不思議に思ったこと

 こうして無事にモンスターの討伐を終えた僕達は王宮に戻ったんだけど、出迎えてくれた王宮の人達は信じられないと言った表情を向けている。


 黒豹(ブラッグジャギン)の亡骸(黒炭二つだけど)もそうだけど、朝食後に出発した僕達が夕食前に帰って来るなんて想像も出来なかった様子だった。


「素晴らしい! 素晴らしいぞカイト! さすがは勇者だ! いや、英雄だっ! 英雄の帰還だぁっ!!!」


 大きな声で讃えてくれた王様に、われんばかりの拍手をしてくれる王宮の人達。


 その後の夕食ではパーティの面々が僕の事を思いっきり持ち上げるように、代わる代わる戦況を解説していた。


 バランさんは身振り手振りで、リアンさんは効果音を混じえつつ、ガルバラットさんはこと細かく色んな人に説明している。


「(いやぉ……もうその辺で……うへへっ)」


 いやもうデレッとなりそうなのを抑えるのが大変だった。


 その日は気分が高揚してしまってお酒もちょっぴり頂いてしまった。あまり美味しくは無かったのだけど。


 ただ、この世界のお酒はアルコール度数が低いのだろうかなと思うくらい酔っ払った感はなかった。



 次の日からも僕達はモンスターの討伐に赴き、僕の作戦の元で様々のモンスターを倒しまくった。


 そのモンスターの全てが凶悪で、殆どを僕が打倒する。とは言え全て上手く倒せたかと言えばそうではなく、たまに躓きそうになった時にバランさんやリアンさん、ガルバラットさんに助けられる時もあった。


 その度に仲間意識が強くなり、信頼度が増した感じもしたし。


 みんな本当に優しく頼りがいがあって、あっちの世界では想像も出来ないくらい楽しい仲間に巡り会えて本当に幸せだった。


 討伐が終われば王宮では宴が開かれもてはやされて。お酒にも慣れて日に日に楽しくなっていった。


 いつの日か就寝する時には同い年くらいの女の子がやって来るようにもなった。



 討伐に出ればエクスカリバー(?)と魔力でモンスターを軽く蹂躙し、王宮に戻れば宴でもてはやされる。


 夜の方も同じ女性が来ることがなく、どの子も可愛くて綺麗で……夢心地だった。



 そんな暮らしが14日ほど続いたある日の事、朝食時に王様がこんな事を言ってきた。


「どうだろう、英雄カイトよ。お主のお陰で国を脅かしていたモンスターはほぼいなくなった。そろそろ竜王討伐してはくれないか? そうすれば我が国はもっと良い国となり、栄え、この世界に平和をもたらす事が出来る。強力してはくれまいか?」


 そんな事を言われれば悪い気はしないんだけと、最近僕はこの王宮に関してちょっと不思議に思っている事がある。


 実はこの王宮、とてつもなく広く建物などは高校の校舎四つ分はありそうなのに、人があまりにも少なく感じていたのだ。


 だから今日その事を聞いてみようと思って声を出した。


「王様、この王宮はこんなに広いのに人が少ないのは何でですか? みんな何処に行ってるんです?」


 その一言がこの部屋の空気を一瞬だけ変えさせた。


 ピシッと張り詰めた空気となり、王様はもちろんバランさんやリアンやガルバラットさんまでも食事をする手をピタッと止める程に。


 そんな空気を破ったのは王様で、だけど無理やり感情を抑えるように、いや抑えきれて無いけど強引に感情を抑えてるようで抑えきれていない声色で答えてくれる。


「勇者がそんなつまらん事を口にする必要はない。お前にはこれまで散々良くしてやったのだ、これまで通り何も言わずに協力しておれば良い」


 そう言った後、王様はハッとした表情を浮かべた後にいつもの顔に戻って謝ってきた。


「いや、すまんすまん。今のは無しだ。他の者たちは英雄殿が倒したモンスターの後始末に出向いておってな。せっかくリーダー格を倒して貰ったのだ、残りは兵士達に赴かせて退治している為に人員が少なくなっているのだよ」


「気にしないでくれ」と、笑顔で言われてその日の朝食は終わった。


 僕が気になっていたのはそれだけじゃなく、この国の人口の八割が住む王都にしては人影はまばらだったし。


 何かあるのかなと自室で考えていると、扉をノックする音の後に見知らぬ女性がやってきた。


 何だろうと首を捻ってその女性を見ると、心配そうな表情で傍までやって来て声を出してきた。


「あの、勇者様……大丈夫ですか?」


「えっ? どういう事?」


 そんな僕の疑問にその女性は顔を赤らめ上目遣いで答えてくる。


「王様が、最近は勇者様を討伐に向かわせ過ぎて少々お疲れ気味様だと。ですので私にお相手する様にと仰られまして……」


 っと言ってフイと視線をそらされた。


 この異世界にきて14日。初めての夜から12日で12人。その手の事に慣れてしまった僕はその仕草にそそられてしまう。


 そして、まだ朝食が終わってそれほど時間が経っていないのに……考えることをやめた。

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