#83 彼女の夢が叶うクリスマス




 1時間過ぎてもアリサ先輩がお風呂から戻って来ないので、流石に心配になって様子を見に行った。


 しかし、お風呂は電気が消えてて呼びかけても返事が無く、「まさかショックで帰っちゃったのか!? 外めっちゃ雪降ってるぞ!?」と焦り、慌てて玄関に靴を確認しに行こうとすると、台所からアリサ先輩とかーちゃんの笑い声が聞こえて来た。



「ココに居たんだ。全然戻って来ないし、心配してお風呂見に行ったら誰も居ないし、帰っちゃったかと思って超焦りましたよ」


「ごめんごめん。お母様とお喋りに夢中になっちゃってた。 もう少しお母さまとお喋りしたいから、マゴイチもお風呂どうぞ」


「あいあいさ」


 今夜の失敗で落ち込んでいたアリサ先輩だったが、かーちゃんとのお喋りで笑えるくらいには復活している様子を見れて俺も安心したので、お風呂にゆっくり浸かることにした。




 お風呂から上がり部屋に戻ると、アリサ先輩も戻っていてコタツに入って自分のスマホで何やら調べている様だった。



「お帰りマゴイチ」


「ただいまっす。 痛みはどうですか?」


「うん、シャワー浴びてる時はまだジンジンしてたけど、今はだいぶ落ち着いたわよ」


「そうっすか。とりあえずしばらくは安静ですね」


「それでね!お母様に相談したの! 「初体験で痛くて上手く出来なかったら、こういう時どうすれば良いんでしょうか?」って。そしたらね、色々話聞いてくれてね、沢山アドバイスもくれたの」


「はぁ? 相談したって、ウチのかーちゃんに? 俺との初めてのエッチが上手くいかなかったって? ・・・・いやソレおかしいでしょ!なんでヨリにも寄って彼氏の親にセックスの相談しちゃうの!?正気の沙汰じゃないっすよ!」


「別にいいじゃない。元々ご両親からは公認の仲なんだし、前々から「避妊はするのよ」って言われてたくらいなんだから」


「そーゆー問題じゃなくてですね! セックスが上手く出来なかったとか、彼女の下着姿に興奮しすぎて鼻血噴き出したとか、親には絶対に知られたくない案件じゃないっすか!思春期だったら完全にグレてますよ!しかもそれが当事者の彼女の口から聞かされたとか俺にしたら地獄ですよ!」


「はいはい、ごめんごめん。 でもお母様くらいしか相談出来る人が居なかったんだから仕方ないでしょ?それに何とかなりそうなアドバイスだって貰えたのよ?」


「ぐぬぬぬ」


 かーちゃんにシモ関係が筒抜けなのはマジで勘弁して欲しい。

 とは言え、俺の羞恥心と初エッチの成功、この二つを天秤にかければ初エッチ成功のが間違いなく優先度合は高い。


 色々と納得出来ない部分もままあるが、一応その解決できそうなアドバイスを聞くことにした。


「それで、どんなアドバイスだったんです?」


「えっとね、今アマゾンの通販で調べてたんだけど、コレ使うと良いって」


 そう言ってスマホを俺に見せるようにコタツの上に置いたので、先ほどと同じようにアリサ先輩にくっ付く様に隣に座りスマホを確認した。



「ローションっすか?」


「うん。痛いのは潤滑油が足りないんだって。 ローション使えば足りない分も充分おぎなえるそうよ」


「なるほど」


「あと、稀にゴムが合わない人も居るんだって。 別の避妊が出来るなら一度試してみたらって」


「うーん、それは最終手段的な話ですよね。まずはローション試してみましょうか。 俺の方で早速ポチッっときます」


「うん、お願いね。お金は半分出すから」


「いや、高く無いからお金はいいっすよ。早ければ明日の夕方には届くみたいっすね。 もし体の調子が良かったら、明日試してみますか?」


「そうね。でも明日になってみないと痛みの方は分からないわ」


「無敵のアリサちゃんが泣く程の痛みですもんね。 あ、そうだ。折角だし今からアフロにも相談してみよっと」



 で、アフロに電話すると、家でテレビ見てて暇していた様なので、スマホをスピーカーにして、色々相談してみた。


 アフロが言うには

『マゴイチンコがデカ過ぎ。それに前戯してないなら充分に濡れてないだろうし、アリサもガチガチに緊張したまんまだろうからキツくて痛いの当たり前じゃん。処女じゃなくてもそんなん痛いよ。心も体もリラックス、マジ大事。 キツイならじっくり時間かけて、何回もチャレンジして体だけじゃなくて気持ちの方も少しづつ慣れさせるしか無いだろうね』


 流石、自他共に認めるビッチ。普段のおバカなアフロとは違い、豊富な経験から来るアドバイスに貫禄すら感じる。 服脱いでゴム着ければ後は何とかなると考えてた自分が恥ずかしくなるほど、納得出来る話ばかりだった。



 アフロの話を聞いてアリサ先輩も

「最初マゴイチの大きさにビックリしたけど、体大きいしこういう物なのかな?ウチのパパとタカシのもっと小さいけど二人が小さいだけなのかな?とか思ってたのに、やっぱりマゴイチの方が異常なのね。 言われてみれば、アフロと初めて会った時に、マゴイチのおちんちんが人よりもサイズ大きい話してたわね」


 更に、色々相談しつつ解決策の目途が立ってから言われたのが

「マゴイチの見た瞬間、マゴイチとの初対面の時に感じたのと同じような殺気をおちんちんから感じたわよ。きっとそれで無意識に怖くなって体も硬くなってたのね」

 と、どうやら俺のチンコは、殺人級らしい。



 夜も深けベッドで一緒に布団に入り腕マクラで抱き合っていると、アリサ先輩は「お互い勉強不足だったね。でも恥ずかしがって調べることを怠って気合だけで何とかしようとすると痛い目を見るっていう教訓になったわ」と、自主性モンスターらしい感想を話してくれたので、俺からも「俺のチンコがデカ過ぎてごめん・・・」と素直な気持ちで謝ると、「二人で色々勉強しようね」と言って優しくキスしてくれた。




 ◇




 翌日、クリスマス。


 朝起きてベッドに寝たまま窓の外を見ると、一面の銀世界。

 かなりの量が積もっていた。


 アリサ先輩は俺に抱き着いてまだ寝息を立てていたので、その体勢のままスマホを取り、天気予報とか今日観戦しに行くプロレスの中止情報などが出て無いかを確認した。


 一応は試合の中止等の情報はまだ出てなかったが、この日も一日降雪の予報だったので、テレビを点けると画面の端に公共交通機関の遅延情報が流れており、試合会場までの移動が厳しい状況なのが分かった。



 今日のプロレス観戦は、アリサ先輩は俺と二人で行くのをずっと楽しみにしてて、お揃いのTシャツやタオルも用意していた程だった。


 そして、もう1つ。

 昨夜アマゾンでポチッったローションも、流石にこの積雪状況では今日の配達は無理だろう。


 残念だが早めに伝えた方が良いだろうと、アリサ先輩を起こして2つの事を伝えると、寝起きで乱れた髪を直すことなくうずくまり、顔を床に伏せたまま「ずっと楽しみにしてたのに・・・」と静かに嗚咽を零してしくしくとマジ泣きし始めた。


 なんとか元気付けようと声を掛けていると、アリサ先輩はガバっと体を起こして「決めた!どうせローションも来ないなら、今日はプロレスするわよ!」と高らかに復活宣言した。


「だから観戦には行けないんですよ」


「違うわよ!ココでプロレスするのよ!私とマゴイチでね!」



 という訳で、朝食もまだ食べていないと言うのに、アリサ先輩がプロレス観戦用に用意したお揃いのTシャツに着替え、下は部屋着のズボン脱いでボクサーパンツとなり(アリサ先輩も俺のボクサーパンツを直履き)、雰囲気出す為にハイソックスの黒の靴下を履いた。

 因みに色合いは、Tシャツは二人ともピンク色で、パンツは俺がブルーでアリサ先輩は赤。靴下は二人とも黒色。


 着替え終えると、部屋の中央のコタツを撤去して、邪魔になりそうな物も全部片づけた。



 リングの準備が整うと、アリサ先輩はスマホを操作し始めた。


 そして、「ゴングは私のスマホにデータ入れてあるから」と言い、フルボリュームで『カァン!!!』と鳴らした。



 試合が始まると睨み合う様に向き合い、お互いの両手を軽く上げるようにして牽制しながら組み合う。


 それぞれ左右の手で組合いながらも様子を見るようにゆっくりと足踏みする。


「んなろぉ!かかってこいやぁ!」と吠えるアリサ先輩。マジで入り込んでいる。


 俺は挑発に乗るフリをして、組んでいる両手を下に向けるように返してパワー勝負に持ち込もうとするが、その前にアリサ先輩が瞬間的にヒラリと目の前から消えて、気付いた時には背後を取られて、俺は首と肩を同時に締められ脚も絡めるようにホールドされていた。

 相変わらずの驚異的な身のこなしで、一瞬でコブラツイストを決められた。



「うぬぬぬぬぬぬ!!!」


 力を込めて本気で締め付けて来るアリサ先輩。



「いたたたたたた」


 何とか外そうとするが、ガッチリ決まってて外せないので、オーバーアクションで痛がる俺。

 もうこうなったら接待プレイだ。


「ギブ?」


「ノウ!」


「ギブ?」


「ノウ!」


「だったらコレはどう!」ふんぬ


 更に力を込めて締め付けてくるアリサ先輩。


「ぐぬぬぬ、ギブ!ギブギブ!」


 俺がギブアップすると、アリサ先輩は俺から体を離してスマホを操作し、『カンカンカンカン!!!』と試合終了のゴング音を鳴らした。



 試合終了後、アリサ先輩の肩に真っ赤なタオルを掛けてあげ、マイク代わりのテレビのリモコンを向けて勝利者インタビューを始める。


「はぁはぁ、ずっと、はぁはぁ、ずっと夢だった、はぁはぁ、大好きな彼に、コブラツイストかける夢が、はぁはぁ、クリスマスの今日、この場で、はぁはぁ、遂に叶えることが出来ました!!! みんなありがとう!」


 そういえば、4月にスマホの連絡先交換して直ぐの頃にそんな夢を語ってたな、と思い出した。 あの時は「頭のイカレた女に捕まってしまった」とゲンナリしたのだが、まさか俺相手にしかもクリスマスにそれを実現させてしまうとは、流石は自主性モンスターとしか言いようが無いな。


 勝利者インタビューの最後にエア観客のエア声援に両手を振って応えると、ベッドの上に飛び乗り、ガニ股になって武藤のポーズで「メリ~クリスマス!!!」と全身で喜びを表現するアリサ先輩。

 その姿をスマホで写メに収める俺。

 西高イチの美人が、クリスマスの朝っぱらからピンクTシャツ&男物のド派手なパンツ姿で彼氏のベッドの上でガニ股ポーズ決めちゃってるというシチュエーションに、感慨深い物を感じる。いとおかし。


 因みに、アリサ先輩はこの程度のとっ組合いでは息1つ乱さないので、インタビュー中に「はぁはぁ」息切らしてたのは雰囲気出す為の演出だ。


 兎に角、元気になってくれて良かった。

 その後この日は、二人でクリスマスケーキを食べてからお互い用意していたクリスマスプレゼントを交換して、積雪で外出もままならないのでこの日もアリサ先輩はウチに泊って行くことになり、家にずっと引きこもってイチャイチャしていたのだが、アリサ先輩の命令で一日中ずっとお揃いTシャツ&ボクサーパンツ姿で過ごした。


 アリサ先輩がそんなペアルックな俺たち二人のツーショットをスマホで何枚も自撮り撮影していたので見せて貰うと、ピンク色のお揃いTシャツが林家ペーパー夫妻みたいで二人揃って頭悪そうだったのだが、楽しそうに笑うアリサ先輩の表情を見ていると、昨日からトラブルだらけのクリスマスとなってしまったけど、アリサ先輩の幸せそうな顔が見れたのなら、それはそれで良かったと思えた。





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