お人好しスキル

 何だか他人事のように言われてちょっぴり不機嫌になった僕は、先程のガディの真似をするように口を尖らせて唸った。


「むぅぅぅっ……」


 まぁでも確かに僕が戦っている時、バイトさん達も義理堅いがどうのって言ってたし。何だか本当に馬鹿にされたようで、さらに口を尖らせる。


 そんな僕を見てガディは大笑いした後に楽しげに言ってくる。


「あっはははははははっっっ!!! 良いじゃねぇか義理堅いのも。俺は好きだぜ、特に馬鹿正直なヤツはな。まぁ、お前は『お人好しのスキル』の持ち主ってことだな」


 こっちも僕を馬鹿にするような事を言ってくるし。


「フンっ!」


 そう言ってそっぽを向く僕に「悪い悪い」と楽しげに言ってくるガディ。本当に悪いと思っているのかと思ってしまうのだけど。


 するとガディは軽くため息を吐いた後に言葉を出した。


「だから、アイツらの為にお前が死ぬ必要は無いんだよ。それに義理を果たそうとする必要も無い。お前は利用されてただけに過ぎないんだからな」


 確かに僕はこの戦いで死んでもいいって思ってた。


 簡単に死ぬなんて馬鹿な話だと思ってた僕だけど、利用目的だったらしいけど、あれだけ良くしてもらって無下に出来るほど僕は薄情者じゃない。


 そんなところを利用されたんだろうとは思う。だけど、例え利用目的だと分かっても信じていたかった。


 王様の目的が世界平和じゃなく不老不死の白花はっかと分かっても、僕ひとりに戦わせ白花を手に入れたら逃げようとしていたパーティーの真意が分かっても信じていたかった。


 信じたまま、死んでしまおうとまで思った。


「(これ以上、利用されたくもなかったし……)」


 こっちが本音なのかも知れないけれど。



 僕はなんて馬鹿なんだ。


 お人好しが過ぎて利用され、信じたくって信じられないことは聞かないことにして……最悪だ。


 そんな事を考えていると、ガディがとある方向に視線を向けているものだから僕もそちらに視線を向けた。そこには僕が使っていたエクスカリバー(?)が地面に突き刺さっていた。


 すると、エクスカリバー(?)に視線を向けていたガディが真面目な声で言ってきた。


「お前はあの剣が勇者しか抜けない剣と思ってなかったか?」


 確かに王様はそんな事を言っていた。でも……


「違うの?」


 僕の疑問にガディはため息を吐き、視線をこちらに向けて答えてくれた。


「あの剣は異世界人なら誰でも手にする事が出来るもんなんだ。そして、あの剣を手にした者は生贄になる。その名もズバリ、『生贄の剣』だ。一度あの剣を手に取れば、剣の力でずば抜けた身体能力と魔力を得る事が出来るんだ」


 確かに、あの剣を抜いた時から僕には信じられない力を得た。それは、僕の潜在能力じゃなく、剣の影響だって事も気付いてた。でも、どことなく聖なる力とは違う気がしてたからエクスカリバー(?)と呼んでいた。


 あの剣の本当の呼び名が『生贄の剣』なら、僕は誰の生贄になるんだろうと思う。すると、ガディはニヤリと笑って短く言った。


「俺だよ」


 ……まぁ、この流れなら当然かなと思いつつ、僕は深くため息をついてガディを見つめる。それを見ていたガディは肩を軽く竦めた後に説明してくれた。


「何かの古い伝承だ。竜王に願いをする時は生贄が必要だと誰かが書き残したんじゃないのか? そんな事をしても無駄なんだが未だに信じられてたんだろうな」


 もし、それが本当ならあの王様は最初から僕を生贄にする為に召喚したって事になる。しかも、僕のお人好しな性格を利用して。


「まっ、そんなところだ!」


 っと、楽しげにしているガディ。


 何だか頭が痛くなってきた。まんまRPGの世界をリアルに体感させられて正直うんざりだ。こんなのはゲームの中だけでいいと強く思うし。


 ただ、今までの事は実際にあった事だし体感したから間違いないし。治癒魔法を受けて大きな傷は無くなっても、小さな傷や身体の痛みは本物だし。


 それに、あの剣のおかげで勇者パワーを手に入れたけど、結局あの剣を手にしなければ僕は無力な元のゲーマー。ゲームの無いこの世界じゃ一般人以下。


 考えれば考えるほど、嘆けば嘆くほど憂鬱になってくる。けど、僕の嘆きを聞いていたガディは真剣な声色で言ってくる。


「いや、お前の力はあの剣とは関係ない。俺と渡り合ったあの力は正真正銘お前の純粋な力だ」


「(はぁっ???)」


 ……またまた理解が及ばない。


 先程あれだけ『生贄の剣』の話をしていたのに、今度は一転して僕の力だと言われても説得力も何もありはしない。


 なのに、ガディの説明は止まらないし内容は驚愕そのものだったし。


「あの剣は『生贄の剣』と呼ばれているが、それは下の人間が勝手に付けた名前だ。本当の名前は『導きの剣』と言うんだ。別の世界から召喚された人間を呼び寄せて保護する為の道具さ」


 何だか真逆の事を言われてるような気がするけど、ガディの説明はまだまだ止まらなかった。


「下のヤツらの勝手な都合で召喚された人間が振り回されるのは同じ世界にいるものとしては見るに耐えられるもんじゃない。だから、あの剣を握らせ力を持たせ、生贄の様に仕立てあげてこの場所に向かわせる。それが本来の、あの『導きの剣』の役目だ」


 つまり、あの国に召喚された僕みたいな異世界人を助けてくれる為……って事なのかな?


 僕の疑問に即答のガディ。


「あの国だけじゃないさ。下の四つの国は似たりよったりの思考の持ち主で支配欲の塊だ。常に隣国の領土の奪い合いの歴史を刻んでるのさ。だから『導きの剣』は常に四つの国の何処かに突き刺しているって訳だ」


 その剣は『生贄の剣』と呼ばれているからその国の人は近寄らず、召喚した異世界人に持たせて剣の力で勇者に祭り上げて竜王討伐に、生贄として向かわせる。


 もし、僕があっちの世界に戻れたらゲームクリエイターとしてこのネタを使うだろう。絶対に売れる。何せ、リアルに僕が体感したから臨場感溢れるゲームを創る自信があるし。


「そいつは無理な話だな、一度召喚された者は二度と元の世界に戻れない。自然の摂理だ」


 この異世界的設定は揺らがないらしい。


 そしてガディは再び僕を馬鹿にするように笑い出す。


「ワハハハハハハハハッッッ!!!」


「フンだっ!」

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