ジャンケン?

「「ハァハァハァ……ハァハァ……」」


 どれくらい僕達は激突を繰り返したのか分からない。疲れ果てて荒い呼吸をする以外の行動をすることすらも出来ない。


 結局、僕と竜王の戦いは決着がつかなかった。


 剣での連撃の末、握力が無くなった僕達は同時に剣を弾き飛ばされる。


 最後は体内の魔力を全て注ぎ込んだ魔法を放つも威力は互角。ぶつかり合って大爆発を起こし、体力も魔力も使い果たした僕達はその場に崩れ落ちてしまった。


 そこからはもう指一本すら動かせる力もなく呼吸を荒らげるばかりだったけど、ようやく呼吸が整い始めた頃に僕は上体を起こして竜王を見る。


 竜王は未だ大の字になって呼吸を荒らげているし。


 その時に気付いたんだけど、どうやら僕達の激突は激しすぎていたらしく、最初にこの場所を見た時は緑の草原で真っ白な花園の風景だった。けど、今はその光景は変貌していた。


 僕達を中心に50メートル程の浅いクレーターが出来ており、茶色の地面が顕になっている。その円形状の端に等間隔で四人の傷だらけな人間が立っている。


 まぁ、竜王が擬人化出来るのだからあの四人は僕が傷付けた四体の竜で間違いないだろうと結論付けることが出来た。


 何となく周りを見回すけど、どうやら戦闘前の白い花園も無くなっているようだ。


「(良かった、一輪だけでも渡すことが出来て)」


 火傷や切り傷まみれの僕だけど、僅かばかりの達成感を覚えたその時だった。


 突然、竜王が大声を上げて両手両足をバタバタと動かし始める。


「うぉぉぉぉっっっ!!! 勝てなかったぁぁぁっっっ!!! 悔しいぃぃぃっっっ!!!」


「(はぁ???)」


 それはまるでひと昔前の漫画で見た駄々っ子の様で、同じ年くらいに見えた竜王が今は小学生くらいに感じてしまう程の行動だった。


 暫くジタバタしていた竜王だけど、ピタッと動きを止めたかと思えばバッと上体をおこした。ただ、その表情……驚愕よりも困惑の表情を僕に作らせるのだった。


 竜王は口を尖らせ目を細め、不満タップリの表情を露わにして声を出してきた。


「お前さぁ、ちょっと強すぎなんじゃね? この俺が勝てねぇなんて有り得ねぇし。マジ悔しいんですけどぉ……」


 なんだかその言い回しが僕の同級生話し方のようで違和感が半ハンパなかった。


「お前の波長に合わせて喋ってんだよ。分かりみが深いだろ?」


 分かりみって……まぁここは異世界何だからいちいち突っ込むのもアレだし。そこのところはぼやかしててもいいのかなと思いつつ竜王を眺めていると、彼は突然決意の籠った表情になる。


 そして言ってくる。


「よし、これが最後の勝負だ。これで決着が付かなかったらそれで終わりだ!」


 例え上体が起こせてもそれ以上の事は出来ないのに、さらに勝負を求めてくるなんて。完全にやる気を失っている僕からしたら、その提案は呆れ以外の何ものでも無かった。


 ただ……僕としても消化不良なところは僅かながら残っていたために、今一度気持ちだけを引き締めて竜王を睨みつける。


「分かった、最後の勝負だ。負けないよ!」


 僕の返事に「上等……」っと言ってニヤリと笑い、そして勝負方法を提示してきた。


「最後の勝負はジャンケンだ! しかも三回勝負の文句なし。いいな」


 異世界で相手が竜王で最後の勝負がジャンケンって……今までの激闘は何だったんだと憤ってやりたかった。けど、それでも勝負が着くならと僕は強く頷いて短く答えた。


「分かった、やろう」


 とは言え双方立ち上がることは出来ず、その場で右手を振り上げ一気に掛け声を上げた。


「「じゃぁんけぇんホイッ!ホイッ!ホイッ!」」


 連続の三本勝負。差し出した手のひらの形。


 嫌になるほど同じ形が繰り出され、あいこで固まる僕と竜王。


 苦笑いの僕に対し竜王は再び口を尖らせて悔しそうにか細く声を出す。まぁ、聞こえてるんだけど。


「負けてねぇから問題ないし……」


 その表情と言い方が、本当に僕の世界の同級生っぽくって思わず吹き出してしまった。


「プッ……フフフッ……あははははははっっっ!!!」


 すると竜王は恥ずかしいのか怒っているのか分からない表情となって声を荒らげてくる。


「なっ! おまっ! 笑いやがったなチクショウっ!!! お前だって俺に勝てなかったじゃねえかっ!」


 確かにそうだけど、勝てなかったことは悔しいんだけど、それでも可笑しかった。何でか分からないけど心底笑いしか出てこなかった。


「あはははははははははっっっ!!!」


「お前なぁ、笑い過ぎだっつうのっ!」


 っと、竜王の憤慨する声が聞こえるけど僕は笑うことを止めなかった。止めれなかった。とにかくお腹の底から笑いが込み上げてきて止まらなかったのだ。


 涙が出るしお腹が痛くなるけど笑い続けることしか出来なかった。


 すると、僕の様子を眺めていた竜王が不満そうな顔からフッと息を漏らして軽く微笑んだ直後、顎を持ち上げて大きく笑い声をあげる。


「はぁっははははははははっっっ!!!」

「あっはははははははははっっっ!!!」


 負けじと僕も笑い声を大きくする。こんなにも僕は負けず嫌いな人間だったんだと認識する程に僕は……僕達は笑い続けるのだった。


「わぁっははははははははははは!!!」

「あぁっははははははははははは!!!」

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