#65 初代元カノの変化
「え?今から?」
「うん。 だめ?」
アンナちゃんがウチに泊まることは今までだって何度もあったが、毎回アリサ先輩とアフロも一緒の時だけだ。それが今日は一人で泊まりたいということか。
つまり、俺と二人きりになりたい、と。
こ、これは・・・アンナちゃんも十代の熱いリビドーを、今夜解き放ちたいということだろうか・・・
チラリとアンナちゃんの表情を横目で伺うと、アンナちゃんお得意のあざとく媚びるような眼差し、では無く、何やら考え事でもしているような、珍しくシリアスな表情だ。
うーむ、童貞の俺には判断が難しいが、俺と熱い夜を共にしたいという雰囲気では無さそうだな。
「んじゃ、一度アンナちゃんちに寄って、着替えてからにする?」
「うん、そうする。 ありがと」
「あいよ」
そこからはお互い無言のままペダルを漕いでアンナちゃんの家まで行き、アンナちゃんは制服から部屋着に着替えて上にカーティガンを羽織ると、「タナハシも散歩がてらに連れてくね」と言って、自転車ではなく徒歩で俺んちまで行くと言うので、アンナちゃんのお泊りセットが入ったトートバッグを預かり前カゴに入れると俺も自転車を押しながら歩いて俺んちへ向かった。
歩いていると、アンナちゃんは今日あった色々なことを振り返るように話し始めた。
「朝起きて学校行くまでずっと緊張してて、「漫才する」なんて言うんじゃ無かったって後悔しまくってたところだったのに、マゴイチくんたち3人がかりでアレはマジ酷すぎ。 友達辞めようか真剣に悩んだよ」
「でも、お蔭で緊張解れたでしょ? ステージに立ってたアンナちゃん、全然緊張してるように見えなかったし、堂々としててカッコ良かったよ。むしろ見てる俺の方のが緊張してたな」
「うふふ、アンナもちょっとだけ思った。 ステージに立って客席見たら、最前列に座ってるマゴイチくんの顔が、めっちゃ不安そうなんだもん。 なんでマゴイチくんがアンナよりビビってるの!?って」
「そりゃ心の友の晴れ舞台だもん。 もうなんかさ、保護者の心境? ドキドキが凄かったね」
「そうだったんだ。 ・・・ずっと、ありがとね」
「いや、俺は結局大したことはナニも出来なかったよ。 漫才に誘ったのはアフロだし、大事なところで意見したり尻叩いてたのはアリサ先輩だったし、俺は口だけでオロオロしてばっかだったな」
「ううん。漫才のことだけじゃなくて、私のこと赦してくれたことも、友達になってくれたことも。 そういうの全部、ありがと」
なんだか、今のアンナちゃんは妙に素直だな。
「今日の戸田っちの話聞いてて思ったんだよね。 マゴイチくんに赦して貰えて、今こうして楽しく過ごせてることって、やっぱり凄いことなんだなぁって。 今日学校で戸田っち、めっちゃ泣いてたじゃん。私だってああなってても全然可笑しくなかったわけだし、もしコレがマゴイチくんじゃなかったら、私なんて赦して貰えてないよ」
「そんな大げさなことじゃないと思うけど。 結局は、人間関係っていうか人の縁なんてそういう物なんじゃないの? ただ、俺の場合はアンナちゃんが言う様に、女の子には甘いと自分でも思うけど」
「そこがマゴイチくんの良いところだよ」
「良いところなの?」
「うん。良いところだよ。うふふ」
「そっか」
家に着いてタナハシをテンザンの犬小屋に繋いでから家に上がり、親にアンナちゃんが泊まることを一言伝えて自分の部屋に入ると、ハンガーに掛けられたアリサ先輩の制服が残されたままなことに気づいた。
「あ、そう言えばアリサ先輩、俺のジャージ着たまま帰ってるじゃん」
「この西高の制服って、アリサのなの?」
「うん。スマホに何かメッセージ来てるかも」
カバーオールだとポケットが無くて置きっぱなしにしてたスマホのメッセージを確認すると、アリサ先輩から『明日、制服取りに行くね』と来ていた。
「明日取りに来るって。 でも明日は日曜だけど学校祭の準備しに学校行くつもりなんだよな」
「ふーん、結構忙しいんだね」
「料理部で、焼き菓子販売するんだけど、俺、宣伝係なんだよ。それで明日はチラシとかポスターとかの準備しようと思ってて」
アリサ先輩には、『明日も学校行くから、来る時間決まったら教えて下さい。それに合わせて家に居るようにします』とメッセージを送り、アンナちゃんにはお風呂に入るように伝えると、「じゃあ着替え貸してね」と言って俺のタンスを漁り始めた。
ウチにお泊りに来た時は毎回そうだったので、「あいよ」とだけ返事して、俺も服を着替えていると、アンナちゃんはアクア先輩から貰ったピンク色のロンパースを見つけて、「なにコレ!?ちょーかわいいんだけど!」と興奮気味に両手で持って広げた。
「ああ、それ、アクア先輩から貰ったベビー服。 色がアレだし半袖半ズボンだから流石に恥ずかしすぎて1度しか着てない。因みに、アリサ先輩には「オカマバーに居そう」って言われた」
「コレ、パジャマ代わりにアンナが着てもいい?」
「どうぞ、好きなだけ」
「やった! じゃああと下着も貸してね」
「あいよ」
俺は出かける前にシャワーを浴びてたので今夜はそのまま寝ることにして、アンナちゃんが風呂へ行き一人になると、寝る前に学校の宿題だけ片付けることにした。
3~40分ほど集中して勉強をしていると、「ただいまぁ」と言ってドライヤー片手に髪が濡れたままでロンパース姿のアンナちゃんが戻って来た。
「ごめん、宿題だけ片付けてる」
「うん、大丈夫だよ。 アンナもその間に髪乾かしたりしてるね」
再び勉強に集中し始めると、アンナちゃんはドライヤーで髪を乾かしたり、お泊りセットのトートバッグをゴソゴソしてはスキンケアとかを始めた。
宿題が終わり、机の上を片付けて「う~ん」と伸びをしていると、アンナちゃんも立ち上がって「どう?」と声を掛けて来たので、イスに座ったままアンナちゃんの方を向くと、腰に手を当ててポーズをとっていた。
髪型をツインテールにしてて、素足のナマ脚まる出しで、ピンクのロンパースもアンナちゃんには凄く似合っていた。
「おお? めっちゃカワイイね。 ツインテールしてるの、久しぶりに見たけど、なんか小学校の頃のアンナちゃん思い出す。髪も結構伸びたもんね」
「ほんと?カワイイ?」
「うん。ロンパースも似合ってて凄くカワイイよ。 オカマ感、ないね」
「うふふ、ありがと。 っていうか、マゴイチくんって女の子褒めるのもすっごい慣れてるっていうか、いつも照れたりせずにストレートに言うよね?」
「ん?照れることじゃないでしょ。 カワイイんだからカワイイって言ってあげないとダメでしょ」
「あーそういうトコが、イケメンだからなんだろうなぁ。 自分が容姿で褒められるのに慣れてるから、相手を褒めるのにも全然迷いがないというか」
「むむ、変かな?止めた方が良い?」
「変じゃないよ!止めたらダメだよ! 女の子はカワイイって褒められたい生き物なんだから!」
「そう?なら良いけど」
「でも、マゴイチくんに優しくされてイケメンフェイスで「カワイイよ」なんて言われたら、惚れちゃう女の子続出しちゃうし、アンナだけに言ってくれれば良いんだけどね」
「でた、チヤホヤされるの大好きアンナちゃんだ。 そういうトコもなんか小学校の頃、思い出す」
「小学校の頃とは違うよ? あの頃はみんなにチヤホヤして欲しかったけど、今はチヤホヤして欲しいのはマゴイチくんにだけ! マゴイチくんもチヤホヤするのはアンナにだけにして欲しいの!」
「えー、なんかジャイアニズムっぽいな、流石女ジャイアンだ。 っていうか、なんか今日のアンナちゃん、いつもと違うくない?なんというか、妙に素直というか、女の子してるというか。 急にウチに泊まりに来たいって言いだしたり、なんかあったの?」
最近はたまにツンデレになることあったけど、今日のアンナちゃんはツンが無くてデレ多めだ。
「うーん、まぁ色々考えちゃって・・・って内緒! あ!そだ!写メ撮りたい!」
「ああ、じゃあ写してあげるからスマホ貸して」
「違う違う、二人で写すの! ほら、コッチコッチ!」
アンナちゃんはそう言って両手で俺の手を取って立たせると、ベッドにくっ付いて座り、腕を組んでツーショットの自撮りを始めた。
写しては画像を確認し、写しては画像を確認し、と繰り返してる内に「アリサが見たら悔しがるヤツ撮ろう!」と言い出して、俺の膝の上に座って自撮りしたり、頬っぺた同士をくっつけた顔アップで写したり、俺の膝に頭を乗せて寝転んで写したりと、イチャイチャバカップルの様な写メを大はしゃぎで撮りまくっていた。
「はぁ~、やっぱ楽しい!」
「元気だなぁ。 今日色々あったから流石に俺は疲れたよ。眠くなってきた」
「ごめんごめん。もう寝たい?」
時計を見ると、まだ10時を回ったばかりだった。
「うーん、まだお喋りしたいなら付き合うよ」
「じゃあ、お布団入ってお喋りしよ?」
「あいよ。 アンナちゃんベッド使って。布団取ってくるから、俺、下で寝るわ」
「え?いっしょにベッドで寝よーよ。その方が話しやすいでしょ?」
なんだと?
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