竜王戦

 バランさん達の会話を聞きながら真っ白な花園でこちらを向く竜王を眺める。今までのモンスターに無かった殺気に包まれ、喉はカラカラに乾くし目の奥が痛い。


 格の違いをまざまざと見せつけているようだ。


 だけど……あんなに巨大で凶悪そうな竜王だけど……



 いける。本能的にそう思った。



 ビリピリと発せられる殺気にあの禍々しい巨体。突き刺すような眼差し。口元から僅かに見える炎の熱気が【世界の屋根】と呼ばれる広大な土地を温めている様な気がしてならない程のエネルギー。


 どれを取ってもちっぽけな僕なんか竜王から見ればアリンコ程度の存在でしかないだろう。


 だけど、この内側から沸き立つ勇気。負けたくはないと言う闘気。そして何より僕の覚悟。それを相まって今の僕は……多分無敵だ。



 だって僕はこの戦いで、ーーつもりなのだから。



 そんな気持ちで竜王を見ていると、突然バランさんが勢いよく僕に手を伸ばして肩を抱き寄せ言ってくる。


「おっ! いい顔してんじゃねぇかカイト。さすがは勇者だ、やる気をひしひし感じるぜ。何かいい案でも浮かんだのか?」


 そんないつものノリで言ってくる傍で、リアンさんもいつもの笑顔を向けて声を出してきた。


「ホントっ! さっすがは我らの勇者様っ! やっぱカイトが一番頼りになるわねっ!」


 っと言ってウインクを飛ばしてくる。


「聞かせてくれるかしら」っと、真剣な眼差しで言うガルバラットさん。


 僕は三人の、信頼を置けるパーティの仲間に笑顔で作戦を伝えた。


「僕がひとりで行くよ。そして白花はっかを積んで戻ってくる。きっと竜王は僕を追ってくるだろうけど、戦うのはあくまで僕ひとりだ。皆んなは白花を持って王宮に戻る。これで行こう」


 僕の作戦に驚愕の表情を浮かべる三人の仲間。だけどそれでいい。それがいい。再適格の作戦だ。文句は言わせないし、きっと文句を言わないし。


 これまでこんな僕の相手をしてくれた仲間へのお礼だ。恩は絶対に忘れちゃいけない。


 そうだよね、おじいちゃん。


 また、右耳の後ろが疼く。



『いいか海斗、人にして貰った恩を忘れたら駄目だぞ。絶対にな』



「じゃあ、行ってくるよ。待っててね」


 そう言って僕は竜王に向き直り、地面を踏みしめて突進して行った。



 ━━━━━━━━━━━━━━━



「聞いたかよおいっ! ひとりでやるってよ! さすがは勇者様だ、ハンパないねぇ」


 遠ざかるカイトの背中を眺めながらそう言うと、最初に反応したのはガルバラットだった。


「ちょうど良かったじゃない兄さん、私達じゃこれ以上は近づけそうに無いもの」


 違ぇねぇ。


 こんだけの殺気を食らって目を爛々とさせれるのはハッキリ言って勇者しかいねぇし、そんなヤツは勇者じゃねえと勤まらねぇしな。


「でも自分が何を言ってるのか分かってるのかしら、アイツ。そんなカッコつけたい?」


 そんな辛辣な言い方をリアンはしやがるが、激しく同意出来ちまう。竜王相手に単身飛び込むのは勇者であっても不可能だ。


 今までの歴史上、勇者が竜王を打ち破ったって話は聞いたことがねぇ。


 つまりアイツはーー気なんだろうと結論づける。


 そして俺は両手を後頭部に当てて遠ざかる勇者様の背中に言ってやった。


「せいぜい俺たちの為に派手にやられてくれよ、勇者様」



 ━━━━━━━━━━━━━━━



 竜王に向かって移動する最中、上空から飛竜が何匹も現れて襲いかかろうとしてくる。


 大地を力強く踏みしめてジャンプし、一番近い飛竜の背中に飛び乗ってエクスカリバー(?)を突き刺す。落下する飛竜から次の飛竜に飛び込み一閃。光り輝くエクスカリバー(?)を振り抜き真っ二つにする。


 飛竜の亡骸と共に着地し素早く大地を蹴って竜王に向かう。上空から襲い来る二体の飛竜。左手に魔力を込める僕。


「グラン・トルネーーードッッッ!!!」


 そう叫んで左手を突き出すと、大気中に竜巻が産まれ、どんどんと大きくなっていく。


 いよいよ飛竜に迫った時には巨大な竜巻となって二体の飛竜を飲み込んだ。更に竜巻は荒れ狂って空を飛ぶ残り八体の飛竜を飲み込んで遥か遠くに飛んでいく。


 その様子を眺めながらさらに竜王との距離を詰めるように加速すると、今度は地中からドラゴンが湧き出す。


 だけど僕は移動するスピードを落とさず、さらに加速して湧き出すドラゴンの全てにエクスカリバー(?)で切り付けバラバラにしてやった。


 そしていよいよ竜王の前まで迫ると、今まで僕の様子を見ていた竜王は口を大きく上げて咆哮した。


 グガァァァァァァッッッ!!!


 大気をもつんざく竜王の咆哮は衝撃波として僕にぶち当たり、とても立っては居られないほどの威力を叩きつけてくる。


 このままでは弾き飛ばされると思った僕は瞬時に体勢を低くし、その場にある草花を掴んで衝撃波を耐えた。


 すると竜王は咆哮を止め、その巨体をグルリと回転させる。一瞬何をしたか分からなかったが、直後にその行動の合点がいった。


 なんと、竜王は回転し自らの尻尾に勢いをつけて僕にぶつけようとしていたのだ。


 その攻撃法は今までのモンスターとは桁違いのセンスで、竜王の知能の高さが伺える瞬間だった。


 とは言え、そんな事に感心している場合でもない。僕は咄嗟に地面から両手を引き戻し、胸元でクロスにして衝撃に備えた。


 次の瞬間、竜王の尻尾は僕の両腕にぶち当たり、その物理的衝撃に僕は移動してきた方向に弾き飛ばされていった。


「(よしっ!)」


 そう思った僕は顔を上げて竜王を見やる。そしてニヤリと笑ってやった。


 何故なら、僕が弾き飛ばされた方向には……僕が竜王に僕自身を弾き飛ばさせた場所には……僕の仲間がいるのだから。

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