#60 思い出作りの漫才



 ステージの中央で、1本のマイクと西中ジャージ姿の二人がスポットライトで照らされている。


 二人の晴れ舞台を間近で見ようと、俺とアリサ先輩は最前列の中央席に座っていた。

 二人とも、もう緊張はしていないようだ。


 少しばかり観客がザワついている中、二人の漫才が始まった。



「1年4組の、安藤です」


「ども!3年2組のハーフ担当!セクシー田中で~す!」


「二人合わせて「思い出作り」でーす」

「二人合わせて「思い出作り」で~っす!」


「うぇ~い!」


「それにしても、ハーフ担当ってなんですか?役職みたいに割り当てられるものなんですか? っていうか自分でセクシーって言っちゃうのもどうかと思うんですけど?」


「え~?ウチってハーフでセクシーだし別に良いでしょ?Gカップだしね」


「ブスですけどね」


「あれ?ウチの担当って、ハーフじゃなくてブスの方だった?Gカップなのに?」


「知らんし!どっちでもいいですよ!」


「ウチとしては、ブス担当よりもセクシー担当のがいいなぁ、Gカップだしね」


「Gカップアピがしつこいなもう!好きなだけGカップ担当名乗ってればいいでしょ! それより漫才するんでしょ!」


「そうそう!漫才やろう!せっかくアンアン誘ってステージに上がったしね!」


「そうなんですよ。 私たち3年と1年で普段は全然接点ないのに、このGカップ担当が急に「思い出作りに漫才やろう!」って言いだしましてね、それで嫌々ながらココに上がってる訳なんですよ」


「やっぱ思い出は大事だよね。カワイイ後輩が1年4組の陰キャ担当で思い出作るの大変そうだなって、先輩としては心配だったのよ」


「よけーなお世話だし!っていうか陰キャ担当になった覚えないし!」


「あれ?陰キャ担当じゃなかった? じゃあ、ぼっち担当?」


「ちっがうし!違わないけど違うから!陰キャでぼっちだけど担当になった覚えないし!」


「と言った感じで、現役JKにも色々あるわけなんですけどもー」


「急に話切り替えてきましたね?」


「ステージ使える時間短いし、巻きで行かないとね。 それでアンアンは高校の思い出ってどんなんがあるの?」


「私ですか? 私は、特に無いですね」


「あ・・・そうだったね。陰キャでぼっちで処女だもんね・・・顔はカワイイのに残念なJKだもんね・・・無神経なこと聞いてごめん・・・」


「いや、謝られると余計に傷つくんですけど!?っていうか何故今ココで処女バラしたし!?殊勝な態度に悪意しか感じねーぞ!?」


「お?ツッコミが冴えてるね~!嫌々ステージ上がったのに頑張ってるアンアンには、1年4組の処女担当に任命してあげよう!」


「いらんし!そこはツッコミ担当に任命してくださいよ!って、1年4組じゃぼっちだからツッコミ入れる相手居ないけど・・・わ、私のことよりもアッコ先輩はどーなんですか!」


「え?ウチ?」


「半年後には卒業控えた3年だし、色々あったんじゃないですか?高校生活で一番の思い出って言ったら何ですか?」


「やっぱ、合コン?」


「いや、同意求める様に言われても、女子高生で合コンが一番の思い出って言う人、そうは居ないと思いますよ?」


「アンアンは合コン行ったことないの?」


「無いですね。 ええ!陰キャぼっちですからね!男子と楽しくトーク出来るようなコミュ力あったら陰キャぼっちになってないですから!」


「えー勿体ないなぁ。合コン楽しいよ?」


「合コンの何がアッコ先輩をそこまで惹きつけて止まないんですか? 合コンに男漁りにでも行くんですか?」


「合コン行くと、美味しーもん食べれるじゃん」


「あーアッコ先輩んちのお母さんのご飯、激マズですもんね。美味しいご飯食べれるのならついつい行っちゃいますよね。でも合コンに食事目的で行く女子高生ってのもどうかと思うんですけど」


「まぁ男も喰うけどね」


「男漁りもするんかい!!!もしかしてアッコ先輩のせいでウチの学校の評判が悪いんじゃないんですか!?この学校、頭と股が緩いって言われてるんですよ!?」


「えへへ、そーかな?」


「褒めてねーし!照れるとこじゃねーし!ナニこのGカップ担当!ブスのくせに合コンではっちゃけ過ぎじゃね!?」


「まぁまぁ、そんなに怒ってばっかだと、折角の美少女が台無しだよ?スマイルスマイル♪」


「び、美少女・・・そーですかね?えへへ」


「やっぱアンアン、チョロいな」


「は?なんか言いました?」


「いやなんでもないなんでもない。 そうだ!アンアンにもそのうち合コンに行く機会あるだろーし、先輩として合コンの極意を伝授してあげよう!」


「いや別にそんな極意いらないんですけど」


「まぁまぁ、きっと必要な時が来るからさ。 「あの時、先輩に極意伝授してもらってて良かった!」って思う日が来るから」


「まぁ、そこまで言うなら」


「アンアン、海釣り行ったことある?」


「合コンの話ドコいった!? またイキナリですね。海釣りですか?無いですけど」


たいって魚いるじゃん?高級魚の」


「ええ、お祝い事とかによく出てくる魚ですよね。ウチでも刺身とかで食べたりしますよ」


「そうそう。ウチは食べたことないんだけどね」


「食べたことないアッコ先輩に鯛の何が分かると!?」


「ことわざで「エビで鯛を釣る」ってあるじゃん?」


「あ、スルーした。 そのことわざなら聞いたことありますよ」


「あれって実際にもそーらしくて、鯛はエビとかサザエとか高級な食材が好物なんだって」


「へー、そうなんですか」


「合コンでも同じなのよ」


「お、ココから合コンの極意に繋がるわけですね?」


「まずは合コンに良い男に来てもらう必要がある訳じゃん。良い男居ない合コンつまんないし」


「なるほど。確かに出会い求めて合コン行ってハズレしか居ないとテンション下がりそうですね」


「そこで、事前に女子メンバーに一人カワイイ子入れるのよ」


「カワイイ子が居るとどーなるんですか?」


「それ聞いた男子側は合コンに行きたい!って思うから良い男も積極的に参加するようになるわけよ」


「つまり、良い男を呼ぶのにエサになるカワイイ女子が必要だってことですね。 でも、カワイイ子居たら、男子からの人気その子に持っていかれちゃうんじゃないですか?」


「そこで重要なのが!カワイイ子でもただカワイイだけじゃなくて、コミュ障の大人しい子とかをピックアップするの。 それで合コン始まったらそのカワイイ子は隅っこに追いやって、後はボディタッチとかおっぱいでアピったりしてあの手この手で良い男をからめ取るのよ」


「なんか生々しいですね。でも、なるほど・・・正しくエサですね。そのカワイイ子との友情は完全崩壊しそうですけど」


「どう?参考になったでしょ?」


「ええ、まぁ。その極意が役に立つ時が来るかどーかは分かりませんけど。 でも、天然アフロのブスにドヤ顔で合コン語られるとなんかイラっとしますね」


「そー言えば・・・アンアンってカワイイのにコミュ力低くかったよね?」


「え?」


「今度、ウチと合コン行かない?」


「エサにする気満々じゃねーかよ!思い出作りどころかトラウマ作りになりそうだし!」


「1年4組のエサ担当として、どう? 一人で帰ってもらうけど、ぼっちには慣れてるでしょ?」


「どう?って、そんな担当ぜったいイヤだし!エサの役目終わったら邪魔だから帰れって言いたいのかよ!完全にヤリモクだし!!」


「大人しくするなら隅っこの方で美味しい物食べてていいからさ。 あ、でもウチの分も残しといてね」


「そんなお情けいらんし!美味しい物食べたかったら一人でファミレス行きますから!!!」


「流石ぼっち担当。一人ファミレスとはレベル高いなぁ。 ってことで来週の土曜日空けといてね。思い出作りに行くから」


「もうええわ!」



「どーも、ありがとーございましたー!」

「どーも、ありがとーございましたー!」




 ステージで頭を下げる二人に、大きな拍手が沸いた。

 顔を上げた時の二人が満足そうな笑顔で、そんな二人を見て目頭が熱くなった。


 ネタ自体は大爆笑とまではいかなかったが、観客からはそこそこの笑い声は聞こえていた。

 一人だけ、横に座るアリサ先輩だけが大声で爆笑してて、その声がやけに目立っててちょっと恥ずかしかったが。

 俺は、ずっと保護者の様な心境で息が詰まる思いで見てて、全然笑う余裕がなかった。


 だけど、後で二人には「よくやり切った!感動した!」と褒めてあげたいな。









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