エクスカリバー(?)
それから僕は王様に連れられ、王宮の地下にやってきた。何でも見せたいものがあるのだとか。
長い階段を体感的に30分ほど下り、薄暗くジメジメした通路を魔導師の杖の先の灯りを頼りに進んでいくと、洞窟の中の開けた場所にたどり着いた。
「アレを引き抜いては貰えないだろうか」
っと言う王様の先には、持ち手を上にして床に突き刺さっている一本の剣があった。
「(いや、エクスカリバーかよっ!)」
思わず苦笑いしてしまうほどの光景だ。ホント有り得ない。異世界で本当にこんな物が有り得た事に有り得ない気持ちでいっぱいだった。
しかしまぁ、本当に僕が選ばれし者ならば簡単に引き抜けるのだろう。そうなれば勇者確定だし。あっちの世界では凡人だった僕がこっちの世界でもてはやされるのも悪くない。
ゆっくりと剣の傍までいき、持ち手を握る。周りを見渡すと、全員が緊張の面持ちで見つめていた。
深呼吸をひとつ。そして僕は両手に力を込めて……いや簡単に引き抜けてしまった。
力を入れすぎて思わずふらついてしまったのだけど。
「おぉぉぉっっっ!!! やはりソナタは勇者だったのだな!ようこそ勇者よ、この国に来てくれた事に礼を言うぞ!」
そう言いながら僕に近寄ってくる王様。両手で肩を何度も叩かれ、その勢いと痛さに顔をしかめる。だけど、王様の喜びように変な顔を見せ続けるのもアレだし……
なんとか苦笑いを向けて耐えること暫し、「宴の準備をしろっ!」っと王様が叫ぶと全員が移動を始めて王宮に戻った。
あの場から持ってきた剣は僕にしか持てないのだからと言われ、そのまま僕のものになった。この剣で世界を平和にしてくれても言われたし。
その後に開かれた宴での僕の歓迎っぷりにはドン引きもいいとこだった。
見たことの無いてんこ盛りの料理にカラフルな果物。とてもいい香りのする飲み物はアルコール臭の無いものを選ぶ。
露出度の高い衣装の踊り子さんを眺め、吟遊詩人の歌声に耳を傾ける。
デジタルに囲まれた中で生きてきた16歳強の僕にはとっては、あれもこれもそれもどれも新鮮で刺激的だった。
宴も終わり僕に与えられた寝室はまさに中世ヨーロッパの光景。教室ひとつ分は有りそうな空間。天蓋が吊るされたキングサイズ(と思う程)のベッドが中央にドドーンと。
周りにある家具は金ピカし過ぎて眠るのには邪魔臭かった。寝室の所々にあるランプは油で燃えているのではなく、小さな石が燃えている。
後から知ったのだけど、この世界の熱源は魔鉱石とか言う石で光源や炎をまかなってかいるとの事だった。
次の日の朝、おごそかなメイド服を着た使用人さんに起こされて朝食の場に行くと、そこには王様の他に数名の人が長いテーブルの所々に座っていた。
そこで紹介されたのは竜王討伐の為のパーティの面々だった。
力強い眼差しに鼻筋の通った面持ちの剣士バランさん。腰までの髪の毛は毛先を内側にカールした童顔な魔導師リアンさん。
パーティの中では一番背が高く、切れ長な目元で冷徹な印象を醸し出す剣闘士のガルバラットさんは男性に見えて胸元は豊満な女性だった。
どの人も見た目個性的だなぁと思いっていたが、実はこの人達はこの国ではかなりの力の持ち主で、戦場に出れば負け無しの強者とのこと。
そんな方々と食事をしている最中、王様がこんな事を言い出した。
「最近は国境近くの山脈で凶悪なモンスターの群れが出現しておるらしい。勇者殿の力試しとして討伐をしてきて貰えぬか」
「(いきなりかよっ!)」
っと心の中で突っ込むんだけど、僕自身この世界でどれ程の力があるのか試してみたいと思うところは確かにあった。
何せエクスカリバー(?)を手にしたのだから、僕にどんなスキルがあるのか知っておかなければならないし。
それに、このパーティの人達ともお近付きになっておかなければいざと言う時に助けても貰えないだろうし。
勇者になったとは言え右も左も分からない異世界じゃ心細さがハンパない。だから信頼出来る仲間はひとりでも多い方がいいと思う。
王宮で一番魔力耐性のある防具を頂き、ポーションや薬草を整えた僕達パーティは僕の元いた世界の牛(ヌー)が引く牛車に引かれて目的の山脈に向かう。
これがまた力強くて早くって。体感的に60キロは出ているみたいだけど、舗装されてもいない道では振動がとてつもなく酷い。
しかも、自動車の様なゴム製タイヤじゃなく、鉄の車輪に鉄のプレートのサスペンション? だけの牛車はすこぶる乗り心地が悪かった。
道中、三度ほど止めてもらってキラキラ吐いたし。
牛車のなかで僕は一生懸命に喋った。僕のことを知って貰いたかったしパーティの面々の事も知りたかったし。
そこで知ったのは、バランさんは27歳で剣の腕だけで王宮の剣士長に上り詰めた努力家だった事。リアンさんは20歳ながら王宮一の魔導師になったとか。
見た目は冷徹そうなガルバラットさんだけど、とても話しやすくてよく笑ってくれる人だった。
朝食の席では緊張していただけだったらいし。
三人ともとっても優しくて僕の話を嫌な顔一つ見せずに聞き入ってくれていた。
あっちの世界では人嫌いで口下手だった僕だけど、自分から積極的に話すと相手はちゃんと聞いてくれると言うことに気付かされた瞬間だった。
こんな事ならもうちょっと勇気を出して……いやいや、多分あっちの世界ではいくら頑張ったって無理だっただろうと結論付けたところで目的の山脈の麓にたどり着いく。
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