第3話 1-3.長屋に引っ越して来た一家
小学校入学前の子供は長屋に七、八人居た。
昼間、家から一歩出ると二、三人の子供が遊んでいることが多かったので、その中へ入って行くことが多かった。
狭い長屋の裏口の、さらに狭い、子供の身体でもやっと通れるぐらいの幅のどぶ川道で追いかけっこしたり、互いの家を行き来したりした。
夕方になると、毎日のようにおばちゃん達が路地に立ち止まって話をしている。家の前でも話をして、市場で会えばまた話をしていた。
子供の隆彦には話の内容は分からないが、母やおばちゃん達がいつも「かんにんえー」とか「おおきに」とかの決まったせりふを連発していることが印象に残った。
隆彦は市場で迷子になったことがあり、アナウンスで隆彦の名前が呼び出された挙句見つかると、長屋のおばちゃん四、五人が駆け寄って来て、心配してくれていた。
隆彦の母はその後ろに決まりが悪そうに、居た。
ホンダのおっちゃんの家の向こうどなりの大学教授の一家とは家族ぐるみの付き合いをしていたが、川向こうの学区のもっと広い家へ転居して行き、入れ替わりで、また四人家族が入って来た。
大学教授一家と同じ家族構成で、上が女の子、下が男の子で女の子の方が隆彦より一つ年下というのも同じだった。
引っ越して行った女の子は背が小さく少しぽっちゃりとした体型だったが、新しく来た子は背がすらりとしていて、目がくりっとしていた。お母さんとよく似ていた。
以前の子とも家族ぐるみで会った時にたまに遊ぶぐらいでそんなに仲が良かったわけではないが、今度来た子には、どこか女性らしいミステリアスさというか、子供ながらの色気が備わっていて、少し近寄りがたいような雰囲気も感じたが、もう一軒向こう隣りの、隆彦より一つ年下の男の子も交えて、何となく遊んで何となく別れて、の日々を繰り返し、長屋の他の子達と遊ぶのと同じように付き合っていた。
集団遊びの中で、隆彦から話し掛けることはほぼなく、互いに会話することもほとんどなかった。
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