#50 情報収集とイケメンの苦悩





 山倉アヤの家に呼ばれた次の日。

 朝、登校すると早速情報収集することにした。


 まずは、西高の友達の中では一番の情報通である近藤くんに、「1年3組の柏木アカネのことで何か知ってる?」と聞いてみた。


「マゴイチくんの元カノでしょ? 本人が周りにそう言ってるって聞いたこと有るけど、そうじゃないの?」


「いやそうなんだけど、流石近藤くん、よく知ってるな。 俺なんてオナ中なのに昨日まで彼女が西高に入ってたことすら知らなかったよ」


「まぁマゴイチくんのファンの事とか色々あるからね。周りも噂とか他のクラスの話を一々マゴイチくんの耳に入れたりしないようにしてる空気あるし、それは仕方ないんじゃないかな」


「なるほど。 俺って結構過保護ちゃんだったんだね」


 どうやら1年8組では、俺自身に関係する話などは重要な情報しか俺の耳に入らない様な情報統制が敷かれているようだ。 つまりは、近藤くんやクラスのみんなは、元カノと言えどもアカネさんの噂話は、俺に報告するまでも無い、取るに足らないと判断しているのかな?


「昨日同じ西中出身の知り合いから、どうやらその柏木アカネが俺との復縁を画策してるらしいって聞いてね」


「なるほどね・・・。 ちょっと僕の方でも調べてみるね」


「いつも悪いね、近藤くん。 助かるよ」


「いえいえ、マゴイチくんが自分で動くと目立ち過ぎるからね。こういうことは僕に任せてよ」


 そう言って黒縁メガネをクイッとする近藤くんのニヤリ笑顔は、頼もしかった。




 この日、3組まで行って自分の目でアカネさんの姿を確認しておきたかったが、それは近藤くんや他のクラスメイトたちに止められた。 やはり同じように、俺が行くと目立つし相手を刺激してしまう可能性があるということで、大人しくしておくように言われてしまった。


 因みに、お昼休みに俺の所に遊びに来ていた優木会長には、この件は話していない。

 何かあれば優木会長は躊躇することなく相手の所へ突撃するだろうし、そうなると暴力行為もありうるので、指定校推薦が内定している優木会長には絶対に耳に入れない様に細心の注意を払った。




 この日は部活のある木曜日である為、放課後は部活に参加し、笹山さんと長山さんにもアカネさんの噂と山倉アヤのことを確認した。


 二人が言うには、アカネさんが高校デビューしているのは間違いない様で、3組でも目立つ存在らしい。

 ただ、二人も同じ中学とは言え、元々顔見知り程度でほとんど話したことは無いし、今は隣のクラスの陽キャとは接点は無く、たまに噂を耳にする程度とのこと。 山倉アヤに関しては、中学の時に長山さんが同じクラスで仲良くて、西高でも同じクラスになったので引き続き仲良くしてて、お昼とかもいつも一緒のグループとのことだった。


 そして、このタイミングで二人からも俺に話があった。


 俺はこの時に初めて教えられたのだが、1学期に1年の女子が数名で俺を目当てに入部希望をしてきたことがあったそうだ。

 その時は、あからさまに俺目当てでの入部希望ということで、部の輪が乱れることを危惧した3年と2年の先輩たちが追い払ったそうだ。 そしてその場に俺が居なかった為に、俺に余計な心配を掛けさせない様にと、その事は今日まで内密になっていた。


 笹山さんと長山さんもその事があってから改めて入部理由の確認をされたそうで、元々二人は俺とは距離置いていたし、俺目的では無いことは誰が見ても一目瞭然だった為に、何も問題無く引き続き料理部に籍を置くこととなったそうで、二人はその時に、こういった事があったからその連中から入部希望の相談とか来ても相手にしない様に言われてたらしい。


 二人はアカネさんのことは特に興味は無さそうだが、俺がアクア先輩の件で退部しようとしていたことを未だに気にしていたようで、先輩達の普段からの俺に対する気遣いを分かって欲しくて、アカネさんの話題が出たついでに今回教えてくれたらしい。


 因みに入部希望してきた女子たちの中に、アカネさんは居なかったようだが、それにしても料理部の先輩たちだ。

 先輩たちの気遣いに再び目頭が熱くなり、その場で先輩たちに感謝の気持ちを熱く述べようとするが、アクア先輩と目があってしまい、若干伸び始めた金太郎ヘアでの満面の笑顔が俺の感動をドコかに吹き飛ばしてしまった。




 ◇




 翌日金曜日には、早速近藤くんが調べた情報を報告してくれた。


 近藤くんの調査結果は、おおむね山倉アヤから聞いていた情報の裏付けだったが、一つ意外な情報もあった。


 あの真正の清楚系ビッチであるアカネさんが、西高に入学して以降、誰とも付き合ってはいないらしい。中学時代のことまでは分からなかったが、高校入学以降何度か男子から告白はされてるらしいのだが、「好きな人以外は興味ないし」と言って全て断ってると本人が公言しているそうだ。

 そんな状況の中で『マゴイチくんは元カレ』発言などがあり、俺とのヨリを戻そうとしている噂にどうやら繋がっているのではないか?というのが近藤くんの見立てだった。


 俺を追いかけて西高受験したとか、ヨリ戻したがってるとか、もし本当なら超怖いけど、どうにも噂話の域を出なくて不確定な話が多いな。

 


 ココまで情報収集して色々考えてみて、ふと気づいた。

 俺の方からは、警戒することは出来ても他に手の打ちようがない。


 実際に話しかけられた訳でも無いし、復縁を迫られた訳でもない。

 ただそういう噂話のリークがあっただけだ。


 逆にココで俺がアカネさんに対して何らかのアクションを起こせば、それはただの自意識過剰に見えるだろう。


 普段イケメンだと騒がれがちな俺が自意識過剰な行動を執れば、寒いことこの上ない。

『うわぁ~、いくらイケメンだからって告白されてもいないのに交際お断りしてるよ~、ちょ~ジイシキカジョ~♪』


 俺が最も恐れる反応だ。

 世のイケメンと騒がれている人々ならきっと俺と同じ気持ちだろう。


 違うんだよ!

 自分で自分をイケメンだとは思って無いんだよ!

 幼少期からイケメンだと言われ続けて、それを否定すると空気悪くなるような体験を何度もしてきているから、イケメンだと認めた方のが物事が円滑に運ぶんだよ!

 それに自分の容姿に纏わるトラブルが多すぎて、少しでも危険だと感じると直ぐに防衛本能が働く体質になっちまってるんだよ!

 あの子、マゴイチくんのこと好きらしいよ~?なんて数えきれない程聞かされてきてるんだよ! その度に、告白されるのイヤだなぁ~って思ってるんだよ!

 ダレか分かってくれよ!



 土曜日、いつものメンバーで俺んちに集まった時に、優木会長やアンナちゃんなら分かってくれると思い俺のこの苦悩を告白したが、優木会長からは「告白されるのがイヤなら、さっさと私のカレシになればいいじゃない」と俺の求めていない回答を言われ、アンナちゃんからは「女子高で陰キャぼっちのアンナにそんな気持ち理解出来るわけないでしょ。バカにしてんの?」と早口で怒られた。







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