ガラン・エルディン
「なぁ、お前の力を貸してくれないか」
ひとしきり笑い終えた僕は目に浮かんだ涙を拭っていると、突然ガディにそう言われた。
「はぁ?」
唐突にそんな事を言われて間抜けな息を漏らしてしまうのは僕だけでは無いはず……と思う。
一瞬、さっきまでの流れでふざけているのかなって思った。ただ、ガディは口の端を上げニヤリとしてはいたけど僕を見つめる眼差しは真剣そのものにも見える。
僕が惚けてガディを眺めていると、ガディは「よっ」っと言って立ち上がり短く声を出した。
「説明は後だ。お前に見せたいものがある」
そう言って僕を見つめるガディだけど……見せたいもの? 何?
見上げながら動けずにいた僕から視線を女性の方に向け、五人で頷きあった後でガディは僕に視線を戻す。
そして、僕の肩に両手を置くとグッと掴んだ後で思いっきり宙に投げ上げた。
「はあっ? はぁぁぁっっっ!?!?」
上空に放りあげられ、遠ざかるガディ達を戸惑いいっぱいのまなざしで見ていると、人間の姿だったガディがムクっと膨れ、みるみるうちに盛り上がり元の竜王の姿に戻った。
次の瞬間、竜王は上昇する僕目掛けて舞い上がってくる。
何で放り挙げられたのかも分からないまま困惑する僕に急接近する竜王。
空中ではなすすべが無い僕は竜王の右手に握られ、そのまま左肩に乗せられて上昇して行った。
「どうだ、竜王に載せられるのは? いい気分だろ?」
なんて言われても、グングン上昇するスピードと全身を押し付ける圧力のせいで気分も何もあったもんじゃない。
目は開けれていたけど竜王の首元にしがみついて上昇の圧力に耐えるだけで見える景色は青い空と白い雲のみ。
元より高いところは苦手では無いけど、竜王が何処まで上昇するのかが分からないだけに徐々に恐怖感が湧き出してきた。
「何処まで上昇するのさぁっ!」
「ああっ? 何か言ったかあっ? 聞こえないからもっとデカい声で言ってくれっ!」
っと、巨大な竜王の大きな口から大声で言われたもんだから鼓膜が破れるんじゃないかと思うくらいに痛かったし。
「だからぁっ!!! 何処まで上昇するのかって聞いてるんだよぉぉぉっ!!!」
人生で最大の大声を上げてそう聞くと、突然上昇の圧力が無くなり竜王の声が聞こえた。
「着いたぜ、見てみな」
とは言われても、ようやく上昇の圧力から解放され一気に脱力した僕は竜王の首元にしがみついてただけなのに物凄く疲れている。
それでも荒い呼吸を強引に抑え、僅かに動悸が収まったタイミングで視線を少し下げて……その絶景に驚愕した。と言うか目を疑った。
語彙力貧弱なもんで分かりにくいかもしれないけど、僕の視界には広大な土地の中に大小五つの市街地なのか都市なのか。異世界だからそんな表現があっているのか分からないけど、とにかくさそんな場所が確認出来た。
目を凝らしてもっとよく観察しようとして身を乗り出すと、竜王が短く声を出してきた。
「案内してやるよ、しっかり捕まってな」
そう言った後、竜王はゆっくりとその場から前進し始めた。
多分、僕がしがみつくのを待っていたのだろうと思う。僕が竜王の首元に両手を伸ばして大きな鱗にしがみついた後でスピードを上げて降下して行った。
降下するスピードを緩めた時に竜王は真下の街を見ながら言ってくる。
「ここがヒュドラが統治してくれている森の街だ。風光明媚で穏やかな人々が多い」
竜王の言う通り、大きな山脈の麓にあって森に囲まれ街の中を大きな川が流れてて、とても穏やかそうな雰囲気を醸し出しているように見える。
「次は……」
と言って竜王はスピードを上げて山脈沿いに左回りで飛び始める。
それから直ぐに火山が見え、その麓辺りに別の街が見えてきた。
火山のせいか少し暑くて汗が滲んでくる。
「あれがサラマンダーが統治してくれている火の街だ。少々気性は荒いが、頼りになる連中ばかりの熱くて温かい街だ」
その街の上空を過ぎた頃「次……」っと言って左に旋回しながら加速すると、目の前に広大な草原の中に先程よりも大きな街が見えてきた。
「あれがワイバーンが統治してくれている風の街だ。音楽が盛んで陽気な連中ばかりの楽しい街だな」
そこからさらに旋回しながら加速すると、海なのか湖なのか。とにかく広い水面が現れ、大きな街も見えてきた。
「あれがリヴァイアサンが統治してくれている水の街だ。活気があって行動的な人々ばかりの住む街だ」
「そして……」っと言って竜王はグンっと左に急旋回して加速すると、今までの街の何倍も大きな街。それこそ都市と言ってもおかしくない広大な街の上空に差し掛かる。
「これが俺の統治している中央の街だ。生真面目なヤツらばかりだが人情あふれるいい街だ」
そう言った後、竜王はその街を通り抜け最初に上昇した場所に戻っていく。
上昇を終えて先程と同じ景色を見ながら竜王は言った。
「これが俺達の世界『ガラン・エルディン』だ」
何となく自慢げな口調だったけど、ただ街の上空を通り過ぎただけだけど、何処の国も自慢に値するくらい素晴らしい場所なのは良く分かった。
何故なら、行く先々の国で僕達……竜王に気付いた街の人達が笑顔で竜王に手を振っていたし。
それに、国を案内してくれている時も『統治してくれている』って言い回しで感謝の気持ちも感じられたし。
もっと言えば、案内を始める前に動き始めた時は僕がしがみつくまではスピードを抑えてくれていたし。
こんな気遣いや感謝が出来る王様が人々に愛されていない訳が無い。
あれだけ僕と死闘を繰り広げたのに、勝負を付けることが出来なかったのに、死ぬつもりで倒すつもりだった僕に明るく接してくれる……
同じ王様だけど、あの国の王様と比べるのが失礼なくらいガディはいい王様なんだと確信できた。
「捕まってろっ!」
僕が少し感傷に浸っいると竜王はいきなり大きな声で言い放つ。そして、元いた場所に急降下して行った。
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