第35話 商会

 一時間ほど、馬車に揺られているとセルトファディア領最大の町が見えてくる。

 大通りに入ると、すぐに路上販売の姿が見えた。


 馬車に乗っている間に詰めてきた綿を商品に変えていく。


 ジオラスが窓から顔を出し、興奮している。

「おぉ、すごい!いっぱいある!」

 おっと、キャラ崩壊ではないか?ジオラスくん?

「あっ、え、ああ、ふはははは、我が元居第三号世界でもこのようなものがあったなぁ。いくつの時だったか…、五百年以上前のことだな…」

 お、気づいたか?

 無駄に三点リーダー使う喋り方しないでくれよ。痛いよ?


「ここらへんで降りようか」

 風魔術でスピードを落とし、馬車置き場に向かう。

 僕たちと同じくらいの馬車はいくつかあるが、やはり大きいほうである。

「よいしょっと、」

 僕は馬車から降りると、荷物を下ろすのはみんなに任せて、最年長おじさんのアレルさんと、案内所に向かう。


 馬車置き場に併設しあるから、近くて便利だね。

「こんにちは」

「こんにちは、路上販売のお手続きですね?」

 女の人が丁寧に対応してくれた。

「はい、僕たち初めてで」

「分かりました。ではまず、こちらの木の板に商会と代表者の名前を書いてください」


 …商会?僕たち、フリーだよね?

「すいません、商会に所属していなくて…」

 アレルさんが申し訳なさそうに説明してくれた。

「では、商会を作ってしまいましょう。こちらの木の板に、私の指示通りに書いてくださいね」


「ありがとうございます!」

「では、まず、商会名を」

 名前かぁ。セルトファディア商会は多分あるよね…。

「セルトファディア商会では、無理ですよね…?」

「そうですね、領主様の商会が、その名前を使っていますし。ほかの名前でお願いします」

 

 僕とアレルさんは、十分くらい悩んだが、結論は…。

「…ジオラス商会でお願いします…」

「はい、では、次は代表者の名前を」

「カイム・セルトファディアでお願いします」

 本名で大丈夫かな…?


「せ、セルトファディア!?え、あっ、え!?」

 ちょっと大丈夫!?すごく焦り始めたけど…!?

 深呼吸を続けること数分。

「わ、わかゕっりましたっぁ、えっと、では代表者は、カイム・セルトファディアさんで、よろしいですね?」

「はい、お願いします!」


「えぇと、確認にカイムさんを連れてきてもらえますか?」

「?僕がカイムですよ?」

「あぁ、っ、えぇっ?ぇえっ、あぅ、ん?ぁっあ、あ、はい、分かりました…」

 女の人は泡を吹きそうな顔で驚いて、へろへろになっている。

 そこまで驚くかな…?


「はい、商会の登録は完了しました。では、路上販売許可書を発行しますね」

 少し落ち着いた女の人は、許可書を小さな木の板に書き込むと、僕に渡してくれた。

「頑張ってくださいね」

「はい、ありがとうございます!」


 僕たちは、ジオラスのところへ戻ると、全部おろし終わっていた。

「ふははは、遅かったな。しかし、俺にしては刹那のことであったが…」

「うん、お待たせ。ありがとうね」

「えっ、そ、そんなこと言っても何も出ないからな!」


 うーん、微妙にズレたツンデレと中二病は一緒に患うとめんどくさいよ。ジオラスくん。


 僕たちは苦笑いしながらも、荷物をカートに乗せて、準備を始めた。

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