竜王討伐へ
この世界に召喚された僕は今日まで本当に良くしてもらった。
召喚されたとは言え信じられないほどの食事や寝室。毎日初めての女の子。行く先々で勇者だ英雄だのと言われて持ち上げられた。まぁそれ以上の結果は出したと自負はしているけれど。
それもこれもエクスカリバー(?)を僕にくれた王様のお陰だ。もっと言えば、しがない高校生だった僕を召喚してくれ勇者にしてくれた王様のお陰だ。
この恩はとても返しきれるものじゃない。
そう思った瞬間、右耳の後ろが疼き出す。そして、そんな時は決まってるある人物の言葉が脳裏によぎるのだ。
僕は右手でその場所を掻きながら、小学生の頃に亡くなった大好きなおじいちゃんの言葉を思い出す。
『いいか海斗、人にして貰った恩を忘れたら駄目だぞ。絶対にな』
それに、僕はもうこの場所以外で生きられなくなってしまった。
もてはやされて持ち上げられ、最高の食事に最高の仲間。毎晩代わる初めての女性。どれもこれも僕をがんじがらめにしてとても抜け出せないし、抜けたくない。
だから僕はモンスター討伐を頑張った。ようやく手にした居場所を離したくないために。
だから僕はこの扉の向こうで王様と大臣の会話を聞かなかったことにする。
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「東と西の国はどうなっておる。勇者がモンスターを討伐したお陰で攻めやすくなっているだろう」
「はっ! おっしゃる通り、勇者がモンスターを尽く倒してくれたお陰で隣国に攻めやすくなっております。これで【世界の屋根】に住む竜王を倒せばこの世界は国王様の物になるかと」
「ふっ……そうか、いよいよこの世界も儂手に落ちる日が近づいておるのか。後は【世界の屋根】に咲く幻の
「ですな、もうすぐ国王陛下はこの世界の帝王となられるのです。どうか我々をお導き下さい」
「ふっ……ふははははははっ! 帝王か、悪くないぞ! 儂に任せておけ、この国に、この儂に使える皆は優遇してやろう。お前も、他の大臣も。バランやリアンやガルバラットも欲しい領地を与えて領主にしてやる。待っておれっ!」
「ははぁっ!」
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その日の夕食で、翌日に竜王の討伐に出向くことが決まった。
王宮内は沸き立ち、色んな人達から激励を頂いた。
「勇者様! 是非とも竜王を倒して下さい。お願いします、」
「勇者ならきっと我々の願いを叶えてくれると信じております」
「勇者様! お慕いしております。どうか竜王に勝ってくださいましっ!」
その夜の食事も豪華なもので、その後のことも最高だった。
翌朝、いつもの様に牛車にポーションや薬草を詰め込んだ僕達は王様や大臣の見送りを受けて一路【世界の屋根】と呼ばれる北の山脈に向かった。
相変わらずの牛車の乗り心地の悪さに何度キラキラを吐いたことか。この異世界では大概のことに慣れたのだけど、これだけは慣れることが出来なかった。
【世界の屋根】まではかなり遠く、途中三度ほど宿やに泊まる事になった。出される料理は最高のもので、お肉やお酒は出されなかった。けど、野菜本来の味を損なわない煮込みスープはキラキラを吐きすぎたヘロヘロの身体に染み渡るほど美味しかったし。
そこでも毎晩、僕の部屋に女性がやってきて相手をしてくれる。
王様の気遣いが本当に有難く感じた。
瞬間、右手の後ろが疼き始めた。
『いいか、海斗。人にして貰った恩を忘れたら駄目だぞ!絶対にな』
王宮を出て四日、僕達は【世界の屋根】と呼ばれる山脈の麓に到着した。
王都に比べたらかなり寒く、バランさん達は防寒着を来て寒さを凌いでいる。
「カイト、お前はそんな格好で寒くないのか? 見ているこっちの方が余計にブルっときちまうじゃないか」
そんな呆れた言葉を出すバランさん。確かに僕の格好は、ここが寒冷地だと言うことを忘れさせるくらいにいつもの防具だけで、バランさん達の様な獣のマントを羽織っている訳じゃない。
っと言うか、全然寒さを感じないし。
恐らくはこのエクスカリバー(?)を手にして信じられないくらいの魔力を手に入れてしまった為だろう。何故なら体内から魔力が沸き立ち、薄く全身を纏っているからだ。
これに気づいたのは六日前に火山の麓でモンスターを討伐した時、パーティのメンバーが大汗をかく中で僕一人だけ暑さを感じないでいた。
その時もは薄く青い魔力が全身を纏っていたのだけど、今は薄く赤い魔力が全身を覆っている。
「やっぱり勇者って凄いんだね。羨ましいなぁ」
等と言いながら両手を揉みつつ声を出すリアンさんは、時々指先にハァァっと息をかけている。
すると、山脈の上の方を眺めていたガルバラットさんが視線を僕達に戻して声を出した。
「もうすぐ頂上辺りの嵐が収まりそうよ。風向きを考えると今出発しないと、登頂するのが厳しくなるわ」
その言葉を聞いた僕達は気を引き締め直して一列になり、山脈の遥か上を眺めながら決意を新たにする。
「絶対に竜王を倒して皆で一緒に王宮に帰ろう」
僕の言葉にバランさんは「ふっ!」と微笑み、リアンはニヤリと口角を上げる。ガルバラットさんはキュッと眉根を寄せて気合いを入れたようだ。
こうして僕達は山脈に足を踏み入れて頂上を目指した。
いつもの様にモンスターを見つけたらリアンさんの魔法で口火を切り、バランさんとガルバラットさんの連携でバラけさせる。最終的に群れを牛耳るモンスターを僕が一刀両断して先に進むを繰り返す。
標高が高くなるにつれ雪景色が広がり足場も悪くなる。だけどモンスターは現れて襲いかかってくる。
その頃にはバランさんもリアンさんもガルバラットさんも連戦の疲れと寒さで動きが鈍ってきていた。
「すまねぇカイト、あまり役にたたてねぇ俺自身が不甲斐ねぇ」
「ホントごめん、カイト。こんなはずじゃなかったんだけど……」
「カイト……ごめんなさい。この寒さは予想外だったから……」
各々が申し訳なさげに声を出してくれるけど、いままで散々良くしてもらってたし助けても貰ったし。何よりこんな僕と仲良くしてくれている仲間の弱気を励ますように僕は声を出した。
「大丈夫だよみんな、ここは僕に任せて身体を休ませててよ。それに、もうすぐ頂上だしね。皆で頑張ろう」
そう言って笑顔を向けると、三人は無言で微笑んでくれた。
ただ、あまりの疲れと寒さに上手く笑顔を作れずに口の端を上げるだけの、嘲笑の様に見えてしまったけど。
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