#52 モヤっとする旧友の距離感
土曜日はみんな自分んとこの子犬を連れて俺の家に集まった。
アンナちゃんは相変わらず朝早くやってきて、庭でタナハシとテンザンを遊ばせ、アフロもいつもならお昼頃に来るのに10時前にはやってきて自分も一緒に子犬達と遊び始めてて、あのいい加減でいつも適当なアフロが、ムトーや他の子犬達に対して母性を発揮している姿は、ちょっとびっくりした。
だが、一番驚いたのが、優木会長がコバシを自転車の前カゴに乗せてやってきたことだ。
事前に子犬連れて集合しようって話になった時は、てっきり親に車に乗せてもらってくるかと思ってて、まさか自転車で来るとは思って無かった。
自転車で颯爽と現れた時の優木会長のドヤ顔が印象的だったが、ぶっちゃけETみたいで全然格好良くは無かった。
夏休み中は4人集まるとダラダラと過ごすだけだったが、あの頃と違って今はみんな子犬を育てているし今日はその子犬も勢ぞろいってことで、みんなテンション高めに楽しんでいた。
そんな中で、久しぶりに会ったアフロから就職先が決まったとの報告があり、更にそれとは別に俺とアンナちゃんにとあることをお願いされた。
お願いごとに関してはまだ詳しく言えないが、就職に関しては優木会長の生徒会長引退も近いので、その話を聞いたウチのかーちゃんの提案で、急遽この日の夜にウチでアフロの内定祝いと優木会長のお疲れ様会を併せて焼肉パーティーをすることになった。
因みに、アフロの就職先はアウトドア用品のショップで、来年の夏にでもみんなでキャンプに行こうと今から盛り上がっていた。
結局、この日の夜もみんな食べ過ぎて動けなくなり、全員ウチに泊まって行った。
気の置けない優木会長たちと過ごす時間は、ここの所アカネさんの件で頭を悩ませてたのもあり、その反動なのか面倒ごとを忘れていつも以上に楽しくて、俺は気持ちをリフレッシュすることが出来た。
◇
翌週からは部活では本格的に学校祭へ向けての準備が始まり、販売用のお菓子作りとは別に俺は宣伝係にも任命されてて、当日に家庭科室の前や中に掲示するポップやカンバン作りに宣伝用のチラシを作ることになった。
ぶっちゃけ、俺は料理部では料理スキルが最も低いので戦力外扱いの様だが、主力のアクア先輩とは別行動で離れられベタベタされずに済むので、正直助かった。
そして、水曜日の放課後の図書当番の時間でも、俺は図書室で図書当番をしながら料理部の販売用のキャッチコピーを考えたり、チラシのデザインを何パターンか考えて実際に描いたり作業をしてて、それを見て山倉アヤも興味あり気に色々話しかけて来たりして、前の様な無言の壁がある様な雰囲気にはならなくなっていた。
「料理部はお菓子販売なんだ?」
「うん。クッキーとかマドレーヌなんかの焼き菓子を手作りで作って販売するの」
「じゃあ、西尾くんの手作りお菓子が食べられるんだ」
「俺は雑用で調理は手伝う程度だから、俺の手作りではないね。 みんなより料理スキル低いから裏方なんだよね。 しかも一応料理部宣伝課の課長に任命されたんだけど、宣伝課は俺一人だけなんだよね」
料理部では学校祭に向けての役割分担があったのだが、宣伝課以外にもエグゼクティブマネージャー(部長兼財布係)をトップにクッキングリーダー(親方)にクッキングチーム(調理部隊)やサプライチーム(買い出し部隊)があり、なぜか俺の宣伝課だけ横文字では無い。
「なにそれ?でも、楽しそうだね」
「ずっと中学までサッカー漬けでゴリゴリの体育会系だったから、こういう文化部の活動とかノリは新鮮で楽しいね」
「でも料理部って女子ばかりなんでしょ? その中に西尾くんが居ると色恋沙汰のトラブルとか色々あるんじゃないの?」
「うーん、そんなことは無いかな。 女子ばかりだって言ってもみんな面白いし仲は良いよ。 一部個性が強すぎる人も居るけどね」
因みにだが、俺とアクア先輩が交際してて別れた件に関しては料理部では部外秘になってて、当然笹山さんと長山さんも山倉アヤやその他の友達にも話してはいない。 念のため、二人にもそこは確認済みだ。
「西尾くんが個性強すぎるって言うくらいだから相当だね」
「そうかな?でも俺なんてタダの凡人だよ。俺の周りは突出した個性派が多いから」
優木会長とかアフロとかアクア先輩とか、個性派の一言では収まりきらない人ばかりだ。
あのアンナちゃんがちょっとだけまともに見えちゃうもんな。ホントにちょっとだけだが。
「学校祭の時は絶対に買いに行くね!」
「うん。よろしくね」
「楽しみだね。うふふ」
俺と山倉アヤは、いつもはそれぞれの受付カウンターに座ってて、その距離は1メートル以上離れているのだが、この日は山倉アヤの方がイスごと俺の席まで寄って来て、チラシ作りしている俺の横で肩が当たりそうな距離でずっと話しかけて来ていた。
しかも、以前なら全く見る事のなかったニコニコ笑顔でずっと話しかけて来るから違和感をどうしても感じてしまう。
明らかに先日の山倉アヤの部屋で語り合ったことがあってのフレンドリーな態度の変化なのは分っているけど、いくら仲直りしたと言っても元々それほど仲良しでも無かったから、その一方的な距離感にモヤモヤしてしまう。
とは言え、色々アカネさんの件で俺を心配してくれてるとか世話になっているのもあって、なるべくそういうモヤモヤを顔に出さない様に意識して冷静に受け答えしていた。
アカネさんに関しては、アンナちゃんのアドバイス通り、放置することにした。
やはり、アチラから全く接触が無いのにコチラが気にするのもおかしな話だし、むしろ「興味ありません」っていう態度が一番有効的に思えたからだ。
9月から10月にかけてはずっとそんな調子で、料理部では学校祭準備に忙しくしつつ、図書当番での山倉アヤとの二人の時間は距離感にモヤモヤして過ごしつつ、家ではアフロの頼まれごとに取り組んだりしつつ、あっという間に時間は過ぎて行った。
そして9月末で優木会長が生徒会長を引退し、10月の頭に生徒会役員の引継ぎ式があり、そこで優木会長は生徒会長として最後の勇姿を見せてくれた。
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