1-8 とあるギルドと不穏の影
ここははるか南に位置する国、ソルジオラのギルド。ソルジオラ国は近くにダンジョンを多く有しており、それに比例して魔物の数も多い。そのため、ソルジオラ国のギルドはいつも忙しかった。
「ギルドマスター! 琥珀竜がまた上空を飛行しています! どうしますか?」
「ギルドマスター、ダンジョンからゾンビが出てきています。対応を」
「ギルマスー、緊急依頼入りましたぁ〜」
「ええいッ、いっぺんに喋るんじゃない!」
ギルドマスターと呼ばれた男、オレガノは机に溢れた資料をくしゃりと握りしめた。
近頃、南の森にドラゴンが卵を産み落とし、羽化させたという報告があがったため、忙しさに拍車がかかっていた。
ドラゴンとは、簡単に人を滅ぼす力をもった生き物である。討伐するのに何日もかかり、また何人もの命が奪われる。子育て中のドラゴンは特に凶暴で、少しでも人間が近づくと、人間が住む街を滅ぼしに来るのだ。
実際に、うっかりドラゴンの巣に近づいて被害にあった国が、過去多く存在している。
だから、ギルドは国民や低級冒険者たちが近づかないよう、ドラゴンの動向を逐一調べ、注意喚起をしなければならない。
「それだけでも大変なのに、魔物が活性化してきて更に仕事が増えた!! もうギルドはいっぱいいっぱいなのに!!」
オレガノは勘弁してくれと天を仰ぐ。ダンジョンが多いため、魔物が外に出てくる数が尋常じゃないのだ。
ソルジオラ国の周辺に住む魔物はレベルが高く、C級以上の冒険者でないと倒せない。C級以上の冒険者は数が限られているし、S級冒険者は別件で出払っているし、人手不足でタスクが捌ききれないのだ。
「ギルドマスター」
「ギルドマスター、指示をください」
「ギルマスってば〜」
「ッダァー!! 琥珀竜は危険がないなら位置情報だけ放送しておけ! ゾンビはいま出れるC級以上の冒険者を召集! 今回は特別にD級もタリスマンを持たせて出動させろ! 緊急依頼は依頼書持ってこい!」
オレガノは怒鳴りながら的確な指示を飛ばす。職員たちは蜘蛛の子を散らす用に部屋から出ていった。
「おつかれさまです〜」
「本当に疲れる……。そろそろ休みたいよオレは」
「さいきん魔物が多いですからねぇ。これも"予兆"でしょうかねぇ〜」
「魔王は勇者の管轄だ。オレたちはただ依頼をこなしてけばいいだけだ」
魔王は勇者でないと倒せない。これは古来から言われてきた伝聞だ。だから、しがない冒険者たちには関係のないことである。
「まぁ、魔王に触発されたせいで魔物が活性化してるので、じぶんたちは知らん顔できないんですけど〜」
「そうなんだよなぁ!!」
情けない声がでて、思わず机に突っ伏した。魔物の討伐は、その殆どをギルドが請け負っている。勇者もギルドに所属するいち冒険者であるが、魔王関連の依頼をこなすのが優先なため、ただ魔王に触発されて活性化しただけの魔物の処理は、ギルドの領分なのである。
「魔王のせいで、オレには休暇もねえんだ……勇者、はやく魔王を倒してくれ」
「はいはい、はやく倒してくれるといいですねぇ。んで、緊急依頼がふたつあるんですけどぉ」
「勘弁してくれ〜〜〜ッ!!!」
緊急依頼とはギルドがどの依頼よりも優先しなければならない、緊急性の高い依頼である。だいたい危険な魔物が出たときや、王族に関する依頼であることが多い。
「ひとつめはですねぇ、ソルジオラ国王家のご長男サマが行方不明なのですよ〜」
「またかぁ……」
「はい。またですぅ」
ソルジオラ国の第一王子はよく行方不明になる。だいたい国のどこかにお忍びで来てるのだが、そのたびに王室から緊急依頼で捜索願いが出される。
「もう一つはどんな内容だ」
「もひとつめはですねぇ、南の森にオークが出たみたいなんです〜」
「……オークだと?」
オレガノは手渡された資料を睨みつける。
「なんでもぉ、森付近のダンジョンの五階層にいたとか〜」
「五階層か……(オークはソルジオラ周辺には生息していないはずの魔物。それが、一体なぜ――まさか)」
思い浮かんだ最悪の考えを、職員が口にした。
「"オークキング"がいるのかもしれませんねぇ」
オークキングとは、オークを率いるボスであり、人語をはなし、明確な意思を持つ危険な個体である。武器や魔法を使うこともあるため、A級冒険者でも倒せるか危うい魔物だ。
「……この事も注意喚起を促しておいたほうがいいな。奴らは頭がいい。国に攻め入らないよう城壁の強化をするよう国王に書状を書いておこう。用紙を用意しておいてくれ」
「かしこまりましたぁ〜」
一息ついて、窓の外を眺める。視線の先には高い城壁と、その先に広がる森がある。
(オークキングが潜んでるとしたら"星の森"だろう……)
ソルジオラのさらに南の、人が立ち入ることを許されない森。立ち入れない理由は、危険な魔物が多くいるためだ。ただでさえ強いソルジオラの魔物の、さらに上を行く魔物。S級の冒険者でも帰ってくるのは難しいだろう。
「ギルマス〜、黄昏れてるとこ悪いんですけどぉ、報告してないことがまだありましてぇ」
「ギルマスじゃなくてギルドマスターと呼べ。報告してないことってなんだ」
職員が実は、ともう一枚資料を手渡す。
「第一王子サマ、暗殺者の転移魔法陣で星の森に飛ばされちゃったらしんですよぅ」
「それをはやく言わんかばかたれ!!」
ギルドマスター・オレガノの苦悩と苦労は続く。
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