1-16 オレん家来るか?
京たちは魔物の死体から剥ぎとれるものを剥ぎとれるだけ剥ぎとった。二人には死体を解体するためのまともな知識がないため、鎧でいちばん高く売れそうなものを持っていく。
「そういえば、ダンジョンってどうやって外に出るんだろ……まさか徒歩?」
各階層で魔物を倒しながら奥まで進んで、帰りはまた魔物を倒しながら来た道をもどる。
「地獄だ」
京の手にはいま、魔石と鎧の一部を持っている。たいして重くないが、これらがもしそれなりに重量のあるものだったなら。きっとくじけるに違いない。くじける前に、そもそもダンジョンになど行かない。
「キョウ、なにどんよりしてるんだ?」
「いまから徒歩で地上に帰るのかって思ったら、考えるだけで疲労が押し寄せてきて……」
落ち込んだ原因を聞いたホロはキョトンとした。魔法使いがいれば、ダンジョンの外にすぐ出れる。ホロは魔法を使えるので、徒歩でなくとも、ダンジョンの中からなら一瞬で出入り口まで移動できるのだ。
「ちょっとこっちに来てくれ」
「あ、ハイ」
手招きされるまま、京はホロについていく。ついた先の地面には魔法陣が掘ってあった。
「この魔法陣のうえに立って魔力を流すと、ダンジョンの出入り口に転移するんだ」
「あ、じゃあ歩かなくていいんだ」
「そういうこと。それ!」
ホロが魔法陣に魔力をながす。緑色の光がきらきらと瞬いて、あまりの眩さに京は目をつむった。光が収まり、恐る恐る目を開けると、そこは一ヶ月間慣れ親しんだ森の中だった。
「おお。これが、転移……!」
「キョウは魔力がないだろ? もしダンジョンに入るなら、パーティーに魔法使いを連れて行ったほうがいいぞ!」
助言をくれるのはありがたいが、ダンジョンに潜る予定はあまりないので、転移のお礼だけした。
「ダンジョン前まで来れたら国までもう少しだ。頑張ろうな」
「もう少しか。荷物がそんなに重くなくてよかったです。さ、行きましょう!」
「重くないのか。そっかそっか〜」
ダンジョンで手に入れた戦利品は魔石と魔物の両手の装備品。簡潔に言えば石と鉄の塊だ。総量五五〇キログラムは超えている。重くないわけがないのだ。彼女はそれを軽々持ち、涼しい顔をして歩いている。ホロは京のこれに慣れてしまい、軽く流してしまえるほどになった。
(キョウって、世間知らずなところが目立つけど、じつはもの凄く優秀な冒険者なんじゃないか?)
国随一、危険といわれている星の森で生き残り、ドラゴンにまで認められた人間。ダンジョン内でも、魔物に対して躊躇が無かったように思う。冒険者も慣れなければ魔物を殺すことを躊躇う者が多いのだ。マイナス思考が玉に瑕だが、それ以外はかなりスペックが高い。ホロは為政者として京を見る。彼女が自身の国についたら、かなり大きなアドバンテージになり得るのではないか。
(中央は勇者を奪ってから態度を大きく変えてきた。代々聖女を輩出してきた北も、勇者パーティーに聖女を加えたことで勢いが増してきたし、西も最近、怪しい動きをしてる)
いまは魔王が出現し、世界を引っ掻き回しているために国同士の争いは起きていない。この先、魔王討伐が成されたあと、各国の情勢はどうなるだろう。勇者のいる国と、それに助力した国は間違いなく周りにちょっかいをかける。とくに、勇者を奪った"中央の国"が。
「……なあ、キョウ」
「うん?」
「さっき、行く宛はあるかって聞いたよな」
「そういえばそうですね。途中ではなしが変わっちゃいましたけど」
「もしよければ、オレん家くるか?」
同情六割、打算四割で構成された提案は、京に大きな期待と不安を抱かせた。
ホロの善人っぷりは本物。お金持ちらしいことも知っているため、彼の家にやっかいになれば、とても快適な暮らしを得られるだろう。だが、同時にそんな人物に世話を焼かれる事実に自身が耐えられるのか。
(例えるなら、陽キャの飲み会に参加したもののアウェーすぎてノリに乗れず、誘ってくれた方が気を使い話しかけるも、趣味の系統が違うからはなしが分からず、結局気まずい想いをさせてしまうあの感じッ)
京は思った。
あれ? 森にいたほうが平和なのでは?
「あ、あああの、せっかくの提案すけど、私なんかがホロくんのお家にお邪魔するなんて恐れ多いというか……」
「なにか駄目なところあるか? オレはキョウが来てくれたら楽しいし、嬉しいんだけどなぁ」
「何もしないで知り合いの家に転がり込む役立たずのカスにだけはなりたくないんです」
「うん? 仕事がほしいってことか?」
ホロに言われ、京は固まる。
仕事が欲しいのか、と言われれば欲しいかもしれない。この流れは斡旋してくる流れ。ホロの家のために働き、その対価として家に置いてもらう。これが最善のルートに見えた。
「仕事欲しいです!」
「じゃあ、オレん家の仕事紹介するぜ! 住み込みになっちまうんだけど、大丈夫か?」
「全然問題ないです。屋根と壁があるなら倉庫をあてがわれてもいい」
「ははは、流石に倉庫には住まわせないぞ」
一気に職と住処を手に入れた為か、目の前がきらきらと輝いて見える。これはもしや、未来は明るいんじゃないか。元の世界にいるよりいい環境にいれるんじゃないか。彼女はこれからにおおいに期待した。
だが、目先の生活にばかり目を向けたものだから、またもや京は忘れてしまっていた。この異世界転移が急転直下、高難易度異世界転移コースであることを。
「ああ、着いたぞ」
眼前にそびえる高い壁。上から垂れ下がる太陽を模した紋様の描かれた幕。紋様はちょうどホロの背後に位置しており、まるで後光のように見えた。
「南の大陸、太陽の国。"ソルジオラ"へようこそ!」
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