大激戦

 ひとしきり宙を舞い、頃合いを見て地面に足を伸ばして後退させられる勢いを殺す。緑の草原に20メートル程の土を抉った所で停止した僕は勢いよく振り返って右手を突き出した。


「これを持って逃げてっ! 早くっ!!!」


 僕の右手にはあの時、竜王の咆哮を受けて咄嗟に屈んだ時に掴んだ一輪の白花はっかが握られている。それをバランさんに突き出したのだ。


 咄嗟のことに驚愕する彼に僕はさらに大声で言った。


「早くっ!!! 行けぇぇぇっっっ!!!」


 その声で我を取り戻したバランさんはボクの右手の白花を受け取り、ギュッと眉間に皺を寄せて言ってきた。


「分かった、恩に着るぜカイト。それでお前はどうするんだっ?」


 真っ直ぐに目を射抜くような眼差しは僕のことを心配してくれている……フリだったとしても嬉しかった。


〖 恩に着るぜ……〗


 本当に恩に報えることが出来たのなら本望だ。だから僕はそんな仲間に強く言い放った。


「僕が竜王を引き付ける。だから皆は王宮に向かって欲しい。早くっ!」


 そう言い返して睨みつける。


 すると一瞬、ほんの一瞬だけバランさんは口の端を緩めた。そして素早く立ち上がり、白花を布袋に突っ込んで踵を返す。


 そしてリアンさんとガルバラットさんに声を掛けた。


「よし、行くぞ二人共。ここは勇者様に任せるぞっ!」


 何となく皮肉っぽく聞こえるけど、バランさんは僕に背中を向けているので表情は伺えない。だけど……それでいい。それがいい。



 彼らを憎まずに済むならそれが再適格だ。



 そして僕も踵を返して竜王に向き直る。


 そこには竜王以外にも四体のドラゴンの姿があった。


 体勢を低くし、大地を踏みしめ、僕は地面に呟くように仲間達に言葉を残す。



「じゃあね……」



 次の瞬間、大地を蹴って今まで以上のスピードで竜王達に向かっていった。


 決していたたまれなくなって逃げ出した……んじゃないと信じたい。



 最速で四体の竜達の攻撃を掻い潜り、竜王の咆哮を受けても踏ん張り、威力が弱まれば即移動。


 五体の竜の攻撃を薙ぎ払い、魔法をぶつけ、打撃で蹴りで渡り合う。




 どれだけの時間が経ったのだろうか……バランさん達は無事に下山出来ているだろうか……


 そんな事を考えている僕はそれほど余裕がある訳じゃない。結構ボロボロになってはいるけど相手の四体の竜の方はもっとボロボロになっている。


 羽根を所々切り裂かれた竜。鱗が大きく剥がされた竜。片方の牙が欠け口から血を流す竜。片腕に大きく切り傷を負った竜。


 そんな四体の竜に囲まれた僕と竜王。


 僕を含め、これ程までも傷を負っていると言うのに竜王だけはかすり傷が所々にある程度。そんな竜王を睨みつけながら僕は最後の力を振り絞った。



「クッソ……やられてたまるかぁぁぁっ!!!」



 そう言って駆け出そうとした瞬間だった。


 竜王はゆっくりと目を瞑り首を此方に傾け、そして目を開けたと同時に声を出した。


「他所の世界から来た人間よ、お前は何故そこまでして戦おうとしているのだ?」


 まぁ、ラスボスのドラゴンが喋るのはRPGではお決まりの事だから驚くところでは全く無いのだけれど。それでも不意に声をかけられた僕は右足を踏み込んだままの体勢で竜王の質問に答えた。


「決まってるさ、あの国の……この世界の平和の為に、お前を倒すっ!」


 そう言ってエクスカリバー(?)を握り直し体内の魔力を高める。その魔力を剣に纏わせ光り輝かせると、周りの四体の竜も体内から魔力を吹き出して僕に飛び込もうとしていた。


 竜王は僕に視線を突き付けたまま動かずにいた。が、視線を他の竜に向けると同時に声を出した。


「待て、ここは俺がやる。お前達は手を出すな」


 そう言ってゆっくりと僕に視線を戻すと、身の丈30メートル程の巨体がみるみるうちに縮み始め人型になっていった。



 ドラゴンの擬人化なんてのもRPG等ではおなじの光景なだけに驚く程でもなく、僕は体勢そのまま竜王を見つめ続ける。


 そして、そこに現れた人物? 竜王の姿は、褐色な肌に勝気につり上がった目元。鼻筋は高く、口角を上げて不敵に微笑む男性が剣を右肩に担いで立っていた。


 歳は僕くらいだろうけど、僕でも目を疑うほどのイケメンだ。もう、ビジュアル的にあっちの方が勇者と言って差し支えない程だし。


 いや、本来の勇者はあの様な容姿でなければ務まらないと強く思ってしまう。


 だけど、いつまでもそんな事を考えていれる訳もなく、竜王は担いでいた剣を僕に向けて体内から一気に魔力を吹き出した。


 次の瞬間……全くの同じタイミングで……


「「いくぞぉぉぉっっっ!!!」」


 大地を踏み込み一気に距離を縮める僕と竜王。激しく剣をぶつけ合って鍔迫り合い。


 互いに目を吊り上げ歯を食いしばり、鼻の穴を広げての力比べは全くの互角。


 だったら……


 互いにその場から後ろにジャンプすると、今度は二人共詠唱を始める。そして同じタイミングで詠唱を終え、膨大なエネルギーの魔法を放出した。


 その魔法は僕と竜王の真ん中でぶつかり合い、大爆発を引き起こす。けたたましい音を立て、爆炎を上空高く吹き上げ、草原全体を揺らすほどの衝撃を地面に与える。


 僕はまだ爆炎が収まらない中にエクスカリバー(?)を横に構えて飛び込み、炎の中心に切り込むと向こうからも刃先が現れた激しく激突した。


 どうやら竜王も同じ考えだってようだ。互いの剣がぶつかり合い、火花をちらし、激しい金属音をあげる。その勢いが衝撃波を生み、僕達を中心に爆炎が弾けて消えた。


 そして再び距離を取る僕と竜王。素早く剣を構え直し、相手に飛び込む二人。


 こうして僕と竜王は何度も何度も激突を繰り返したのだった。

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