1-2 異世界ダイビング
「いーーーやあああああああああ!!!!」
体が空気を引き裂く音がする。
下には広大な森が広がっていて、かなり高い場所から落ちているのが嫌でもわかる。
(考えろ考えろ考えろ考えろ、とりあえずどうしたら助かるか考えるんだ。気絶したらぜったいに死ぬ。でも気絶しなくてもたぶん死ぬ。ぜったい死ぬ!)
気絶して、目が覚めたら知らない天井が見えた……なんて都合のいいことはきっと起きない。
「だって私、運無いから!」
いままで運が悪くて被った危険は数しれず。運に頼るな、自分の力で死を回避しろを信条に生きてきた京は、現状打破のために必死に思考を巡らせた。
(でも、考えたところで何もできないんじゃない? 持ち物デッキブラシしかないもん!)
デッキブラシで何ができるっていうんだ。魔女みたいに空が飛べるわけでもあるまいし。あのローブめ、絶対に許さない。これで死んだら末代まで祟ってやるッ……!
京はさいごに見た男に向けて恨みを募らせる。が、それもすぐに霧散した。
バサッ。
「うわっ」
いきなり、視界が真っ白になったのだ。顔面に白いものが引っかかってはためいている。この質感は紙。よく見たら文字のようなものが書かれている。バサバサするのをなんとか手で抑えて読んでみると――
『それ、ただのデッキブラシじゃないよ。エクスカリバー(笑)』
クシャッ。
京は紙を握りしめて空にリリースした。
バサッ。
「〜〜〜ッ! こんどはなに!?」
二枚目の紙には『それ持ってたら死なないから。だってエクスカリバーだもん』と訳のわからないことが書いてあった。
(だから、これはデッキブラシだ!!)
こうしてる間にも地面は迫ってきている。
京は絶望した。死ぬ間際まであのふざけたローブに弄ばれるのかと。
(こんなデッキブラシ片手に、木に突き刺さるか、地面に落ちたトマトみたいにペシャッてなっちゃうんだ!)
バサッ。
「だからッ! もうなんなの!」
『デッキブラシを使うと助かるよ』
「デ、デッキブラシを? どうやって?」
『は、自分で考えて』
「急に冷たくない!?」
デッキブラシで本当に助かるのだろうか。デッキブラシで助かるビジョンがミリも頭に浮かばない。しかし、地面はもうすぐそこだ。考えてる暇はない。このままでさ本当に死ぬ。
トマトみたいに潰れて死ぬのは嫌だ!
「ええいッままよ!!」
京は腹をくくる。目を瞑り、デッキブラシを下に突き出した。
「これで助からなかったら、ほんっとーのほんっとーに恨んでやる!!」
刹那、けたたましい爆発音とともに突風が吹く。
両足に伝わる地面のぬくもり。しかし、身体に痛いところはどこにもない。助かったのだろうかと、京は瞑っていた目を開けてみた。
「な、なんじゃこりゃ」
そこにはとんでもない惨状が広がっていた。根っこごとなぎ倒された木々。自分を中心に出来上がった大きなクレーター。そして、つるぴか無傷のデッキブラシ。
「なんてこった、本当にデッキブラシで助かっちゃった」
何が起こったかはわからないけど、とりあえず助かったと胸をなでおろす。デッキブラシ最高。デッキブラシ万歳。デッキブラシしか勝たん。おお神よ。デッキブラシを持たせてくれてありがとう。京は全力で感謝の祈りを捧げた。
「いや、そもそもこんな目にあったのって自称神さまのせいじゃん。やっぱり感謝は無しで」
カンッ!
「いっだ!!」
いきなり、空からタライが降ってきて脳天にぶちあたる。タライは地面を転がり、底を上にして静止した。底には紙が張り付いていた。案の定、なにか書いてある。
『なまいきすぎ〜。敬って♡』
「誰が、こんな仕打ちされて、敬うか!!」
ためしに、敬って元の場所に返してくれるなら敬うと付け加えてみたが、それに返事がかえってくることは無かった。
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