#49 恐怖の清楚系ビッチ



「ドコから話せば良いのかな・・・。 えっと、私とアカネちゃんとの二人の関係から話すね」


「了解」


「アカネちゃんとは同じ小学校だったけど、小学校では特別仲が良かった訳じゃなかったの。クラスが一緒になったこと無かったし家も少し離れてるから。 ほとんど話したこと無くて、でも大人しそうだけど凄く綺麗な子だなっていう印象はあったの。 それで中学になったら同じクラスになって、更に部活も同じ吹部(吹奏楽部)になって、アカネちゃんも私のことは知ってたみたいで、私もアカネちゃんも派手な感じじゃなかったしどっちかって言うと大人しい感じの似た者同士で、直ぐに意気投合するような感じで仲良くなれて、それからはよく一緒に居る様になったのね。教室でも部活でも、休みの日なんかも一緒に勉強したり遊びに行ったりもしてた」


「当時は俺も二人の事、そんなイメージだったと思う」


「うん。それで、女子同士仲良くなれば当然恋愛の話題とかも話すようになって、クラスの男の子とか部活の先輩とかを「あの人カッコイイよね」とか「今日、目があっちゃった」とかお互い控え目ながらも楽しく盛り上がってた。 まだ中一だったし私の方は女子同士で盛り上がってるだけで楽しくて、誰かと付き合いたいとかまでは思ってなかったんだけど、アカネちゃんの方は他のクラスの男子とか部活の先輩とかに何度か告白されるようになってて、毎回断ったって言うから、好きな人でも居るのかな?って思って聞いたら、「マゴイチくんが好き」って教えてくれたの」


 自分の名前が出てきたが、どう反応すれば良いのか分からないから話を続けて貰うように無言で促した。


「それからのアカネちゃんは堰を切った様に西尾くんの話題ばかり話すようになってた。「おはようって挨拶したら返してくれたよ!」とか「サッカー部で1年なのにレギュラー候補なんだって!」とか、二人だけの時はキャーキャー言いながらいつも西尾くんの話題で盛り上がってた。  教室でもアカネちゃんが西尾くんの隣の席だったし、私も応援するつもりで休憩時間とかアカネちゃんの席で二人でお喋りしながら西尾くんにも話振ったりして、少しでもアカネちゃんが西尾くんと話が出来る様にって後押ししたりしてて」


「なるほど。確かに教室でそんな風にお喋りしてたの覚えてるよ」


「うん。 それで西尾くんがいつもフレンドリーにお喋りの相手してくれるし、アカネちゃんも益々西尾くんに夢中になってく感じで、遂にアカネちゃんが西尾くんに告白する決意して、私もガンバレって応援したの。 それで実際に告白して西尾くんもOKしてくれて二人が晴れて付き合うようになって、私もアカネちゃんに「頑張って上手くいって良かったね」って祝福して、アカネちゃんも凄く幸せそうに「アヤちゃんが応援してくれたお蔭だよ、ありがとうね」って言ってくれて、その時はアカネちゃんの事親友だと思ってたし、本当に良かったって思ってたんだよね」


「うん」


「今話したように、アカネちゃんが二股してたのを私は全く知らなかったし、西尾くんが二股されてた事をみんなに話した時も全然信じられなくて、西尾くんに対して「恋人なのに嘘の噂を広めるなんて酷い!」って凄く腹立つし悔しくて直ぐにアカネちゃんに確認したの。 アカネちゃんにも最初は「西尾くんの話、ウソだよね? あんな酷いことするなんて許せない!」って話してて、でもアカネちゃん全然否定してくれなくてずっと泣いたままで、私は西尾くんに腹立てながらアカネちゃんのことを慰めてたの。 そしたらさ、アカネちゃんがさポロっと「マゴイチくん、あんなに怒らなくてもいいのに」って零したの」


「その言葉聞いて、「ああ、二股の話は本当だったんだ」って察しちゃって、そこからは今まで親友だと思ってた人とは全く別人に見えちゃって、ドン引きするどころか怖くなって、それでも何とか「なんで二股なんてしてたの?」って聞いたら、さっきまで泣いてたはずのアカネちゃんさ、ケロっとした顔で「津田先輩なんてただのキープだし、あんな陰キャにマジになるわけないじゃん。 本命はもちろんマゴイチくんだよ。マゴイチくんと上手く行ってるからさっさと切ろうとしてたのにすっごいしつこくて、吹部の先輩だし利用価値あるかと思って秘密にすること条件で一時的にOKしたのに、みんなに関係バラすとか言うから仕方なくずるずる相手続けてただけ」って言いだして、泣いてたのもウソ泣きだったし、私ショック大きすぎて「そんな酷い」って言っても、「どうせ別れるつもりだったし同じじゃん。マゴイチくんもアヤちゃんも大騒ぎしてさ、ホントマジメンドクサイ」って言われちゃって、もう怖くて怖くて何も言い返さずに逃げ出してそれっきり。 中学の間はずっと目も合わさないように避けてたし、ボッチになったアカネちゃんも私には話しかけてこなくなって、でも受験の時に同じ西高受験したの知った時はビックリしたけど、多分西尾くんが西高受験するの知ってて追いかけて来たんだろうなって思った」



「へー」


 としか言葉が出てこないぞ。


 まんまじゃん!

 清楚系ビッチって言われてたのバッチリそのまんまだったじゃん!

 アンナちゃんの時みたいに、『気の迷いでつい』みたいなのをちょっぴり期待してたけど、真っ黒じゃんか!

 っていうか、俺目当てで西高に来たんかよ!



「だから、最近アカネちゃんが西尾くんとヨリ戻したがってる噂聞いて、西尾くんが危ないって凄く心配になったの」


「改めて詳しく聞いたら色々衝撃的過ぎて・・・特に俺追いかけて西高来たって話が一番怖いぞ。西高ってそんな簡単に入れんだろ・・・胃が痛くなってきた・・・」


 アカネさんが俺追いかけて西高入ったとかヨリ戻したがってる話が本当なら、その執念マジ怖すぎる。

 アクア先輩の母性の暴力なんてマジ可愛い子猫ちゃんレベルだ。

 これは確実にアンナちゃんに相談案件だな。

 それに女子相手じゃ俺は力技に出れないし、最悪、優木会長にバイオレンス的な意味での助けを求める必要が出てくるかも。

 あ、でも優木会長、指定校推薦組だから、トラブルに巻き込むのは不味いか。

 

「とりあえず、アカネちゃんのことでまた何か聞いたら教える様にするね。 私じゃ役に立てないかもしれないけど、西尾くんの方でも何かあったら遠慮なく言ってね」


「うん、助かる。 ありがとうな」


 

 山倉アヤは一通り話が終わったのか「何かあった時に連絡出来るように連作先交換しとこ?」と言うので、連絡先を交換して、トイレ借りておしっこしてから俺は山倉アヤの家を後にした。


 帰り際玄関で、山倉アヤはこの日一番の優しい笑顔で見送ってくれたが、愛想笑いを返すのが精一杯だった。

 


 帰り道、自転車を漕ぎながら「アクア先輩との事が落ち着いたから今度こそ新しい彼女探し始めようと思ってたのに、それどころじゃ無くなりそうだな・・・」とやり切れない気持ちになった。

 俺の脳内では、「世にも奇妙な物語」のテーマソングが流れていた。








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