#59 ダンジョン初潜入




 アリサ先輩とアンナちゃんの通算2度目となるキスの後、公園内をゲラゲラ笑いながら逃げ回るアフロを二人と子犬3匹が追いかけまわしていたが、直ぐにアホらしくなったのか、アリサ先輩もアンナちゃんもゲラゲラ笑い合っていた。


 努力、衝突、ラブロマンス(キス)、そして友情と、少年漫画雑誌の様な熱い展開となった後は、俺たちはムトーとタナハシを一旦家に帰してから俺んちに移動して、反省会&作戦会議を開いた。



「アリサ先輩が色々キツイ指摘してたけど、俺も概ね同意なんだよ」


「うーん、確かにウチら気負い過ぎて焦ってたかもだね」


「アリサやマゴイチくんが言ってることも分かるけど、でも具体的にどうすれば良いのか分からないよ」


「それがいけないんじゃないのかしら?」


「というと?」


「例えば、アフロは私にイタズラする時って、思い付きでただ面白いと思ってやってるだけで、失敗したらどうしよ?とか私が怒った時のこととか全然考えてないでしょ?  アンナが怒ってる時も同じで、嚙んだらどうしよ?とか相手が逆ギレしたらどうしよ?とかそんなこと全然考えないでしょ? ビビらずにノーガードで殴る様子が見てて面白いんじゃないの?」


「なるほど。 つまり、二人がビビって色々考えすぎちゃって守りに入ってるのが見てる方にも分かるから、面白くなくなってたのか」


「確かに、脚本に頼りすぎてたのは、守りに入ってたともいえるかも」


「脚本に頼り過ぎてたのは、脚本でセリフが細かく決まってるからじゃない?」


「じゃあ脚本無しにする?」


「それだとただのフリートークよね。 もっと簡単にしたら?あらすじだけにしちゃうとか」


「それなら今すぐにでも直せるな。 セリフ全部フリーにして、後は―――」



 深夜遅くまで4人で意見を出し合って4人がなんとか納得出来る形になり、ついでに舞台衣装も決めたりして、この日はそのままウチにみんな泊まって行った。




 ◇





 翌朝4人で朝飯食べると、アフロとアンナちゃんは着替えに一度家に帰ってから登校し、アリサ先輩も一旦家に帰り、俺は学校祭の準備があるので午前中だけ学校に行って、アリサ先輩とはお昼に待ち合わせてからダンジョンへ向かった。



 ダンジョンに着くと、正門の受付でペアの招待券を提示して受付を済ませるとプログラムを受け取り、係りの案内に従って駐輪場に自転車を停めてから、グルチャでアフロとアンナちゃんに着いたことをメッセージで知らせる。


 駐輪場から校舎に続く道には沢山の模擬店が並んでいて、既にお昼時だからなのか沢山の来場者や生徒で賑わっていた。


 グルチャで返事を待っているが反応が無いので、「とりあえず昼ご飯に何か買って体育館で食べながら待ってましょうか」とアリサ先輩に声を掛けると「そうしよ!マゴイチは何食べたい?私はあそこの唐揚げ!」と言って模擬店の方を指さしてから、俺の左腕に自分の腕を絡ませグイグイ引っ張るように歩き出した。


 俺もアリサ先輩も西高の制服(黒の学生服と黒のセーラー服)で来ているから目立つ様で、すれ違う人すれ違う人にジロジロ見られるが、アリサ先輩はそんなことは眼中に無い様で人込みをかき分ける様にグイグイ進んでいく。


 唐揚げのお店に着きアリサ先輩が「2つ下さい!」と注文すると、売り子の生徒さんが「ありがとうございまーす!2つで400円になりますね~」と元気に返事して、唐揚げが入ったカップを2つ渡してくれた。 

 アリサ先輩が2つとも受け取ったので俺がサイフを出して支払うと、お金を受け取った売り子さんが「毎度ありがとうございま~っすって、うわぉ!超イケメン!?っていうか、西高の狂犬だし!!!」と騒ぎ出した。


「マゴイチの知り合い?」


「いや、全く見覚えがないんですけど」


「ちょい!みんな!西高の狂犬マゴイチ来てるよ!生マゴイチ超イケメンだよ!」


 売り子さんが興奮しながら後ろに居るスタッフぽい子たちに声を掛けると、その子たちだけじゃなく周りのお店の子とかまで一斉に俺たちの方へ視線を向けて来た。



「なんか面倒なことになりそうだから、このまま体育館行くわよ」


「そうっすね」



 逃げる様に唐揚げの模擬店前から移動して体育館前の渡り廊下まで来ると、ようやくアリサ先輩は歩くスピードを緩めた。


「ちょっと迂闊だったわね。まさかマゴイチがココまで有名だとは知らなかったわ」


「俺だってそうですよ。アフロもアンナちゃんもそんなこと一言も言ってなかったし、マジで怖すぎる」


「でも大丈夫よ。私とずっとくっ付いてれば彼女持ちだと思って近寄ってこなくなるでしょ」


「そうですかね。でもそれが一番安全そうですね」


「じゃあ行こっか」


「あいあいさ」




 アベックっぽく腕組んで密着しながら体育館の中へ入ると、遮光カーテンで室内は暗くなっていて、ステージだけが証明で照らされ、ダンジョンの制服着た女の子のバンドがコピー曲を演奏してる最中で、結構盛り上がっていた。


 後ろの方の空いてる席に座りようやく一息ついて唐揚げを摘まみながらスマホを確認すると、アフロから『アンアンがまたガチガチ。まじピンチ』とメッセージが来ていた。


「アンナちゃんがガチガチらしいっす。行った方が良さそうですね」


「そうみたいね。 二人の出番まであと20分はあるし、緊張ほぐしに行こっか」


 すぐさまアフロに通話を掛けると、体育館裏の植え込みがあるところに二人で居ると言うので、直ぐにアリサ先輩と向かう。



 昨日決めた衣装の緑色の西中ジャージ姿の二人は直ぐに見つかり、駆け寄って声を掛けると、アンナちゃんは体操座りで顔を伏せたまま動かなくて、アフロはアンナちゃんの横で「なんか言ってやってよ」と困った表情で助けを求めて来た。



「アンナちゃん、俺たちアンナちゃんの晴れ舞台が見たいんだよ。あんだけ頑張ったんだから大丈夫だって」


「無理・・・陰キャのアンナが漫才なんかしても、絶対スベるだけだし」


「そんなこと無いって。逆にみんなから面白いじゃん!って言って貰えるって」


「そんな訳ない・・・もう明日から学校来れない・・・」


「明日は日曜だから学校休みだけどね」


 俺が冷静につっこむと、アンナちゃんは顔を上げて俺をキッと睨み返した。


 その瞬間を逃さないようにアリサ先輩が叫ぶ。


「マゴイチ今よ!アンナを捕まえて立ち上がらせて!」


 俺が言われた通りにアンナちゃんを後ろから羽交い絞めにしながら無理矢理立たせると、アンナちゃんは「止めろ!離せ!」と暴れるが、俺も意地になってガッチリホールドを続けた。


 アリサ先輩は暴れるアンナちゃんの正面に立って片足を脇に抱える様に捕まえると、「昨日の勢いはどうしたのよ情けないわね!もっと根性あるかと思ってたわ!マゴイチに昔の事謝った時みたいに根性見せなさいよ!」と叫んだ。


 まるで昨日の少年漫画雑誌の熱血逆バージョンだ。

 となると、ヤツが黙ってはいられない展開。


 アリサ先輩の挑発でアンナちゃんが暴れるのを止めて悔しそうに睨み返していると、アフロがアンナちゃんの死角からこっそり近寄り、突然アンナちゃんの脇腹をコチョコチョし始めた。

 それを見てアリサ先輩も一緒にアンナちゃんの脇腹をコチョコチョ開始。


 再び髪を振り乱しヨダレを撒き散らしながら暴れ出すアンナちゃん。

 それを必死にホールドし続ける俺。

 全力のコチョコチョ攻撃を続けるアフロとアリサ先輩。

 4人とも汗びっしょりだ。



 遂にアンナちゃんが「ギブ!ギブだって!出るから!」と連呼し降参したので、二人はコチョコチョ攻撃を止めて、俺もアンナちゃんを解放した。


 アリサ先輩とアフロの二人はハイタッチした後に、軽快なリズムで変なおじさんのダンスを踊っている。どこかの部族の勝利の舞のようだ。


 そしてその横で、地べたにへたり込み涙目になりながら「コイツら信じられん・・・鬼だ」と零すアンナちゃんのジャージのズボンはズレ下がっていて、水色のパンツに包まれたお尻が丸出しになっていた。



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