#48 旧友との語り合い



「その反応を見る限りは、話しておいてよかったみたいだね。アカネちゃんのこと聞いても、もうヨリ戻す気無いんでしょ?」


「それは、無いな。しかも自分で俺のこと元カレって言いふらしてるんでしょ? 危険が危ないセンサービンビンだし、関わりたくないってのが本音かな」


 同じような別れ方をしてても、アンナちゃんとは違う思考の様だし、ロクなことにはならない予感しか無いな。 付き合ってた頃は真面目で清楚なイメージだったけど、やはり二股するくらいだし本性はそんなもんなのかもしれんな。


 それにしても疑問もある。

 アカネさんのことよりも、山倉アヤだ。

 この部屋に招かれてからの態度が、これまで図書当番をしてた時と違いすぎる。 基本的に信用は出来る人だとは思ってるし友好的なのは悪い事じゃないけど。

 山倉アヤも西高生として自主性に目覚めてしまったということだろうか。



「俺からも聞きたいことあるんだけど、良いか?」


「うん」


「山倉さんはどうして急に俺のことを心配してくれるようになったの? 図書当番の時はずっと壁作って距離置かれてる様に感じてたけど、今の山倉さんの態度がギャップありすぎて、ぶっちゃけ戸惑ってるんだよね」


「うん、そう思うよね・・・ごめんなさい。冷たくしてたのは、素直になれなかったというか、色々誤解してたというか・・・」


 山倉アヤは、本当に申し訳なさそうな表情で謝り出した。


「まぁ、危険人物扱いされてた自覚あるし、俺と距離取ってたのは山倉さんだけじゃないから、そんな風に謝る必要は無いよ。 笹山さんと長山さんだって、料理部で最初はすっごい警戒されてたし、今は凄く仲良くしてくれてるけど、そうなるまでにも時間かかったからさ」


「今こうして素直になれたのも、あの二人のお蔭なの。 中一のまだ仲良くしてた頃は、西尾くんのことイケメンで女の子にも優しくて、凄く良い人だな、こんな人と付き合ってるアカネちゃん羨ましいなって思ってたくらいで。 でもあの時アカネちゃんの二股相手の津田先輩に暴力振って怪我させたって聞いて、凄いショックで怖いって幻滅しちゃって、それからはずっと距離取るようにしてたの」


「女子はみんなそんな感じだったんだろうね。 暴力振ったのは事実だし、みんなに距離取られて避けられるのも仕方無かったと思ってるよ」


「うん。 でも、西高に入って図書当番一緒になってずっと西尾くんの様子見てて、凄く落ち着いてるし、西尾くんのファンが押しかけて来た時だって、全然怒ったりしないで逆に困った顔でどうしていいのか分からない感じで、そういうの見てたら、本当は暴力だって好きでやってた訳じゃないんじゃないかって思うようになってて、そしたら笹山さんたちからも料理部での様子聞いて、二人も「全然怖くないよ。理屈っぽくてメンド臭いところあるけど、私たちとか料理部の先輩とかにも凄いフレンドリーだし、掃除とか片付けとかも誰よりも積極的だし、全然狂犬じゃなかったよ」って色々教えて貰って、そう言えば中一のまだ仲良くしてた頃もそうだったっけって思い出してね」


「そうなんだ。あの二人そんな風に言ってたんだ」


「うん。 それで昔の仲良くしてた頃のことが懐かしくなって、私も笹山さんたちみたいにもう一度西尾くんと仲良く出来るかな。仲直りしたいなって思うようになって。 そんな時にアカネちゃんが西尾くんとヨリ戻したがってる話聞いたら、西尾くんのことが心配で、何とか話して教えてあげないとって思ったんだけど、でもずっと冷たくしてたし、今日だって図書当番の時も悩んでばかりで声掛けづらくて、でも閉館して一人になってから、やっぱりこのままじゃダメだって思って、西尾くんが出てくるの待って思い切って声掛けたの」


「そこまで悩んでたんだな。 逆になんだか申し訳ないというか、ありがたいというか。 山倉さんは良いヤツだな。 さっき言ってた一学期に女子が沢山押しかけて来たのを追い払ってくれた時も、態度は冷たいけど根は良い子なんだろうなって思ったし、結構マジで感謝してたんだよ。冷たくされてたのも、アカネさんのことがあったからだろうし、そのことで俺が反発する気は全然無かったからさ」


「西尾くんも、やっぱり思ってた通り優しいんだね。 西高イチのイケメンって言われる理由がよく分かるよ。 あの時、距離取るようなことせずに西尾くんともちゃんと話しすれば良かったな。そしたら誤解するようなことも無かったと思う」


「それはどうかな。 暴力に関しては結構噂通りだと思うぞ。 アカネさんと間男にムカついて憎くて鼻血だそうが泣きだそうが蹴るの止めれなかったし、アカネさんの時だけじゃなくて、他に付き合った子が浮気してたの見つけた時だって、同じように間男蹴りまくったし、今でもそのことで後悔とか反省もしてないし、俺は暴力を振うバイオレンスな男なのは間違いないよ」


「でも、それって全部仕方無かったことでしょ? 確かに暴力は悪いことだとは思うけど、西尾くんがそうせざるを得ない状況に追い詰めたのは、あくまでアカネちゃんや元カノ達でしょ? 最近まではそんな風に考えること出来なかったけど、高校来てからの西尾くんの様子見て料理部とかの話を聞いてて、きっとそうだったんだろうなって思えるようになったんだよね」


「やっぱり、山倉さんって良いヤツだ。そんな風に言って貰えたの、初めてだよ」



 山倉アヤのこれまでの態度と急な変化の理由は理解出来た。

 素直になるのって勇気いるし中々難しいもんな。


 沢山話して喉の渇きを感じティーカップに口を付けると、いつの間にかカップの中身はカラになっていた。

 山倉アヤも同じだったようで、「飲み物のお代わり入れてくるね。紅茶でいい?それともジュースのがいい?」と言って、トレイにカップを乗せると立ち上がった。


「悪い。でも結構な時間お邪魔しちゃってるけど、大丈夫なの?」


「うん、それは大丈夫。 西尾くんも時間大丈夫?まだ少し話しておきたいことあるんだけど」


「うん、俺も大丈夫だよ。 飲み物はジュースでお願い出来る?」


「分かった。直ぐ戻るから、ちょっとごめんね」



 山倉アヤが部屋を出ていき再び一人になると、山倉アヤの前では緊張していたせいか無意識に「ふぅ」と息を吐いて肩から力が抜けた。


 手持無沙汰になりなんとなくスマホを取り出すと、グループチャットにアンナちゃんからの通知が表示されていた。 開いて確認すると、いつもの様にタナハシの画像が貼られてて『久しぶりにみんなで集まってお喋りしたい。今度の土曜とかどう?』とメッセージが書き込まれていた。


 そう言えば、アンナちゃんも西中だったし、アカネさんや山倉アヤのことも知ってるのか。

 いい加減アクア先輩との顛末も報告しなくちゃいけないし、そのついでに今日聞いた話も聞いて貰って、ヨリ戻したがってるっていうアカネさん対策を相談するのもアリだな。


 グループチャットに『あいあいさ』とだけメッセージを送ると、山倉アヤが戻って来たのでスマホをリュックのポケットにしまい、山倉アヤに「おかえり」と言った。


「うふふ、ただいま」


 お互いかどが取れて、既にすっかり友達同士のやり取りだ。



 それにしても山倉アヤって真面目そうで図書当番の時とかでも神経質な言動が多かったからもっと取っ付き難いと思ってたけど、腹割って話すと全然そんなこと無かったな。 昔は俺と会話する時はアカネさん居る時だけだったし学級委員もしてたからもっと遠慮がちな感じで、今みたいに俺にもフレンドリーな態度で接してくれたのは初めてかも。

 それに結構お喋り好きっぽいし、噂話も好きみたいだし、恋愛とかにも興味ありそうな感じだったし、なんだかんだ言っても普通の現役JKなんだよな。



「それで、アカネちゃんが二股してた時の話なんだけど」


 すっかり油断してた俺は、飲んでたジュースを思わず吹き出しそうになった。


「い、いきなりヘビィな話題だな」


「ああ、うん。 今後のアカネちゃんの行動を警戒するなら、あの時のことも話しておいた方が良いと思って。 アカネちゃんとはあの時すぐに別れちゃって、ほとんど話とかはしてないんでしょ?」


「そうだね。浮気現場目撃して、そのまま突撃して暴れて、アカネさんとはロクに会話しないまま絶縁状態になったね」


「西尾くんがアカネちゃんと別れた時に、最初アカネちゃんが二股してたとか信じられなくて直接本人に確かめようと話聞いたんだよね。 それで結局は私もアカネちゃんとは絶交することになったけど、その時に聞いた話を西尾くんにも話しておこうと思ったの」


 ぶっちゃけ今更聞きたくないというか興味無いんだけど、聞いておいた方が良いんだろうなぁ。


「なるほど。それでどんな話だったの?」


「二股してた理由としては、今思えばありがちな話だったよ」



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