#61 再会は突然に




 二人の漫才が終わると、俺とアリサ先輩は先ほどアンナちゃんを説得していた体育館裏へ戻り、アフロとアンナちゃんと合流した。



「二人とも!俺は感動した!よくやり切ったよ!ううう」


「なんでマゴイチくんが泣いてんの!?こんなキャラじゃないでしょ!?いつものクール気取った童貞プリンスどこいったの???」


「っていうか、アリサが一番前の席でデカい声でバカ笑いするから、ちょー気になって集中出来んかった」


「マジそれ!何で他校の生徒が最前列でバカ笑いして一番目立ってるの!?マジで有り得ないんですけど」


「いいじゃない、面白かったんだから」


「アリサあんだけエラソーに語ってたのに、笑いの沸点低すぎじゃね?」


「いや!二人とも面白かった!俺は感動した!」


「このイケメン、マジうざいんですけど」



 舞台をやり切って興奮気味のアフロとアンナちゃん。

 それまでの紆余曲折を見てきて無事にやり切ることが出来た二人を見届けて興奮気味のアリサ先輩と俺。

 4人とも興奮してて、わちゃわちゃ盛り上がっていたが、4人ともまだまともに昼ご飯を食べていないし、アフロはこの後に別の用事があるということで、急いでお昼を買って来て食べることになった。


 その際に、先ほどの唐揚げの模擬店でのやり取りをアフロとアンナちゃんに話すと、「ウチらの学校、他校のイケメン情報は早いよ。マゴイチのことなんて「西高の1年に入学式初日に3年女子に逆ナンされたイケメンが居る」って1学期の頃から有名だし」とアフロが教えてくれた。


 ということで、俺が買い出しに行くとまた面倒なことになるだろうと、アフロたち3人で買い出しに行ってもらうことになった。




 ◇




 俺は待ってる間にお手洗いに行こうと、一人で体育館の正面ロビーに周り、ロビー脇にあるトイレで用を足していた。


「私立だとトイレがスゲェ綺麗だなぁ」と感心しつつあっちこっちキョロキョロ見回しながら外に出て体育館の裏に戻ろうとすると、不意に後ろから名前を呼び止められた。


「に、西尾くん!」


 いきなりだったが、先ほどの唐揚げ屋でのことを思い出した俺は「あぁん?」と警戒心MAXの鋭い目つきで呼ばれた方へ振り向いた。

 そこにはダンジョンの制服を着た女子が一人、怯えた様子で立っていた。

 ダンジョンの生徒の割には派手な印象は受けないが、容姿はとても整った美少女で、何より目を惹くのが、制服に包まれているのに自己主張している豊満な胸だ。



 見間違うことは無い。

 約1年前に別れた元カノ、『戸田アズサ』



「ひ、ひひ久しぶり、西尾くん・・・」


「久しぶり。 俺になんか用事?」


 面倒なのに見つかっちゃったな、と思いつつも、今のアズサさんからは敵意や下心は無いように見えたので、無視をせずに応対することにした。

 とは言っても、どうしても去年の二股の事が頭にあるので、不機嫌な言葉遣いになってしまうが。


「西尾くんが来てるって噂聞いて、それで探してて・・・」


「それで?」


 内心は「関わりたくない、面倒臭い」と言うのが本音。

 だが、周りに多くの人が行きかう中で女生徒と揉め事で騒ぎ起こしたら、色々不味いだろう。

 ココはダンジョン内でアウェーだ。


「あ、あの・・・話聞いて欲しくて」


「え?ココで?その話長いの?長くなりそうなら今は勘弁して欲しいんだけど」


「す、少しでいいので!」


「じゃあどうぞ。手短に」


「去年のあの事、すみませんでした!」


 大声でそう言ってアズサさんは勢いよく頭を下げた。

 そのせいで周りの人が俺たちをめっちゃ見て来る。


「こんな所でそんな大声で謝られても困るんだけど。滅茶苦茶目立ってるじゃん」


「しゅみましぇん・・・」


 この子は、付き合う前も付き合ってる頃も、真面目で控えめで大人しめな子で、浮気された元カノの中でも、二股とか一番しそうには無い人だった。

 なのに、だからこそ、俺よりもチビでデブでブサイクな男とイチャイチャしてたのが許せなかった。 あの時、本当はアズサさん本人にドロップキックを喰らわせたかったくらいだ。


 アンナちゃんの時は小学生の頃の話だし4年も経っていたから、俺の怒りは治まっていたけど、1年の月日では俺のこの怒りは、治まってくれてはいないようだ。



「とりあえず、気は済んだ? 済んだのならもう行きたいんだけど」


「あの・・・」


「友達と待ち合わせしてるし、俺行くわ。 もう話しかけてこないでね」


「あ・・・」



 まだ何か言いたそうな様子だったが、俺は体育館裏に向かって歩き出した。


 背中にアズサさんの視線を感じながらも振り返らずに歩いていると、買い出しから戻って来た3人もやって来て「ウロウロしないでって言ったのに、どうして大人しく待ってないのよ」とアリサ先輩から怒られた。


 みんなが買ってきた荷物を預かり、「おしっこ行きたくなってトイレ行ってたんすよ。ココのトイレ、スゲェ綺麗でしたよ。西高みたいに便器黄ばんでないし」と返事をしながら4人で歩いて体育館の裏まで戻り、4人で壁にもたれる様に並んで座って食事を始めた。




 食事を始めて5分もするとアフロが「戻るわ。 マゴイチとアリサ、見に来てくれてありがとね。 アンアンもお疲れさまね」と言って立ち上がり、手を振りながら校舎の方へ歩いて行ったが、直ぐに戻って来た。アズサさんを連れて。



「この子マゴイチの知り合い? そこの陰でコソコソしてたから声掛けたらマゴイチに用事あるっていうから」


「いや、連れてくんなよ」


「あれ?もしかして元カノだった? ありゃ・・・ウチ用事あるし行くわ!あとよろしくー!」


 相変わらずのアフロに溜め息を吐いて、アズサさんの様子を座ったまま伺う。

 モジモジしながらコチラをチラチラ見てて何か言いたそうだけど、何も喋ろうとはしない。


 アンナちゃんはアズサさんと同級生だし、俺とアズサさんの間で何があったか知ってるから口を挟まずに様子を見ている。 だが、アリサ先輩はそんなことは知らないので、元カノと聞いた途端、敵意をむき出しにした。


 アリサ先輩はジャンボフランク片手に口をモグモグしながら立ち上がると、俺とアズサさんの間に立ちはだかって、アズサさんに話しかけた。



「元カノが(モグモグ)今更、なんの用?(モグモグ) マゴイチに用事あるなら(モグモグ)私が聞くわよ(ゴクリ)」


 俺は隣に座るアンナちゃんに小声で「止めた方がいいと思う?」と意見を聞くと、「放っとけば? アリサもココじゃ暴れないでしょ?」と言うので、様子を見ることにした。


「あ、あああの!わたわたわたしは優木先輩じゃなくて西尾くんに話があるんです!」


「そのマゴイチは話聞く気ないんだって。だから私が聞いてあげるって言ってるの」


「ゆ、ゆゆゆ優木先輩には関係ないじゃないですか」


「あら?そういえばアナタ見た事あるわね。元北中の子かしら? そういえばマゴイチの元カノで北中の二股女の話聞いたことあるけど、それがアナタなのね。 どうせ学校が違うからバレないとでも思って別の男とよろしくやってたんでしょ?同じ北中のOBとして恥ずかしいわね。そんな恥ずかしい後輩の話を聞いてあげるって同じ北中の先輩が言ってあげてるんだから、話してみなさいよ。存分に鼻で笑ってあげるわよ?ホラ、言ってみなさいよ、ホラ」


 あーだこーだとアリサ先輩がいつもの調子で小姑みたいにチクチクとイビり倒していると


「さっきから西尾くんに話があるって言ってるじゃないですか!なんで邪魔するんですか!!!」


 とアズサさんは大声でそう叫び、地べたに座り込んで「うわぁ~ん」と子供みたいに泣き出した。


 俺とアンナちゃんが「うわ・・・」とドン引きしていると、泣かせた犯人のアリサ先輩は、困った顔でコチラに振り向いて、無言で助けを求めていた。






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