#47 2代目元カノの噂




 話があると言う山倉アヤの表情から重要な内容の話だと判断し、俺は誘いに応じることにした。 そして「あまり人に見られたくないから場所を移したい」と言うので、ひとまず学校から出ることに。



 俺は自転車通学だが山倉アヤは徒歩通学だったので、先に校門で待ってて貰い、駐輪場で愛車を回収してから山倉アヤが待つ校門に向かった。


 校門を出てからは徒歩の山倉アヤに合わせて自転車を押しながら俺も歩いた。


 向かっている先は、山倉アヤの自宅。

 山倉アヤは俺とは小学校が違ったが同じ中学の学区なので、自宅は俺んちと方向は逆だが西高から近いらしい。


 いきなり自宅!?ナニが狙いだ?と最初は警戒したが、そんな俺の警戒心を山倉アヤはお見通しの様で、「別に変な目的じゃ無いよ。ただ人には聞かれたくない話だから」と言われ、何となく過去の事件に関連する事だろうと察した俺は、山倉アヤの自宅へ行くことを了承した。



 先を歩く山倉アヤについて行く様にして歩いた。

 途中はお互い無言で、行先を告げられて以降、会話は一切無かった。


 俺たちは仲が良い友達では無いし、これまでお互い干渉せずに距離を置く関係だったことから、俺の方が意識して距離を取って歩いた。



 山倉アヤの自宅は5階建てのマンションの4階にあり、そのマンションにはエレベーターが無く、階段で4階まで上がった。


 玄関扉を山倉アヤが自前の鍵で開けると、中に入る様に促され、玄関から見て一番手前にあった山倉アヤの自室に案内された。


 部屋に入ると山倉アヤは「飲み物用意してくるから」と言って荷物を置くと直ぐに部屋から出て行ってしまった。 てっきり山倉アヤには相当警戒されていると思ってたのに、自分の部屋に俺を一人で放置してしまうというのは意外だった。


 女の子の部屋というのは色々興味が湧くものだが、初めてのお家では緊張しちゃうシャイな俺は、座ることなくリュックも降ろさず棒立ちのまま、山倉アヤが戻って来るのを待っていた。


 10分ほどして部屋着に着替えた山倉アヤが飲み物とクッキーを乗せたトレイを持って戻って来ると、紅茶の良い香りが部屋中に広がる。



「え?ずっと立ったまま待ってたの?」


「ああ」


「そっか、ごめんね、気が利かなくて。コレ、使って」


 山倉アヤはトレイをテーブルに置きながらそう言い、クッションをすすめてくれた。


「いや、大丈夫。ありがとう」



 テーブルを挟んで対面に座ると、紅茶とクッキーを俺の前に置いてくれた。


 緊張してぎこちないまま「いただきます」と言ってティーカップに口を着けながら山倉アヤの表情を観察する。


 普段の図書当番をしている時や、先ほど学校で俺に声を掛けて来た時に比べ、幾分か柔らかい表情に見える。 自分の家だからリラックスしているのだろうか、それともこれから話す内容が思ってたよりも重くない実は楽しい話なのだろうか、よく分からないが、お互い無言のまま紅茶を飲みながらクッキーを摘まんだ。


 お互いが無言の時間は他の人となら重い空気になりそうだが、山倉アヤとは図書当番の時はいつもこんな感じだし、特に俺は重い空気には感じず、逆にココに来てすぐ一人で放置されてた時よりも少しだけリラックスしはじめていた。


 ティーカップをテーブルに置いて部屋の中をキョロキョロ見回していると、山倉アヤが話し始めた。



「西尾くん、西高来てから凄く丸くなったね」


「ん?俺? どうだろ、自分じゃ分らんけど、部活の友達からはそう言われるね」


「料理部だっけ。笹山さんと長山さんから色々聞いたよ。料理部で一生懸命料理憶えて頑張ってるんだってね。 中学の頃と全然イメージ違うって。最近はエプロン姿も板についてきたって言ってたよ」


「二人と友達だったんだ」


「うん、中学の頃からね。それに今も同じクラスだし、よく話すよ」



 今の所、山倉アヤからは俺の事ばかりだけど、さっきは他人に聞かれたくないとか言ってたし、コレが本題じゃないよな?


「それで俺の話なんかよりも、さっき言ってた俺に聞いて欲しい話ってなんだったの?」


「うん・・・アカネちゃんのことなんだけど」


 やっぱりアカネさんのことだったか。



「色々噂を聞いてね。西尾くんに気を付ける様に言っておこうと思って。それとその事だけじゃなくて昔のことも話しておくべきかと思って、それでウチまで来てもらったの。 急にビックリしたよね、ごめんね」


「噂? 俺が気を付けるような話なの?」


「アカネちゃん、あの事があってから中学卒業するまではずっと大人しく地味にしてたのに、高校入ってから所謂高校デビューしちゃったでしょ? 中学までの反動なのか見てても派手っていうか危なっかしいっていうのかな、アカネちゃん可愛いし噂とか色々耳にすることも多くてね、その中に西尾くんに関係する話とかもあったから心配になってたの」


「へー、アカネさん、今は元気そうにやってるんだ。俺の方は噂とか聞かないから全然知らなかったよ。そう言えば、アカネさんってドコの高校に行ったの?」


「え?知らないの???」


 俺が質問すると、山倉アヤは心底驚いた表情になっていた。


「うん、知らないけど」


「西高だよ?同じ学校じゃん。本当に知らないの?」


「え?そうなの?」


「でもそっか、階が違うから見かけることがあまり無いのかも」


「因みに何組なの?」


「アカネちゃんは3組だよ。私は2組で隣のクラスだから、よく見かけるし噂も聞くんだよね」


 西高では1年の教室は1組から4組までが1階にあり、5組から8組までは2階にある。俺は8組だからアカネさんや山倉アヤとは違う階だ。


「なるほど、そういうことなのか」


「でも、西尾くんの噂は良く耳にするよ。西尾くんの場合はちょっと次元が違うのかもね。西高で1・2を争うくらいの有名人だし」


「いや、そんなことは無いと思うけど」


 おかしいな。俺高校では目立たないようにしてたつもりなんだけどな。

 でももし本当にそうだとしたら、西高イチ有名人の優木会長のせいだろう。 あの人に入学式初日に絡まれて以来、なんだかんだと学校でも一緒に居ること多いしな。


「アカネさんが西高に入って高校デビューして復活したことは分かったけど、それがどうして俺が気を付けるって話になるの?」


「うん、アカネちゃんがね、今の友達とか周りの子に「マゴイチくんは元カレ」って言ってて、それは事実だから良いんだけど、どうもヨリ戻したいって言ってるらしいの」


「うわ・・・」


 思わずしょっぱい顔して声を漏らしてしまった。


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