初めての討伐

「これからどうするよ、カイト。相手は凶悪なモンスターだからよぉ。一気にいくかぁ?」


 後頭部に両手を当ててバランさんがそう言うと、リアンさんが呆れた声を出した。


「全くもうバランったら、いっつも力推しなんだから。こっちの身にもなってよね」


 等と言ってるけど肯定的な眼差しをバランさんに向けていた。


「ホント、私たちには回復魔法が無いんだから無理は禁物なのに」


 なんて言ってるガルバラットさんも満更でも無さそうだし。


 そんな三人の仲間に嘆息しつつ、僕は山脈を眺めながら答えた。


「それじゃあ、先ずはモンスターに見つからないように群れを見つけましょう。それからリアンさんの魔法を真ん中に打ち込んで群れを散らし、左右に別れた群れをバランさんとガルバラットさんでやっつけて下さい。僕は正面突破で群れのボスを倒します」


「「「…………」」」


「(あれ? 僕、なんか変なことでも言った? この世界じゃ全員突撃みたいな作戦じゃないとダメなの?)」


 すると、いままで沈黙していた三人が突然沸き立った。


「すげぇぜカイト、たまげちまったぜ! 確かにその作戦は有効だ!」っとバランさん。


「ホント、ビックリだよカイト! あったまいいじゃん!」っとリアンさんが僕の背中をパンっと叩く。


「凄い……勇者って力だけじゃなく知恵も凄いんだね」っと、ガルバラットさんが驚愕の表情を向けてきた。


 この世界の人間はアホばかりなのだろうか。


 でもまぁ役割分担はRPGでは鉄板なのどけど、この程度の作戦でここまで褒められるのも悪い気はしないし。


 それから僕達は山に入り込み慎重に進むと、山の半分くらいの開けた場所でモンスターの群れを発見した。


 見た目がカバの様な角の生えたモンスターや、牙の長すぎるライオンの様なモンスターが50頭程がひしめき合っている。


 その群れの一段高い岩場に5メートル位はありそうな、尻尾が二つに別れた黒豹の様な動物がいた。恐らくそれがボスなんだろうと想像出来る。


 一度身を引いた僕達は互いに頷き合い、そうし行動に移る。


 リアンさんが火球を何発も群れの真ん中に打ち込むと、そこにいたモンスターは吹き飛び残ったモンスターは左右に開けた。


「バランさんは右っ! ガルバラットさんは左をっ! 」


 僕の指示で素早く動いたバランさんとガルバラットさんは左右に別れてモンスターを蹂躙していく。


 そして、群れの真ん中にボスまでの道が開けた瞬間に僕は動いた。


 エクスカリバー(?)を握り、襲いかかる雑魚モンスターを薙ぎ払いながら一気に距離を詰める。


 僕に気づいた黒豹はその場で咆哮した後、僕に向かってジャンプしてきた。


 大口を開け、牙を剥き出しにし、前足の爪を剥いて迫る黒豹に向かって呪文詠唱し、魔力を込めた左手を突き出す。


「メテオドライブッッッ!!!」


 なんて、それらしい叫び声を上げると僕の左手からまさに隕石のような火球が現れて黒豹にぶち当たった。



 ゴアァァァァァァッッッ!!!



 そんな悲鳴を上げて後方の岩場に全身を叩きつけられた黒豹。


「(マジかぁっ! すげぇじゃん僕っ!)」


 等と浮かれている暇は無かった。全身を酷く焼き付けられ岩場に激突し、所々から血を流しながらも立ち上がった黒豹が僕に目掛けて再び咆哮する。



 ゴォォォォォォォッッッ!!!!!!



 今にも飛び出しそうな低い体制を取るわずか前に僕は地面を蹴って黒豹に向かって行った。


 そのスピード……ハンパない。


 50メートルは有りそうな距離が二秒ほどで詰められる。いよいよ黒豹の目の前にたどり着いた時、僕は軸足で踏ん張り右から振り回すようにエクスカリバー(?)で切り込む。



「ファイナルスラッシュッッッ!!!」



 再びそれっぽい事を叫んで剣を振り抜くと、目の前の黒豹が真っ二つに切られた直後にボフッと爆発した。


「(いや、何これ? マジパなくね?)」


 なんて、あっちの世界では陰キャ部類の僕だった。けど、思わず陽キャな言い回しが出るほど鮮やかに豪快に黒豹を打倒したもんだから、高揚感もハンパない。


 振り返って仲間を見ると、黒豹が倒されたことを知ったその他のモンスターは散り散りになって消えていった。


「おいおい、何だよ今の攻撃は。ブラッグジャギンを一刀両断って……始めて見たぜ。さすがは勇者だ、恐れ入ったぜカイト」


 そう言いながらバランさんがやって来る。


「いや、無我夢中だったもんで。でも上手く倒せて良かったです」


 僕がそう言うと、呆れた表情でリアンさんが傍に来て言った。


「あのねぇカイト、あんた自分が何をやったか分かってるの?」


 とは言われても、この世界であの黒豹がどの程度の強さなんて知らない僕だし。何なら凶悪なモンスターって事しか聞いてなかったし。


 リアンさんの言葉に首を捻っていると、ガルバラットさんが驚くべきことを言ってきた。


「あのブラッグジャギンってモンスターは獣系のモンスターでは最強でね、討伐するには剣士や高魔力術者が10人やそこらでは到底足りない程のモンスターなの。それをたった一人で、しかも魔法を食らって後とは言え一振で仕留めるなんて考えられないのよ」


 どうやらこの世界に召喚されるととてつもない力を得るみたいだ。いや、このエクスカリバー(?)のおかげかも知れないけど。

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