#51 相談相手はやっぱり初代元カノ



 金曜日の夕方。


 この日は部活も図書当番も無いので真っ直ぐ家に帰り、アンナちゃんに連絡を入れてテンザンを連れていつもの公園で待ち合わせた。


 明日土曜日に4人で集まる約束をしていたが、そこには当然優木会長も来るので、アクア先輩の件もアカネさんのことも優木会長の耳には入れたくなかった俺は、前日のこの日の夕方、アンナちゃんを犬の散歩ついでに誘って報告&相談をすることにした。



 アンナちゃんを見るのが少しだけ久しぶりなせいか、7月に再会した頃に比べ髪が伸びててることに気が付いた。 夏休みの間はほとんど毎日の様に会ってたし、いつもスッピンだったけど今日はメイクもしている。平日学校がある時はいつもこんな感じなんだろうな。


 夏休みよりも色気づいて女の子らしい雰囲気のアンナちゃんは、相変わらずタナハシに無理矢理引っ張られておっぱいをぶよんぶよんと揺らしていた。



「タナハシ相変わらずめちゃ元気だね。アンナちゃんの方は最近どう?」


「アンナも相変わらずだよ。 あーでも学校でお昼ご飯一緒に食べる友達は出来たかな」


 そう報告するアンナちゃんは、ちょっぴり照れくさそうだ。


「良かったじゃん。 少しは学校楽しくなるといいね」


「うん。 って!アンナのことよりマゴイチくんはどうなったの?」


「まぁ、ボチボチだね・・・」


「ナニがどうボチボチなの?はっきり言えないの?」


「うーん、アクア先輩の件は、なんとか話が付いたというか、状況があまり変わってないというか」


「ナニそれ? ヨリ戻したの?」


「いや、そういう訳じゃないんだけど―――」


 2学期始まって早々にあった料理部での話し合いの内容やその後の部内でのアクア先輩の様子などを話すと、アンナちゃんは盛大な溜め息を吐いた。


「アンナが言えた義理じゃないけどさ、マゴイチくんってマジで女の子には甘いよね」


「確かにアンナちゃんが言えた義理じゃないな。うん」


「ソコだけ納得しないでよ!マゴイチくんが変な女にばっか引っ掛かってドツボってるって話でしょ!アンナめっちゃ反省して謝ったからアンナは良いの!っていうか今はアンナのことは良いの!」


「あい」


「で、そのアクアって先輩とは部活でしか会ってないの?」


「うん、そうだね」


「もっとビシっと突き放せば良かったんじゃないの?また無理して優しさ出しちゃった?  あー!もしかして!またおっぱい!? アクアって先輩、西高イチの爆乳なんでしょ?そのおっぱいでまた誘惑されてなしくずされちゃったんでしょ!」


「・・・・あい」


「うっわ、サイテーだわこのイケメンおっぱいドーテーまじキモイ」


 こうなることが分かってたから、俺はアンナちゃんへの報告を面倒だと思ってずるずる先延ばしにしてたんだ。

 心の友だと思っていたが、自分の事は棚に上げてこの容赦の無さはまさに女ジャイアン。略してジャイアンナだな。


「確かに俺の周りって優木会長とかアフロとかアンナちゃんとか、クセが強いというか変人というか頭イカレてる人ばかりなんだよな・・・・」


「はぁぁぁぁぁぁぁん!?なんでソコにアンナ入れるの!!!あの二人と一緒にしないでよ!」


 アンナちゃん、アフロのこと絶対内心でディスってるよな。

 だからちょいちょいボロ出すんだ。


 興奮したアンナちゃんが俺の胸倉掴んで騒ぐから、タナハシも一緒に興奮しだして、ベンチに座ってる俺のジャージのズボンの裾に嚙みついて首を左右にぶんぶん振り回しながら引っ張りやがった。


「こら離せタナハシ!お気に入りのジャージに穴空いたじゃねーか!」


 攻撃的になったタナハシに流石に焦りを感じたのか、アンナちゃんは俺に抱き着いて「もう仲直りしたからね~?怒っちゃダメだよタナハシ」と仲良しアピールしてタナハシを宥めていた。

 多分あざといアンナちゃんのことだから、ジャージの事で怒り出す前に俺をなだめるのが本当の狙いで、わざと抱き着いておっぱいをぼいんぼいんと押し当てて来たのだろう。


 お気に入りのアディダスジャージに穴開けられたのはムカつくけど、アンナちゃんのおっぱいの感触に俺は迷うことなくチャラにした。




「それで、他にも話があったんじゃないの? アンナからのメッセにずっと適当にしか返信してなかったクセに、今日になって急に呼び出すくらいだし」


「流石女ジャイアン、じゃなかった。心の友。 実はさ、別の元カノ問題が勃発しそうでさ、ちょっとヤバそうなんだよね」


「はぁ?またぁ? マゴイチくんって女関係のトラブル多すぎない?っていうか女関係トラブルしか無くない? アンナが言えた義理じゃないけどさ」


「確かにアンナちゃんが言えた義理じゃないな。うん」


 俺の正論に、今度は無言で俺を睨みながら太ももツネって反撃してきた。

 やっぱりこの女、女ジャイアンだ。



 アンナちゃんを揶揄って怒らせるのは楽しいが、今日の本題はアカネさんのことなので、俺を睨むアンナちゃんをスルーしてシリアスモードで話を始めた。


 俺たちと同じ西中出身の山倉アヤと図書当番がずっと一緒で、ずっと冷たくされてたのに最近急に話しかけられて、元カノ2号である柏木アカネの噂話を教えて貰ったこと。

 山倉アヤとアカネさんは中一の頃は仲良かったが、二股発覚事件以降は絶交状態になっていること。

 二股事件直後に山倉アヤがアカネさんから聞き出した二股の理由や俺が本命だと言ってたこと。

 山倉アヤが言うには、アカネさんは俺が西高を受験するのを知って追いかけて来たらしいこと。

 アカネさんが高校デビューで復活してて、俺のことを元カレだと言いふらして、更に最近はヨリ戻そうとしてる噂があること。

 入学してから直接アカネさんからの接触は今のところ無く、アカネさんも西高に入学していたことすら俺は話を聞くまで知らなかったこと。



 俺の話を聞いたアンナちゃんの第一声は


「高校デビューしたヤツにありがちな話じゃん。放置でいいんじゃない?」


「え?ヤバくない?放置でいいの?」


「だって別れてからずっと何もされてないんでしょ?3年も経ってるのに今更ナニかしてくる?アンナだってアッコ先輩居なかったら怖くてマゴイチくんと直接話すの絶対無理だったし。 キレたマゴイチくんマジでシャレになんないし、柏木アカネだってマゴイチくん怒らせたらヤバいことくらい分かってるでしょ。 確かに柏木アカネはしたたかそうだけど、マゴイチくんの元カノアピってるのも、どうせマゴイチくんの人気にあやかろうとか他の男子からの告白避けとかじゃないの? だから今の状況聞いても山倉アヤが一人で騒いで勝手にあおってるだけにしか聞こえないけど?」


「確かに・・・流石高校デビュー出来ずに2学期デビューで微妙なスロースタートしたアンナちゃんの言葉には説得力があるな」


「さっきからマジでなんなの? もしかしてアンナ今ケンカ売られてんの?」


 キレた俺のことをシャレにならないと言いつつ、売られたケンカは即買うストロングスタイルとは、流石女ジャイアンだ。


「いやいやいや、アレだよ!小学生とかにありがちな可愛い子にちょっかい出したくなるヤツ?怒ったアンナちゃんが可愛いからついつい揶揄いたくなるのよね」


 俺はココぞとばかりに100点満点のイケメンスマイルをアンナちゃんに向けて、アンナちゃんの頭をナデナデしようと手を伸ばしたが、サッとかわされた。



「か!カワイイとか言われてもアンナは誤魔化されないんだからネ!」


 アンナちゃんは立ち上がってそう叫ぶと、「タナハシ行くよ!」と言って走って行ってしまった。  が、公園の入り口辺りで立ち止まり「明日は朝からマゴイチくんち行くね!おやすみ!」と元気よく手を振りながら帰って行った。



 女ジャイアンでも、デレることがあるらしい。

 夏休みに会ってた頃よりも色気づいて女の子らしい雰囲気になってた影響なのか、デレたアンナちゃんはいつもよりも可愛いかった。


 こういうのをツンデレと呼ぶのだろうか。

 いや、女ジャイアンからのデレだから、ジャイデレか。







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