笑った

「さっきも言ったようにお前の力は本物だ」


 ひとしきり笑った後、ガディは僕に視線を向けて先程の言葉を繰り返すように言った。その目には笑いすぎて薄らと涙が浮かんでいるのがムカつくんだけど。


 ただ、僕もその話は気になっていただけに、ようやくその話題に戻ってくれてホッとしている。あのまま笑われ続けていたらガディどうしてやろうかと真剣に考えていたくらいだったし。


「まぁまぁ」と、僕の憤りを片手で制すると、ガディは何故か背筋をピシッと伸ばして声を出した。


「あの剣は1800年前に俺の爺さん、先々代の竜王が作ったものだ。まぁ、その頃からこの世界では度々異世界から人間を召喚していたってことになる。だからこそあの剣を作ったらしい」


 まぁ、異世界人を保護する目的で作られたとはさっき聞いた話だし。


「ただな、武器って言うのは作った者以上の力は出せないものなんだ。分かるか?」


 自分で作った武器は自分を倒せない。オタク好みの王道な設定なのだと理解したんだけど。


「まぁそんなとこだ。つまり、ドラゴン族が作った武器ではドラゴンを傷付ける事は出来ないと言うわけなんだ。が……俺たちを見てみろよ」


 っと言われ、僕はガディや他の女性たちに視線を向ける。はっきり言って傷だらけだ。例え元の姿がドラゴンてあっても申し訳なさでいっぱいになってしまう。


「別に気にする事はないさ、お前は利用されてただけだしな」


 っと言って笑顔を向けてくれるけど、その慰めの言葉も虚しくなってしまう。


 「(何だよ……『お人好しスキル』って……むぅぅっ……)」


 思わず口を尖らせてしまった。


 そんな僕の姿が可笑しかったらしく、ガディはもちろん他の女性たちもクスクスと笑いだしたもんだから余計に恥ずかしくなってくるし。


「まぁとにかくだ、お前はドラゴンには傷を付けることが出来ない剣で俺達をこんなにしたんだ。つまり、今までのなんちゃって勇者と違いお前は本物の勇者だって事になる。クズの様な下の人間だが見る目はあったみたいだな」


 そんな事を言われたってちっともピンと来ないんだけど。それに、なんちゃって勇者って……まぁ剣の影響で勇者に仕立てられた異世界人の事なんだろうけど。


 でも、異世界人ってそんなに昔から召喚されてたのかぁと呟くとガディはすぐに教えてくれた。


「俺が竜王になって五百年経つが、『導きの剣』でここまで来た勇者モドキは19人。お前で20人目だよ」


 つまり、25年周期で異世界人の召喚が行わてるって事になる。けど、何で?


「『嵐の隙間』、だな」


 っと言うガディの言葉で僕はここにたどり着く前にバランさんの言葉を思い出す。


【なんせ何十年に一度しか頂上を拝めねぇ『嵐の隙間』に合わせて勇者を召喚したんだから、是が非でも成功させなきゃならねぇしな】


 何となくだけど、僕がこの世界に召喚されたのは理解出来た気がする。


 あの王様の都合のいいようになりそうな人物を考え『遠見の魔法』とかで僕を見つけた。そして『嵐の隙間』の前に召喚し、ありったけの恩を着せて馬鹿虫まで忍ばせた。


 しかも、あの国ではエクスカリバー(?)は『生贄の剣』と呼ばれてて、王様は最初から僕を生贄にして白花はっかを手に入れるつもりだったと。


 あの国の人々のしたたかさにまんまとやられた僕は疑うこと辞め、この場所までやって来て白花をバランさんに渡してしまった。


 どれだけ踊らされてたのかと思うと情けなさよりも呆れの方が湧き上がるし、今はだんだんムカついてくるし。


「まぁそこまで落ち込むなって。そこそこいい思いもしてたじゃないか」


 っと言いながら嫌らしい笑顔を向けるガディ。それに合わせてジト目を向けてくるドラゴンの女性達。



 ……思い出させないで欲しかった。



 ムカついた気持ちをガディの言葉でへし折られ、汚いものを見る眼差しを四人の女性に向けられ、しゅんとなって俯いてしまう僕。


 別の意味で死にたい。


 そう思うこと暫し……


「プッ……クククッ……アッハハハハハハハハハッッッ!!!」


 突然吹き出したガディが大声をあげて笑いだした。同時にドラゴンの女性達も実に楽しげに声を出して笑い始めてるし。



 ……なんだよ、皆んなして僕のことを馬鹿にして。



 そりゃあさ、お人好しな性格に目を付けられて召喚させられてさ。勇者だ勇者だと持ち上げられてご馳走三昧だったよ。


 王宮での生活は朝から晩まで至れり尽くせりだったし、夜の方……ゴホゴホッ!


 それもこれも結局は僕をいいように利用した挙句に生贄にするためだったんだから。言ってしまえば僕は被害者なんだ。


 だからそんなに笑う必要なくない?


 口を尖らせてそう抗議するけど、笑い続けてる光景に「フンっ!」と鼻を鳴らしてそっぽを向くけど。


 だけど……


 ガディや女性達の楽しそうな笑い声や笑顔を横目で眺めていると、何となく和んでくるのが不思議だ。


 僕の滑稽さに笑っているのに、『お人好しスキル』って名付けられた僕のハッキリしない性格を笑われているのに。



 でも、何となく自分でも可笑しくなってきた。



 そりゃそうだ。


 客観的に見たら召喚されてからの僕の所業は誰だって笑うだろうし、今現在の僕だって呆れて苦笑いだし。笑われて当然だから反論も出来ないし。


 本来ならここまで笑われたら怒っても不思議じゃないんだけと、何となく怒る気分になれない。


 馬鹿にされてるようで……さげすまされてるようで……


「(フッ……)」


 でも、全く嫌な気分にならないのは何故だろう。ムカつかないのは何故だろう。


「(フフッ……)」


 それよりも……なによりも……


 可笑しくなってきた。


「(フフフッ……)」


 ガディの、女性達の楽しそうな笑い声でこっちまで楽しい気分が湧き上がってきた。


 そして……僕は……僕も……


「フハハッ……アハハッ……アハハハハハハハハッッッ」


 大きな笑い声をあげてしまった。


「アッハハハハハハハハハッッッ!!!」


 ガディも笑ってる。


「「「「アハハハハハハッ!!!」」」」


 女性達も笑ってる。


 考えてみたら僕はこの世界にやって来てさっきまで笑った記憶が無い。いい気分にされて喜んだけど笑った記憶が全く無い。


 豪華な料理に煌びやかな寝室。夢のような夜。


 戦いに出れば連戦連勝。どんなに凶暴で凶悪そうなモンスターも派手な魔法と剣撃で秒殺ばかり。


 笑ってしまいそうな事ばかりだったのに、ちっとも楽しいとは思わなかった。思えなかった。



 ただ、恩を返すのに必死になってただけだ。



 だけど……こんな滑稽な僕をガディ達は笑ってくれている。


 その笑い声が……この楽しげな雰囲気的が……有難かった。嬉しかった。


 だから僕も笑った。


 大きな声で、ガディにもドラゴンの女性達にも負けないくらい大きな声で、楽しく笑った。


 楽しくって可笑しくって僕達は笑い続けるのだった。


「アッハハハハハハハハハッッッ!!!」


「ワアッハハハハハハハッッッ!!!」


「「「「ウフフフフフフフフッッッ」」」」

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