#79 2代目元カノの本音




 学校祭が終わると11月に入り、料理部では部長達3年の先輩は引退して2年2人1年3人の5人での活動となったのだが、学校祭での興奮が冷めたかのようにみんな冷静になり、通常の部活動に戻っていた。


 内心ではお互い色々思う所はあるのだろうけど、アクア先輩は新部長として持ち前の責任感を発揮しており、以前の様に俺一人にベタベタすることなく、また周りのみんなも下手に気を遣うこともなく、調理のことで何かあればアクア先輩に相談したり、試食しながらのお喋りタイムでも冗談言い合ったりと、本来の楽しい料理部に戻っていた。


 俺としても、元々望んでいた関係性に戻ることが出来てようやく一安心して、調理のスキルアップ目指して色々な料理に挑戦し始めていたのだが、料理部に再びヤツが現れた。


 柏木アカネだ。


 11月の期末試験開けの放課後部活中、家庭科室にフラっと現れて「入部希望でーす!よろしく~♪」と言い放ち、調理中だった俺たち5人を凍り付かせた。


 最初はアクア先輩が部長として対応していたのだが、「今は部員の募集してません。ごめんなさい」と丁重にお断りすると、「どーせ5人しか居ないんだし、一人増えるくらいいーじゃん」とゴネて諦めてくれず、二人でモメ始めた。



 学校祭の時にもモメてた二人なので、仕方なく俺も対応することに。



「こんな中途半端な時期に入部希望するなんて、何企んでるの?」


「全然!ぜ~んぜん何も企んでなんかいないよ?」


「じゃあ何が目的なんだ?志望動機は?切っ掛けは?ドコで料理部の存在を知った?入部してからの目標は?親御さんの許可は?」


「ちょっとちょっと!圧迫面接じゃん!なんでみんなしてそんなに冷たい対応なわけ?」


「だって柏木さんトラブルメーカーじゃん。少なくとも俺はアンタのこと1ミクロンも信用してないから」


「言い方酷くない?まだ昔のこと根に持ってるの?」


「根に持つに決まってるだろ。むしろ普通に話しかけてくることに驚きを隠せないぞ?」


「もーいーじゃん、学校祭の時に謝ったんだし。お互い水に流そうよ」


「いやソレ被害者側が言うセリフだから。加害者が言っちゃダメなヤツだから。謝ったのだってアンナちゃんに無理矢理だったし」


「えーじゃあどうしたら入部認めてくれるの?」


「俺は断固として柏木さんの入部に反対」


「ぐぬぬぬ・・・分かった。最終手段出すしか無いっぽいね」


「最終手段だと?」


「学校祭の時、マゴイチくんの手作りクッキーとして売り出してたけど、アレ嘘なんでしょ?マゴイチくんの手作りじゃないんでしょ? このコト、実行委員会とか学校側にチクったら困るんじゃない?」



 この女、脅してきやがった!?


 銭ゲバ部長がやらかしたことだが、確かに俺から見ても酷い詐欺商法だと思ったし、学校内で行われたこととなるとバレれば大きな問題になりそうだ。最悪、来年の学校祭に参加禁止とか部活動の活動停止処分とか。


 こうなると俺一人で安易に判断出来ないので、横に居る部長のアクア先輩をチラリと見ると、目を瞑って天を仰いで鼻をピクピクさせながら考え事している。



「学校祭の時見ててなんか楽しそうだし、放課後ヒマしてたから入ってみたくなっただけで、別に料理部で問題起こそうとか考えてないし、いいでしょ?」


 俺だけじゃなく他の部員の面々も難しい顔して、どうしたら良いんだろうか?と悩んでいると、部長のアクア先輩が妥協案を提示した。



「分かりました。仮入部としてなら認めます。 冬休みまでの残りの2学期の間、試用期間として部活での態度を見て正式に入部を認めるか改めて判断します。 実際に柏木さんだってココでトラブル起こしてるんだから、コチラが警戒する気持ちは分かるでしょ? ソコに入りたいと言うのなら問題起こす気がない事をこれからの態度で示して下さい」


「ホント!?やった~!マゴイチくん!これからヨロシクね!」


 アカネさんはそう言って、満面の笑顔で俺の顔を覗き込むようにして、ダブル横ピースを決めた。

 その笑顔を見てて早速ぶん殴りたくなったが、なんとか堪えた。

 アカネさんが昔と変わった様に、俺も中学の頃と違って大人になったのだろう。




 アカネさんは、この日から早速部活動に参加することになった。

 各メンバー、調理を始めたばかりでの柏木アカネ襲来で時間が押していたので、アカネさんの相手をしている余裕が無く、アクア先輩がアカネさんの面倒を見ることになった。


 皮剥きとか調理器具の洗浄とか雑用ばかりさせられていたが、これは俺も通った道だし新人見習いとしては当たり前のことなのだが、1学期に俺の指導してた時のゆるゆるふわふわと違ってアクア先輩は超スパルタモードで、「皮を厚く剥いたら勿体ないでしょ!もっと薄く!」とか「コレ、汚れが残ってる。やり直し!」とかビシバシ指導してて、かつてアクア先輩のこんなにも厳しく指導する姿は見たことが無かったので、部員の間では「女神の様な微笑みのママから、肝っ玉かーちゃんに覚醒した」と囁かれた。


 ただ、意外だったのは、アカネさんの方は不貞腐れたり怒ったりすることなく、言われたことを真面目にやっていたし、指摘されたことも素直に直すようにしてたので、問題を起こすようなことは無かった。


 そして、調理が終わってみんなで試食タイムが始まると、一人ではしゃぎながらみんなが作った料理をバクバク食べてて、俺の料理も「マゴイチくん!このジャンバラヤ凄く美味しいよ!マゴイチくんって料理上手なんだね!」と本当に美味しそうにバクバク食べてくれて、そういう姿を見てて悪い気はしなかった。



 その後、アカネさんは真面目に部活に参加し続け、持ち前のコミュ力で少しづつ部員の面々とも打ち解け、無事に正式に入部が認められたのだが、その頃には料理部の部員らしくふっくら体形になり始めていた。



 冬休み直前の2学期最後の部活動の時に、改めて「なんで料理部に入ろうと思ったの?」と聞いてみた。


「うーん、やっぱり羨ましかったからかな?」


「料理部が?」


「うん。 みんな凄く楽しそうで先輩後輩も仲良さそうだし、それにマゴイチくんとも仲良さそうで、そういうの見てて羨ましかったの。 私、中学の頃周りに距離置かれてずっと一人だったでしょ?だから高校入ったら目一杯楽しく過ごそうと思って頑張ったけど、マゴイチくんと同じ高校になっちゃったから、どうしてもマゴイチくんのことが気になってて。でも、マゴイチくんと昔みたいに仲良くしたくても、マゴイチくんの周りが凄いガード堅くて話しかけることも出来なくて、そしたら偶然だけど学校祭の時にマゴイチくんから話掛けてくれて、チャンス!って思って料理部来てみたら、アクア先輩とか優木先輩とかに絡まれて」


「そりゃ自業自得でしょ」


「そーだけど、でも、私は高校では楽しく過ごしたいだけなんだよね。 マゴイチくんとヨリ戻したいとか考えてないって言ったらウソになるけど、でももう優木先輩とくっついちゃったからあの先輩に勝てる気しないし、でも友達としてならワンチャンあるかも?って思って料理部に入ることにしたの」


「ナニそれ。そういう発言が出てくるから胡散臭くて信用出来ないんだけど」


「ははは。ワカリミだよね!そりゃ二股してた女がナニ言ってんだって思うよね!」


「自分でも分かってんのかよ! 因みに、西高に入って俺と一緒になったのは偶然?狙ってとかじゃないよな?」


「ないない!マゴイチくんが西高だっていうの入試の時の試験会場で見かけて初めて知ったし。っていうかそんな風に思われてたの?ちょっと自意識過剰じゃない?」


「なに!?自意識過剰だと! 俺が最も恐れていることを・・・つーか、山倉アヤ情報だし!あの女がアカネさんが俺追っかけて西高受験したって言ってたんだし!」


「はぁ?あの子そんなこと言ってたの? まーそう思われても仕方ないけど、相変わらず思い込み激しいね、アヤちゃん」


「ついでだから聞くけど、中学の頃ってもっと大人しくて優等生っぽかったじゃん? なんで今こんなにチャラチャラしてんの?」


「え?チャラチャラしてる?私としては明るく振舞ってるだけなんだけど。 でも、中学の頃にいくら真面目ぶって振舞ってても、何かあればすぐビッチだ屑だって騒がれたし、だったらもう我慢するの止めようって開き直って、高校入学でキャラ変えたの。最近はもう慣れたけど、こう見えても最初の頃は結構必死だったんだよ?」


「まぁ高校デビューってみんなそんなモンか」


「高校デビューって言われると、凄くダサく聞こえるから言わないで欲しいんだけど?」


「っていうかさ! 二股して俺の事裏切ったクセになんで元カレの俺にそんなに普通に出来るのさ!そもそもそこが謎過ぎるんだけど!」


「それは教えてあげない。 女って、謎がある方が魅力的でしょ?」


「ナニ言ってんだ?やっぱ頭イカレてんな」


「だって、私ってカワイイし?しょうがなくない?」


 そう言って俺に向かって横ピース決めてウインクする柏木アカネ。


「マジでヤバイはこの女」


「カワイイは否定しないマゴイチくん、ウケる」クスクス



 アカネさんと話してて気づいたのが、純粋にキラキラして楽しそうなの。なんていうか眼に悪意が無い?感じ。 過去に二股したり最近でもトラブル起こしたりしているが、もしかしたら本人は悪気が無く本当に楽しく過ごしたかっただけなのかもしれない。 まぁ、もしそうだったとしても悪気無く二股されたらたまったモンじゃないが。



 こうして、なんだかんだとなし崩し的に柏木アカネとも仲直りしていた。


 因みに本人曰く、料理部に仮入部してから6キロ太ったそうだ。






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