1-17 採用試験はコロシアム
高い壁の先は、異国の香りの漂う、色彩あふれる場所だった。まず人が多い。そして、ホロの様な角を持った者も多くいた。
瑞々しい果物を売る屋台に珍しい小鳥を見世物にする屋台。大きな絨毯や綺麗な硝子の小物を売る商人もいる。どこを見回しても活気づいており、まともな日本人なら歓声を上げながら喜んでいただろう。しかし、京は違う。彼女はデッキブラシを抱きしめながら恐れ縮こまっていた。
(人がッ多い!!!!)
京はいまだ、デッキブラシに自分以外の生き物が当たると爆発四散すると思い込んでるため、人ごみが怖くて仕方なかった。しかし、ホロはそんなこと知らないので、京が人を恐れていると勘違いして手を引いた。
「この国の住民はよそ者にも優しいんだ! だから怖がらなくても平気だぞ!」
「あ、あ、そんな引っ張らないで。ひぇッ人に、人に当たる!!」
情けない声を上げても、ホロの足は止まることはない。半ば引きずられるよう連れて来られたのは、なにやら城のような場所。
(というか城じゃね??? これ城じゃん。なんで城につれて来られたんだ???)
「ちょっと待っててな。おーい!!」
ホロは門の前に立つ、武器を持った男性二人に話しかける。
「え」
「え、あ」
きっと城の門番なのだろう。二人は、ホロを視界に入れた途端、まるで幽霊を見たかのような反応をした。
「だ、第一王子!!」
思わずバッと隣を見る。叫ぶような声は、京を仰天させる内容だった。
「ただいま。オレ、いますぐ親父に会いたいんだけど、親父いるか?」
「え、え、い、いらっしゃいます」
「お、やったなキョウ。今すぐにでもウチで暮らす許可取ってやるからな!」
ここで待っててくれと言い残し、ホロは城の向こう側へ去っていった。置いて行かれた京は、理解が追いつかずに固まっている。処理落ちしているのだ。その場にじっと留まっていると、ホロはすぐに帰ってきた。
「何か、ウチに置く前に実力が見たいって」
「え」
「ちょうど今日の午後の試合が始まるから、それに勝ったらウチに置いていいってさ」
「???」
「大丈夫だぜ。キョウならできるってオレ、信じてるから!」
試合。勝ったら。どういうことだ。
京はなにを言われているのかさっぱりだった。困惑したまままた手を引かれ、城のなかの、衣装部屋のような場所へと通された。室内には使用人だろう女性がたくさん待ち構えており、一斉に頭を下げる。
「お荷物、お預かりします」
「え、あ、デッキブラシには触らないでください。それ以外はどぞ……」
アラビアンナイトの物語に出てきそうな、踊り子のような格好をした美人なお姉さんたち。圧巻だ。京はタジタジになった。
「じゃあ、着替え終わったら出てきてくれな。キョウのこと、頼んだぜ!」
「かしこまりました」
「んんん???」
ホロが部屋から退室すると、あれよあれよのうちに服を引っペがされ、白くてヒラみのある服を着せられた。着せ替えが終わると「ホロ様がお待ちです」と部屋を追い出される。廊下には騎士のような格好をした男がおり、ホロのいる場所まで案内された。
「お、似合ってるな!」
「???」
「悪いけど、もう出番らしいんだ。慌ただしくてごめんな。なるべく動きやすい服を選ばせたから、なにも支障はないと思うけど」
「????」
「今回は二勝で合格だってさ」
朗らかに笑うホロに「頑張れよ!」と背を押される。ここまで、自分がこれから何をやらされるのか、まったく知らされていない。困惑したまま、されるがままに一歩を踏み出した。
押し出された先は歓声の雨あられ。周りは取り囲むような円形状の壁に、段状の観戦席に座る人、人、人。唖然としていると、ハイテンションな男の声が、京の鼓膜をつんざいた。
「さあさあさあ!!! ソルジオラコロシアム午後の部、温まってきたところで、飛び入り参加の申し出だぁーーー!!!」
「こ、コロシアム?」
「我らが第一王子の推薦。噂では、星の森より第一王子を救ったと言われている期待の新生。挑戦者、キョウ・アマクサーーー!!!」
ワァーワァー騒ぐ民衆の声。好奇の視線。前方の出入り口は檻つきで、微かに唸り超えが聞こえる気がする。
ここまできて、ようやく京は自体が把握できた。ホロはこの国の王子で、ホロのお父さんは王様。そして、自分はいま、ホロや国に必要かどうか、実力を見定めるため、コロシアムで闘わされようとしている。
「スゥーーーーーッ」
いっぱいに息を吸い、両手で顔を覆い、天上を向く。指の隙間から覗いた空は、日本では見たことのない、とても美しい青紫色をしていた。
(いくら王族でも、得体のしれないやつを、なにもせず受け入れることができないのはわかる。──それでも、)
「いきなりコロシアムに放り込むことないだろッ!!!」
膝を折り叫んだ言葉は、盛り上がりが最高潮な観客の声にかき消された。
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