#67 賑やかな休日の学校




 秋も深まり、朝夕は少しづつ肌寒くなって来た10月下旬。

 ベッドで目を覚ますと、いつもと明らかに様子が違う。



 ああ、そうだ。

 また誰かウチに泊まっていったんだっけ。



 その誰かに抱き着かれてて、髪が俺の顔や首にワサワサ当たってくすぐったいんだけど、抱き着いてる誰かの体がぷよぷよしてて、いつまでもこのままぷよぷよの感触を堪能していたいと寝ぼけながらぼーっとしていた。



 ああ、そうだ。

 泊まっていったのは、アンナちゃんだった。


 アンナちゃんの体、良い匂いするし柔らかいなぁ。


 ぶよんぶよんのおっぱいだけじゃなくて、腕も太モモもムニムニしてて、女の子の体ってやっぱ素敵だ。

 見てるだけでも幸せな気持ちになれるのに、こうやって服の上からでも触れ合ってると、腹の底からズーンと気持ちが昂ってくる。

 ずっとこうしてたいな・・・でも、さっきから下半身がムズムズしてきた。


 だ、ダメだ!

 ムラムラしてきた!

 シャワーでも浴びながら一発スッキリしてこよう。



「アンナちゃん? アンナちゃん、朝だよ? 起きて?」


「・・・」


「アンナちゃん、おきろー」


「・・・」


 アンナちゃんは返事をしない代わりに、俺の首に抱き着く腕と脚に絡ませている生足にギュっと力を込めて来た。

 さては、起きてるな?


「ヤッベ、チンコタッテキタ。アーアンナチャンガダキツクカラ、ムラムラシテキター。アンナチャンガハナレテクレナイカラ、コノママイッパツスッキリシヨーカナー」


 俺が棒読みで健康的な男子の朝の習性を訴えると、アンナちゃんは首に回していた手を解放して両手で俺の胸を押してベッドから押し出そうとした。


 この時のアンナちゃんの必死な形相は、昨日の『アンナとマゴイチくんは幼馴染!』と宣言していた時の楽しそうな表情が遠い昔の事の様に思えるほど、嫌悪に満ちていた。


「仕方ないじゃん!男は朝起きるとチンコも起きるの!そういう習性なの!それなのに抱き着いてくるアンナちゃんが悪いじゃん!」


「きっも!サイテー!あーもう!マゴイチくんの固くなってたのアンナの脚に当たってたよ!」


「エヘヘヘ、アンナちゃんの生足、柔らかかったよ?」


「キモイキモイキモイ!キモイ!せっかく幸せな気分で気持ちよく寝てたのに!マジサイテー!」


「んじゃ、俺はシャワー浴びながら一発スッキリしてきまーす」


「いちいち言わんでいいわ!はよ行け!」




 シャワー浴びて下半身の平常心を取り戻した後、そのまま台所で朝食にお味噌汁を作ってから部屋にアンナちゃんを呼びに行くと、アンナちゃんはベッドで二度寝していた。


 アンナちゃんの寝顔はあどけなくて気持ちよさそうで、とても穏やかで、ずっとこのまま寝かせてあげていたい様な、そんな寝顔だった。


 小学校の時に俺に浮気の事実を広められて教室で友達に責められていた時の泣き顔が、今でも思い出されるけど、もうアンナちゃんの泣き顔は見たくは無いな。



「アンナちゃん?朝飯用意したから食べよ?」


「う~ん・・・おきる・・・」


 アンナちゃんを起こして寝ぼけたまま台所に連れて行くと、日曜日なのに珍しくかーちゃんも起きてきてて、とーちゃんも起こして4人で朝ご飯を食べようと言うので、4人で食べた。




 朝食の後、洗面所でアンナちゃんと一緒に歯磨きしていて歯を磨くのに合わせてぶるぶる小刻みに揺れているアンナちゃんのおっぱいに気を取られていると、「あんんもはっこひってひ?」と歯ブラシを咥えたまま言い出した。


 うがいをした後、改めて聞くと、学校祭の準備をしに行く俺について一緒に西高に行きたいということだった。

 昨日、アリサ先輩の制服が部屋に残されていたのを見た時から考えてたらしくて、アリサ先輩の制服着て西高に潜入してみたくなったらしい。


 アンナちゃんはアリサ先輩には内緒で勝手に着るつもりだったが、流石にそれは後でバレそうだし、昨夜の写メのこともあるからどんなに怒られるか分からないので、事前に俺の方から借りていいか聞くと、OKしてくれて、学校潜入も「職員にはバレないように気を付けなさい」と元生徒会長のクセに寛容なことを言っていた。



 早速アンナちゃんは西高の制服に着替えた。

 髪は下ろしてて、セーラー服に合わせて黒のタイツを履いていて、俺の前でくるりと回って「どう?」と聞いてきた。


 セーラー服に黒タイツの組み合わせというだけで、なんだか少し賢そうな清楚というかお淑やかな感じになって、本来のアンナちゃんとは全然違うイメージで、でも凄く似合っていた。



「うん、凄く似合ってるよ。 ピンクのロンパースでも黒のセーラー服でもなんでも着こなせちゃうんだね」


「セーラー服、一度来てみたかったんだぁ♪ よし!今日はコレで西高行くよ!」


「おっけ、んじゃ行くか」




 ◇




 家から二人で歩いて西高へ行くと、昨日もそうだが学校祭まで1週間を切っている為、休日でも結構な数の生徒が登校してて、校舎の外も中も生徒がせわしなく行きかっていて普段平日の授業のある日とは違う賑やかさがあった。


 職員玄関でスリッパを借りてアンナちゃんに履かせて廊下を歩いていると、アンナちゃんが興奮気味に小声で話しかけて来た。


「マゴイチくん!マゴイチくん! めっちゃ見られてる気がするんだけど!アンナのことバレてない?」


「あーバレてるかもね。でも視線集めてるのは多分俺のせいだよ」


「マゴイチくん、西高でも何かやらかしたの!?」


「違う違う。 ココだと俺とアリサ先輩が付き合ってるっていう噂があるから、その俺が違う女の子、しかも見かけない美少女連れてるからみんな気になるんじゃないかな」


「へー、やっぱ西高でもマゴイチくんって注目の的なんだね」


「俺よりもアリサ先輩だね。 西高じゃアリサ先輩はヒーローだから」


「アリサ、只者じゃないとは思ってたけど、西高じゃマゴイチくんよりも有名人なんだ」


「3年だし元生徒会長だからね」



 お喋りしながら歩いていると、図書室に到着した。


 家庭科室に行かずに図書室に来ているのは、料理部でのお菓子製作などの本格的な準備は月曜の明日からで、今日は宣伝活動の準備だけする為に俺だけ自主的に学校に来ていた。 そして図書室にはパソコンやプリンターとして使えるコピー機もあって、学校祭の準備として申請すれば無料で使用も可能だからだ。


 この日は俺と同じような目的で図書室を利用する生徒や、出し物関係の調べものや他にも利用する生徒が結構いる為、図書室が解放されていた。 因みに図書の貸し出し業務は休止している。


 図書室では、図書委員の顧問でもある諏訪先生が利用者の応対をしていた。



「こんちは。コピー利用しに来ました」


「あら?マゴイチくん、今日も来たの~?」


「ええ、昨日完成したチラシとポスターのコピーとか貼りだしに来ました」


「え~てっきりアサコに会いに来てくれたと思ったのに~♪」


「んなわけ無いじゃないですか」


 俺が諏訪先生といつもの様な下らない挨拶を交わしていると、アンナちゃんが「ちょいちょい」と耳打ちしてきた。



「この女なに?西高の先生なん?」


「俺のクラスの担任で、俺が入ってる図書委員の顧問だよ」


「担任なの!?こんなんが担任とか西高マジやべー」


 アンナちゃんには諏訪先生の痛くてウザいキャラが衝撃的だったようだ。



「あら?そういえば今日は優木さんとは違う子を連れてるのね」


「ええ、学校祭の準備手伝って貰ってます」


「へー、相変わらずモテ散らかしてるのね」


「そんなんじゃないですよ。 コピー機使いますね」



 俺がコピー機で作業を始めると、諏訪先生は暇なのかずっと俺たちの方ばかりを見ていて、アンナちゃんも止せばいいのにそんな諏訪先生に対して挑発するようににらみ返していた。


 一触即発の空気の中、居たたまれない俺はさっさと予定していた枚数のコピーを終わらせ、アンナちゃんを連れて図書室から離れた。



 チラシは各クラスに掲示用に配る物と学校祭当日に来場者に手渡しで配布する用で、ポスターは学校祭実行委員が貼り出しを許可している各掲示板に貼る。 今日はこのポスターを貼る作業もすることにしていた。


 一度1年8組の教室に行き、俺のロッカーにチラシの束を仕舞うと、実行委員から配布されているポスター掲示に関する案内を見ながら1階から順番に掲示板を周って、ポスターを掲示して行った。



 3階の掲示板でポスターの貼り付けを終えたところで、大声で俺の名前を呼ぶ声が聞こえて来た。



「マゴイチみつけた!」


 コチラに駆け寄りながら俺を呼ぶ声の主はジャージ姿のアリサ先輩で、その後ろにはなぜか同じく西高のジャージ姿で息えのアズサさんも居た。



「二人してなぜこんなトコに!?」


「なぜって、マゴイチに会いに決まってるじゃない」


「それにしてもアズサさんまで?」


「ああ、私が学校にマゴイチに会いに行くって言ったら、この子もついてきたい言うから連れて来たのよ」


「それでジャージでカモフラージュを」


「そうなの。でもマゴイチに借りてるジャージは私が着てるわよ? アズサにマゴイチのジャージは10年早いからね!」


「はぁはぁ、10年も待ってたら、はぁはぁ、私、高校生じゃないです、はぁはぁ」


「そんなことよりもアンナ!昨日のアレは何なのよ!」


「あーアンナとマゴイチくんのラブラブ仲良しツーショットのこと~? アンナたち超仲良し幼馴染だし~?アリサが入り込むスキマ無いってこと分かってくれた~?」


「アンナ・・・あんまり調子に乗ってると、ぶっ殺すぞ」


「昨日の仕返しだし!ベーっだ!」


「こらこら、学校の中で喧嘩するのは止めなさいって。まだ4階のポスター貼り残ってるから、サッサと終わらせるよ!」




 ポスター貼りの作業を終わらせると、一度俺んちに戻ることになった。


 アリサ先輩は自転車があるのに何故かアズサさんは徒歩だったので聞いてみると、早速今日の朝からアリサ先輩によるアズサさんのシゴキが始まったそうで、体力づくりと称して西高までアズサさんを走らせて来たそうだ。


 アズサさん、道理で今にも倒れそうな程ヘトヘトになっていたんだな。


 そんなアズサさんは俺んちに着くと、初めて俺の家に来たくせに俺の部屋のベッドに倒れるように寝転がると、そのまま夕方まで起きなかった。

 アズサさん、意外と神経図太いのかも。シャイな俺には初めてお邪魔した友達んちでこんな真似は無理だ。

 いや、形振なりふり構っていられないほど疲労困憊ひろうこんぱいで、アリサ先輩のシゴキがそれほどハードだったと言うことか。





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