたんだ」

 

「わしは、この天使?。悲しそうに見えるのじゃが」

「そうかな。俺は喜んでいると思うんだけど…」

 絵画は、見る人によって違うと改めて実感する。

「絵画展でもやったらどうじゃ?」

「それは、オッズに相談してもらわないと」


 オズワルト殿と、オッズ殿では、作品量が天と地ほどの差がある。

「そうじゃすの。あ、一枚目発見じゃ」

 百円ショップで売っている世界地図なみに大きい地図。

「じゃあ、これとかもそう?」

 オッズ殿の絵には、地図のような、わしには分らん芸術が満載だから、地図か絵か分からないのだ。


 紙の山の上に広げたそれは、紛いなく、地図である。

「そうじゃ、それを見つけてくだされ」

「了解、爺さんもほどほどに休んどけよ?」

 オズワルト殿は、意外と優しい。

「ふぉっふぉっふぉ、これでも坊ちゃんの専属老執事。体力はありますぞ」

 わしは、マッスルのポーズをとる。そうすると、オズワルト殿がプッと噴き出して笑った。

「意外と筋肉あるんだな、ぐ、ふふふふふっふ」

 

 執事服から浮き出て見える上腕二頭筋にツボっていた。

「ふぉっふぉっふぉ、自慢ですぞ」

 左腕もマッスルして見せる。どうじゃ、わしの上腕二頭筋は?

「もうやめて、笑いが止まらん、ふ、へ、くふふふ」


 お腹を抱えて笑うオズワルト殿は、いつもの少しツンとした雰囲気よりも、魅力的で、何より年相応に見える。

「ふぉっふぉっふぉ、腹筋も割れておりますぞ」

 六つ超えて八つに割れてるのじゃよ。すごいぞ、凄いんじゃ。

 オズワルト殿に追い打ちをかけながら、地図を探すと、三枚目が見つかった。

「さあ、あと二枚も見つけましょうぞ」

「…うん、了解」

 満面の笑みでうなずくオズワルト殿は、坊ちゃんと似ていた。

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