第32話 別人

 オッズくんは、立ち上がると、ふらふらしながら、部屋に入っていった。

 僕たちは、オッズくんに続き、部屋に入った。


「で、お前らは誰なの?」

 いつものふわふわした口調から、尖った感じの口調に。

 優しそうで天然っぽい顔から、きりっとして、少し悪そうな顔に。

 僕たちの知っているオッズくんとは、まるで別人になっていた。


「あ、えっと、僕はカイム・セルトファディアです」

 長い髪を耳にかけながら、ふーん、とつぶやく。

「あの、あなたは?」


「オズワルト。オズワルト・・セルトファディア。よろしく、本家のお坊ちゃん」

「せ、セルトファディア!?じゃあ家族!?」

「なわけねぇよ。ジン、ジンだ。知らねぇの?」


 ジ、ジン?え、ジン?僕そんなん知らないってば…!?


「ふぉっふぉっふぉ、坊ちゃん。ジンというのは、現当主様の弟君、婚約者、シシア様の苗字ですぞ」

「父さんに、弟さんがいるなんて知らなかった…。え、えっとじゃあ、オズワルトさんは、シシア様の子供ってことですか?」

 つまり、従兄いとこだよね。家族じゃん。


「あぁ、一応ね。あんな奴の子供なんて、お断りだからな。で、お前がカイムだっけ?」

「あ、はい、そうです!」

「何?お前は才能アリなの?」

「いえ、無能なので左遷されてきました!!」


「左遷されてきたこと、そんなにはっきり言っちゃうか?普通、もう駄目だ…とかってなるだろ」

 いや、望んで左遷されてきたので。

「まぁ、いいや。で?なんか用?」

「いや、オッズくんが、強打して心配で来たんです」


「あー、大丈夫、大丈夫。よくあるから」

 よくあっちゃいけねぇだろ…。

「それと、えーと、オズワルトさんが、オッズさんってことですか?」

 日ほ…リシエル語なんか変な感じだけど…。

 でもこれって、あんまり聞いちゃいけないことかな。


「は?元々が俺、迫害と追放のストレスが原因でできたのがオッズ?ってやつだろ」

 つまり、しっかりオッズくんを認識できてないってことかな?てか、!!

「は、迫害!?追放!?僕って、そんなひどい扱い受けてないよ!?」

 ”受けてますよ?”


 え?


「いや、貴族あるあるだから。無能は俺みたいなやつが大半で、お前が例外。運が良かったな。どうせ、体裁とか気にしてってことだろ?」

 おぉ、言い当てられてる!!うん、体裁って言ってたもんな。

「俺は、異常なまでに、って、自分で言うのもなんだが、愛されてたんだ。それで、五歳の儀式んときに、外れスキル〖換力かんりょく〗っていうやつで。異常な愛情と迫害の差が激しすぎたってことがあったんだ」


「かんりょく?」

「回復するはずの体力が、芸術の才能に自動変換されるスキルだ。最低限の体力しかこの体には無い」

「だから、こんなに絵や、彫刻が上手なんですね。すごいです、オズワルト様」

 ピーノは心の底から褒めているように見えた。


 それから、いろいろ話していると、オズワルトさんが急に立ち上がった。

「はぁ、俺疲れたから、寝る。きっと明日にはお前らが言ってるオッズになってるよ。じゃあね」

 オズワルトさんが、あっさり三階の寝室へ行ってしまった。


 僕たちは、階段を下り、街道に出た。

 あたりはすっかり赤い光に包まれていた。

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