#58 お笑いなめんな!
諏訪先生に相談した結果、図書当番を月曜日に変更して貰えて一応は平和な日々に戻った。
料理部の笹山さんと長山さんには「山倉さんとちょっとトラブって、距離置くことにした」と話すと、二人とも「あ・・・」って顔を見合わせて何やらありそうな様子だったので、どうしたのか聞いてみると「山倉さんってオカルトなとこあって、たまにぶっ飛んだこと言い出すんだけど、冗談とかじゃなくて真面目に信じちゃってるっぽくて、この間も私たちに「催眠術かけさせて。絶対に変な事しないから」とかしつこくて、ドン引きしてたんだよね」と今更教えてくれた。
「それもっと早く教えて欲しかった・・・」
「マゴイチくんにも同じこと言って来た?」
「言ってきたというか、実際に催眠術やられた? 勿論かかってないけど」
「あちゃぁ・・・まさかマゴイチくんをターゲットにするなんて思わなかったし、言いふらすのもどうかと思って」
「なるほど。 図書当番の時だったんだけど、偶然俺の友達が遊びに来て助かったんだけど、流石に怖すぎるから図書当番の曜日変えて貰って、距離置くことにしたの」
「それも仕方ないよね。 山倉さん、真面目だし普段は大人しいんだけど、急に何か乗り移ったみたいに周り見えなくなることあるから」
「あーなんかそんな感じだったよ。 でもまぁ俺は山倉さんとは極力接触は避ける様にするけど、二人はいつも通りにしてあげて」
この二人には、催眠術のことだけ話して、山倉アヤが俺の事を好きで俺を洗脳して惚れさせるのが目的だったことは言わないことにした。
「私たちとしてもそう言って貰えると助かるんだけど、マゴイチくんはそれでいいの?」
「別にいいよ、俺自身に被害無ければ。変に話し大きくしたくないし」
「分かった。 でも、一応私たちからも釘挿しとくね」
「穏便にお願いね」
「うん」
あの日、山倉アヤはアリサ先輩の乱入以降は俺に対して避ける様な態度に戻ってたし、しばらくは向こうからのアクションも無いだろうから、今のところはコレくらいしか対処のしようが無いと思う。
何せ「催眠術で洗脳されそうになりました」って言われても、余りに馬鹿げてて普通の人なら「冗談でしょ?」とか「大袈裟な」とか「エロマンガじゃあるまいし」とか、まともに取り合ってくれないだろうしな。俺が周りに訴えたところで俺が恥ずかしい思いしかねないし。 最悪な場合、「マゴイチがウケ狙って話盛ってる」とか「やっぱりマゴイチくんって自意識過剰だよねー」とか言われた日には溜まったもんじゃ無い。
だから、今は様子見で、もし次に何かあれば全力で逃げよう。
山倉アヤのことで余計な手間を取られてしまったが、この時期はホントのんびりしている様な余裕が無くて、学校では通常の授業と学校祭の準備に追われ、ウチに帰るとテンザンの散歩に行って漫才のネタを考え、更には中間テストも始まったのでテスト勉強もしていた。
生徒会を引退した上に進学が内定していて暇なアリサ先輩は、俺が部活の無い日はほぼ毎日ウチに来ては一緒にテンザンの散歩したり俺の勉強を見てくれたりしてて、アンナちゃんもたまにウチに来て、俺の書いた漫才のネタをチェックしたり、タナハシ連れて一緒に散歩したり、俺と一緒にアリサ先輩に勉強教えて貰ったりしていた。
兎に角、毎日が忙しくて騒がしい。
けど、楽しい。
彼女居なくても、俺って間違いなくリア充だよな。
中学の時も充実してた方だとは思うけど、彼女出来ても直ぐ別れちゃってたから、ほとんど女っけ無かったしな。どちらかというと部活と勉強で充実してたという感じか。
だから、こういう生活こそ高校生らしいと思う。
大人になって高1の頃を思い出した時に、あの頃は青春時代だったって思うんだろうな。
と、そんな風にも考える様になっていた。
◇
ダンジョンの学園祭の1週間前ともなると、アフロとアンナちゃんの漫才の練習も佳境に入っていた。
二人は毎日の様にいつもの公園に子犬連れて集合して暗くなるまで練習してて、俺もたまーにテンザンの散歩ついでに差し入れ持って様子を見に行ったりもした
俺の書いたネタは2つで、二人が選んだネタは『高校の思い出』
アフロの言っていた「アンナちゃんとの高校での思い出が作りたい」という言葉から着想を得たんだけど、タイトルだけ見れば、『ザ・青春』って感じだが、内容は青春や爽やかさ等とは程遠い。
そして、ダンジョンの学園祭の前日である金曜日。
この日も夕方に公園で練習すると聞いていたので、中間テストが終わったばかりの俺はアリサ先輩と二人で応援がてら様子を見に行った。
テンザン連れて二人で歩いて公園まで行くと、表の道路までアンナちゃんが激しくつっこむ声が聞こえていた。
頑張ってるなぁ、と思いながら公園に入ると、薄暗い中で公園内に1カ所だけある街灯の下で二人は立って練習してて、10月の夕方で肌寒いくらいなのに、二人とも汗びっしょりで街灯の灯りで汗がキラキラしていた。
テンザンをムトーとタナハシに合流させて遊ばせ始めると、俺とアリサ先輩は二人の邪魔にならない様に、少し離れたところのベンチに座り、静かに二人の掛け合いに耳を傾けていた。
ネタの途中で何度もアフロがアンナちゃんにダメ出ししてて、その様子が普段のいい加減で適当なアフロとは真逆で口調も表情もかなりキツメで、でもアンナちゃんの方も真剣な表情で、アフロに言われたトコロを何とか修正しようと苦労しているのが表情からアリアリと読み取れた。
二人とも真剣で一生懸命なんだけど、なんか引っ掛かる。
二人の様子もそうだし、ネタそのものも。
うーん、と首を捻りながら二人の掛け合いを聞いてて気づいた。
聞いている限り、二人は俺が書いた脚本を忠実に守る様にやっている。
しかし、それだと脚本のストーリーを追ってセリフを読み合ってるだけと同じで、普段の二人の面白いキャラが全然活かせてない。
ネタ書いた俺の責任でもあるが、アフロはもっといい加減で適当な部分を出した方が良いだろうし、アンナちゃんは自称陰キャのクセに気が短くて怒ると饒舌になるキャラをもっと出すべきだった。
言い訳になるが、ネタ書き上げた頃はまだ二人ともセリフ覚えるのに必死な状況でネタとして通して見る事が出来てなくて、ここ最近は俺の方が忙しくて練習に顔出せなかったから、気づくのが遅れてしまった。
しかし、今からネタを修正するにしても、本番は明日だ。
今更間に合わないし、このまま行くしかないのか。
所詮、思い出作りが目的の学園祭での素人漫才だしな・・・
俺が責任を感じつつも、今更どうすることも出来ないと諦めかけた時に、アリサ先輩が動いた。
アリサ先輩は練習に集中している二人の前に腕組みして立つと、「二人ともつまんないわよ。 そんなので観客が笑うと思ってるの?」と容赦なく切って捨てた。
二人ともアリサ先輩の言葉で沈黙してしまい、悔しさ滲ませた。
「何でアフロがそんなに必死になってるのよ、アフロらしくない。 アフロはバカでいい加減で適当だから面白いんじゃないの? アンナだってそうよ?怒った時だけ次から次へと淀みなく出て来るアンナしか言えない様な毒舌が面白いんじゃないの?ガチガチにリキんでただ叫んでるだけにしか見えないわよ? 全然二人の持ち味活かせてないじゃない」
二人とも煮詰まってた様だし自分たちの漫才が面白くないことも自覚してたのか、アリサ先輩のキツイ指摘に何も言い返そうとしない。
アリサ先輩も歯痒いのだろう。普段の二人は凄く面白いのに、ステージでの漫才でスベって辛い思いをさせたくないとアリサ先輩なりに心配しているのも分かる。 ただアリサ先輩はストレートな言い方するから、相手にとってはキツイんだ。
コレはネタを書いた俺の責任だし、このままアリサ先輩に言いたい放題言わせるのは不味いと思って、間に入る様にして「二人ともごめん。俺の脚本がダメだ。 今からでも修正しよう」と声を掛けるが、アリサ先輩は止まらない。
「話の内容は面白いと思うわよ?脚本が悪いんじゃないの。脚本に捕らわれて脚本通りにしか出来ない二人に問題があるの。 何て言えばいいのかな。うーん、脚本を読むんじゃなくてストーリーについて二人で会話するっていうのかな。 私はストーリーを聞きたいんじゃないの。いつもみたいなふざけたアフロと怒り狂ったアンナのハチャメチャな掛け合いが見たいのよね」
「とりあえずさ、二人とも汗かいてるし休憩しない?喉も使い過ぎて二人とも声ガラガラでしょ?俺ジュース買ってくるからさ」オロオロ
「そもそも、二人とも真剣な表情が似合わないのよ。そんな怖い顔見てても面白く無いわよ?鬼気迫られても見てる側まで緊張してリラックス出来ないでしょ?」
「二人ともそれだけ一生懸命なんだよ、アリサ先輩もその辺にしてさ」オロオロ
明日は本番だというのに滅茶苦茶重い空気となってしまい、何とか宥める様に声を掛けるが、オロオロするだけで俺は役立たずだった。
そして遂にアンナちゃんが限界を超えた。
「面白くない面白くないってさっきから黙って聞いとったらアンタなんなん!?アッコ先輩もアンナも真剣でなんがわるいん!?アッコ先輩に良い思い出作って欲しいって思ったらあかんの!?そう思ったら失敗できんじゃん!ちょービビるじゃん!アリサと違ってアンナ人前出るの苦手だし怖いしビビるのしょーがないじゃん!マゴイチくんといちゃいちゃベタベタして締まりの無いぶっさいくな顔晒してるアリサにお笑い語ってほしくねーし!お笑いなめんな!」
ブチぎれたアンナちゃんはアリサ先輩の胸倉を掴んで正面から頭突きしそうな超至近距離でツバ飛ばしながら怒りをぶつけた。
アリサ先輩もそんなアンナちゃんに対して何も言い返さずに、吐きたいだけ吐き出させていた。
そして、ヤツも動き出す。
「いいね~!そういうツッコミが欲しいかったのよね~」
と言いながら、アフロは二人に近づき、二人のそれぞれの後頭部に左右の手を回し、軽くトンと押した。
そして重なる二人の唇。
その瞬間、俺の脳内ではホイットニーヒューストンの「オールウェイズ・ラヴ・ユー」のサビが流れた。
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