#71 復活したイケメンの帰還





 黄色いエプロンを外すとアリサ先輩がソレを受け取ってくれたので、あとは自分のリュックを回収しようと荷物置き場にしている準備室へ向かうと、何故かアフロが俺のリュックを背負って準備室から出て来た。



「マゴイチ、いこー」


「お、おう」



 アリサ先輩&元カノ軍団の睨み合いが続く中、料理部のみんなに「休憩行ってきます」と声を掛けると、流石にツーショット撮影会を強制してた俺に対する後ろめたさがあった為か、もしくはこの地獄の様な空間で元凶である俺を速やかに遠ざけたかったのか、それとも俺の顔に死相が浮かんでいたからなのか、いずれにせよ料理部のみんなが引きった顔で「いってらっしゃい」と言ってくれたので、既に大事な何かを失ってしまっている俺は遠慮など一切せずにアフロと二人で家庭科室を後にした。



「アフロは残ってなくていいのか?」


「あれはマゴイチの取り合いみたいなもんでしょ? ウチ関係ないし腹も減ったし」


「マジか・・・と、兎に角メシ行くか。 アフロはなに食べたいんだ?」


「ココの学校、食べ物の販売全然無いじゃん」


「そういえばそうだったな」


 部長が「学校祭の当日は火の取り扱いが厳しいから、料理なんかの販売が難しい」とか言ってたしな。

 目ぼしい飲食関係は料理部の焼き菓子販売の他には柔道部と剣道部が合同で喫茶店をやってるらしいが、珈琲や紅茶とあとは既製品のケーキくらいしか無いらしく、昼飯にはならないだろうな。


「んじゃ一度ウチ帰って何か作るか。テンザンにも会いたいしな」


「おっけー」



 自転車置き場で愛車を回収し校門出て二人乗りで俺んちに帰ると、庭に居るテンザンの元へ。


 空でも飛ぶような勢いで飛びかかってきたテンザンを抱きしめ、数時間ぶりの再会の喜びを嚙みしめる。


「テンザン・・・会いたかったよ・・・」


 どれほどの時間、そうしていただろうか。

 1分か2分だろうか。何せ朝家出る前に会ってるし特に再会の感動とかは無いしな。


 テンザンを抱きしめ獣臭を嗅いでいると、欠落していた大事な何かが修復されていくような、心に染み渡るような、そんな温かみと潤いを感じる。


 愛くるしいテンザンの温もりを充分に満喫すると、「よし!狂犬マゴイチふっかーっつ!」とテンションを上げる。


 そして復活した俺は抱きしめていたテンザンを放して、踊りだす。

 勿論踊りは変なおじさんのダンスだ。



「アフロ!お前も踊れ!熱いパッションを俺に見せてくれ!」


「おっけー」


 俺とアフロが汗を流しながら変なおじさんのダンスを踊って居ると、テンザンもテンションが上がって来たのか俺たち二人の周りをグルグルと徘徊しながら、時折「わん!」と合いの手を入れていた。



『へっんなオジっさんった~ら、へっんなオ~ジっさんっ!』

「わん!」


『へっんなオジっさんった~ら、へっんなオ~ジっさんっ!』

「わん!」


『へっんなオジっさんった~ら、へっんなオ~ジっさんっ!』

「わん!」


 両手の拳をぐるぐる、お尻をふりふり

 変顔しながら一心不乱に踊り狂う俺とアフロとテンザン。


 しかし、突然一人だけ踊りを止めるアフロ。


「っていうか!マジお腹空いてんだけど! マゴイチ、メシ作ってよ!」


「ああそうだった。昼飯食べに帰って来たんだったな」


 空腹に耐えかねたアフロの訴えに漸く正気を取り戻した俺とテンザンは、家に入り食事の準備をすることにした。

 因みにテンザンは台所に来ても料理は出来ないので、俺に纏わりついて邪魔をする役目を担っている。



 かーちゃんが今朝早く起きて作ってくれた弁当がそのまま残っているので、インスタントらーめんを野菜たっぷり入れて一人前作り、弁当とらーめんを二人でシェアすることにした。


 らーめんを調理しながら食卓に座っているアフロに話しかける。



「アリサ先輩たち、大丈夫かな」


「大丈夫じゃね?流石に学校の中じゃ殴り合いとかしないでしょ」


「まぁそうなんだけどな。 それにしてもアカネさんはマジヤバかったわ」


「アカネって柏木アカネだっけ?そんなにヤバイん?」


「だってさ、付き合ってた時に俺に二股バレて俺がめっちゃ暴れて別れてるのに、何事も無かったかのようにフレンドリーに話しかけてくるんだぞ? 元々そんなキャラじゃなかったから別人と話してるみたいでちょーこえーの」


「あーでも、「バレちゃった♪ テヘ☆」くらいの感覚なんでしょ。ウチだってそんな感じだし」


「あー!そーじゃねーか!アフロもスポーツ感覚でエッチしてる糞ビッチだったじゃねーか!」


「まぁアレじゃね?色々喰ってみたくなることあるじゃん? 他の人はどうなんだろ?ってさ」


「いや無いな。俺のチンコはそんなジャンクフードのバカ喰いしてるくせに通ぶってる様な安っぽい自称グルメなチンコじゃねーし、アフロと一緒にするな」


「ウチのグルメマンコのことより、この後どうするん?メシ食べたら戻るでしょ?」


「アリサ先輩が落ち着いたら連絡くれるとは言ってたけど、連絡無くても戻った方が良いだろうな」


「んじゃ早くメシ食べよう!」



 俺の作ったらーめんとかーちゃんが作ってくれた弁当をアフロと二人で食べながら、家庭科室に残ってる5人の女子の戦闘力ランキングについて話し合った。



「1位は間違いなくアリサ先輩だな。俺より強いし」


「そーだねぇ。アリサは身体能力もテクニックもダントツだしね」


「2位はアンナちゃん?いっつも喧嘩っぱやいし」


「いーや、アンアンは威勢は良いけど所詮陰キャ帰宅部だし実力的には低いでしょ」


「じゃあ・・・アクア先輩だ!あの人、めちゃくちゃパワーあるからな! 今朝だっていきなり抱きしめられたから振り解こうとしたんだけど、まじでビクともしなかったぞ! アクア先輩なら野生のクマ相手でも絞め殺すんじゃね?」


「なるほど・・・となると3位は柏木アカネ?」


「あの女は未知数だな・・・アンナちゃんとドチラが上かは実際に戦わせてみないと何とも言えんな」


「うーん。 まぁアズサは安定のビリだな」


「いや、解らんぞ? 先週ダンジョンで大泣きしながら抱き着かれたけど、結構なパワーだったぞ? それにアリサ先輩に相当スパルタで鍛えられてるっぽいし、泣き虫のクセして結構図太いとこあるから、案外アンナちゃんくらいなら捻りつぶすかもしれんぞ?」


「ないないないない、アズサって超ポンコツだよ?」


「ポンコツなのは間違いないが、アレは泣いたら強くなるタイプじゃないかと俺は疑ってる」



 二人でいつもの様に下らない雑談しつつ、昼飯を食べ終えて洗い物も協力して終えると、まだアリサ先輩からは連絡が無かったが、俺たちは学校に戻る準備を始めた。


 テンザンを庭に連れて行くと、つぶらな瞳で「マゴイチ、もう出かけちゃうの?」と無言で訴えられ、その瞳にほだされた俺はテンザンも学校へ連れて行くことにした。


 いつも使っているリュックの中身を全て取り出し、そこに首だけ出した状態でテンザンを入れて、リュックごと前面に抱えるようにしょい込むことで俺とテンザンの超合体バージョンの完成だ。


 2人+1頭で愛車に乗って学校へ行くと、みんなが俺をジロジロ見て来る。

 普段から視線を集める方だが、ココまで注目を集める事も珍しい。

 きっと、俺とテンザンの超合体に憧れの念でも抱いているのだろう。まじカッコいいしな、超合体。


 因みに、後日西高内で「1年8組のマゴイチが連れていた子犬が、凄く可愛かった」などの噂が広まるが、事実だったので特に否定はしなかった。



 校門で学校祭実行委員の連中に捕まり小言を言われたが、「ぬいぐるみです。ぼくコレないと夜も眠れないんです」と泣き真似しながら適当に思いついた言い訳をすると、無事入場することが出来た。


 西高のセキュリティーの甘さに一抹の不安を覚えながらも無事に再入場することが出来て安堵した俺たちは、駐輪場に愛車を停めると家庭科室へ向かうことにした。



 家庭科室前の廊下には俺たちが先ほど居た時よりも多い数の人だかりが出来ていて、よく分からないがみんな興奮気味で盛り上がりを見せていた。


「なんかすげぇギャラリーが集まってんだけど、中でナニしてんだ?」


「さぁ?」



 アフロを連れて超合体バージョンのまま人込みをかき分けて何とか家庭科室の入り口に辿り着いて室内に入ると、中央の島の調理机にアンナちゃんとアクア先輩が向かい合って座り、睨み合いながらお互いが腕捲りして肘を付いた右手で握り合っていて、横に立つ料理部3年の部長が両手で二人の握っている手を包み込むように押さえていた。



 どうやら、今この家庭科室では、元カノ同士の腕相撲勝負が行われているらしかった。



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