6部 図書委員と過去のしがらみ

#46 図書当番の相棒


 連載スタート時に妄想していた話から色々追加されたり方向が変わったりしてきているので、タグを見直しました。 タグに関しては今後も変更する可能性あります。


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 2学期が始まり初日から色々あったが、料理部での話し合いを経て、何とかアクア先輩との関係再構築については目途を付けることが出来た。


 但し、アクア先輩の俺に対する態度は、付き合う以前の先輩後輩としての健全な関係とは言い難く、恋人同士だった時の関係とあまり大差は無い。つまりは、ただ肩書が『恋人』から『先輩』に戻っただけで、部活中俺に対するスキンシップは多いし、相変わらず俺のことは『マゴイチちゃん』と呼び続けている。

 部内でそういう扱いを受けるのは恥ずかしかったが、未だ赤ちゃんプレイの夢の中のアクア先輩には話が通じないし、部内の他のメンバーも気を使ってくれているのか揶揄ったりすることなくスルーしてくれてて、結局俺は一般人ノーマルという名の市民権を失わずに済んだが、アクア先輩の方も『マゴイチくんのママ』という冗談みたいな市民権が認知されてしまった。

 色々思う所はあるが、お互い料理部に在籍を続ける以上は「気不味い関係よりもまだマシだろう」と結局俺の方が折れて飲み込むことにしていた。


 とは言え、仲直り出来たと言っても別れた後だというのにあまりベタベタされるのには閉口することも多い。

 特に、最後にプレゼントされた呪いのロンパースが気になる様で、着心地きごこちをしつこく聞かれててその内に「着てるところを見たい」とか言い出しそうな空気を感じ、危険が危ないセンサーがビンビン反応した俺は、俺んちで試着した時に優木会長が写メに撮ってたのを思い出し急ぎ画像を送って貰い、それをアクア先輩にも渡すことで何とか難を逃れた。


 だがしかし、その画像見て大興奮したアクア先輩がその画像をスマホの壁紙に設定してしまい、更にそれを料理部の面々にも見られるという結局俺にとっては地獄のような羞恥プレーとなってしまったが。


 そして、優木会長も同じ画像をスマホのロック画面に設定していたことが後日判明し、直ぐに画像変える様に訴えたがスルーしやがったので怒った俺が「ロック画面なんてどうぞドナタでもご自由にご覧下さい状態じゃないっすか!画像変えるまで口聞かない!」とヘソ曲げて本当に会話を拒否し始めたら、渋々画像を変えてくれた。

 勿論変更後の画像もチェックしたが、いつ撮影されたのか不明な俺とテンザンが仲良く昼寝している寝顔のツーショットだったのだが、ピンクのロンパース姿で脚を交差して立ち両手を掲げて手首を外にクイッと向けたポーズ(レイザーラモンHGの「ふぉ~」のポーズ)でカメラ目線で写ってる画像よりはマシなので、良しとした。


 こんな調子で2学期がスタートした途端、相変わらず微妙な苦難が続いている。





 ◇





 西高に入学してから半年が経とうとしていた。

 これまでの俺の高校生活を語る上で、恋愛や料理部の他にもう1つ重要な物がある。

 図書委員だ。


 西高での委員会活動は、主に1~2年が中心で受験生となる3年からは免除される。

 そして、1~2年でも全員が参加する訳では無く、各クラスから保健委員や美化委員、そして俺の所属する図書委員などに各クラスから1~2名が選ばれて参加することになっていた。強制的に全員参加にしていないのは、恐らく自主性を重んじる西高の絶対的校風の影響だろうな。



 図書委員での活動内容は、所謂図書当番と呼ばれるお昼と放課後、夏休み中の図書室解放時の業務。

 通常の平日は各曜日お昼と放課後それぞれ1~2名で貸し出しや返却の受付業務や返却された本を棚に戻す作業が仕事で、俺は4月からずっと毎週水曜日の放課後の図書当番を担当していた。

 ぶっちゃけ、不人気な委員会の為か非常に緩く、当番をサボる人は居るし、業務中に読書してようが宿題していようが、利用者の対応さえちゃんとしていれば怒られない。と言うか、顧問の諏訪先生の方から「暇だろうから、宿題してても読書しててもいいからね」と言われている。


 余談だが、夏休み中の図書室解放時の当番は図書委員全員参加では無く、極一部の所属委員数名が対応した。

 夏休み中の図書室は7月の夏休み冒頭から8月のお盆までの期間、週に三日(月水金)のお昼12時~15時まで解放されており、各曜日1名づつ計3名が夏休み中の図書当番に参加しており、家が近いからという理由で俺は強制的にその一人に任命された。

 ぶっちゃけ、夏休み中は利用者がほとんど居なくて、図書室解放する必要あるのか?と疑問に思えるレベルだった。更には、毎回の様に俺の当番の日には諏訪先生がやってきてウザい程絡んで来てたので、図書当番の仕事の為と言うよりも、諏訪先生の相手をする為に登校していた様なものだったが、結局俺は一度もサボらずに毎週登校していた。


 と、諏訪先生の話は糞程どうでもいいので、閑話休題。




 俺の通常時の当番である水曜日放課後は、もう一人別のクラスの1年女子が担当している。


 その1年女子は『山倉アヤ』という名前で、真面目で性格はキツめでどこか神経質さを感じさせる様な所謂学級委員とかに居そうなタイプ。 毛先がピッシリ揃ったセミショートの黒髪と赤いフレームのメガネが印象的な子で、人によっては近寄り難さを感じるタイプだろう。それと、俺の見立てでは、胸のサイズは中々だが優木会長よりは若干控えめかな? 優木会長、結構胸あるしな。


 そんな山倉アヤとの二人での図書当番は、業務以外の会話は一切無く、2学期になっても未だに山倉アヤとは目立った交流は無いまま。


 山倉アヤの俺に対する態度で、印象的な出来事がある。

 1学期の5月だったか6月頃だったか、俺が水曜放課後に図書当番をしていることを知った他のクラスの女子連中が図書室に多数押しかけて来て騒いでいたことがあったのだが、それを山倉アヤがキツく注意して追い払ってくれたことがあった。

 その時に俺は「山倉さんありがとう。助かったよ」とお礼を言ったのだが、不機嫌な態度のまま「別に西尾君の為に注意した訳じゃない。図書委員として当たり前の仕事」と言って、俺の方を見向きもせずに話しかけて来るなオーラを放っていた。


 だが、実はこういう態度は俺にとって都合が良く、あまり悪い印象は持たなかった。

 1学期のあの頃は、優木会長との噂が沈静化するのと同時に、他のクラスの女子からの様々なアプローチが激化していた頃だったので、一緒に居てもお互い干渉することなく放っておいてくれる女子との図書当番の時間に、俺は心地良ささえ感じていた。



 因みにだが、山倉アヤは性格が悪くて俺と距離を置いている訳では無いと思う。

 真面目で神経質でクールな性格ではあるが、そういう態度をとる別の理由に、俺と山倉アヤとの間の過去の因縁が思い当っていた。


 山倉アヤは俺と同じ西中出身で、しかも中一の時に俺とは同じクラスで、そして共通の知り合いが居た。

 俺が中一の頃に付き合って二股掛けられ別れた2番目の元カノ『柏木アカネ』だ。



 俺の記憶している限りでは、山倉アヤとアカネさんは元々は友達だった。

 確か二人は同じ小学校出身で同じ吹奏楽部にも所属していて、当時学級委員だった山倉アヤと清楚系美少女だったアカネさんは、休憩時間に俺の隣のアカネさんの席で真面目タイプ同士仲良さそうによくお喋りをしていたのを記憶している。

 俺もアカネさんと付き合ってた頃は、その会話によく混ざって3人でお喋りしていたものだ。


 そして、俺が二股を掛けられた事実を言い広めて別れて以降は、山倉アヤもアカネさんとは距離を置いていた様に思う。

 俺もあの事件を切っ掛けに周りの女子から距離を置かれてしまう様になっていたので、二人の関係を注意深く観察していた訳では無いし記憶も曖昧だが、今思い返してみれば、俺も山倉アヤもアカネさんの二股事件で傷ついた似た者同士であり、山倉アヤは中学を卒業して俺と同じ西高に入学してからも、その傷に触れて欲しくないかの様に俺からの干渉を警戒している様に思えた。


 アカネさんがドコの高校に進学したか知らないし、俺は今更アカネさんのこと自体は正直どうでもいい。 新しい恋を探し求め恋に恋しちゃってる健康的で善良な男子高校生だからな。

 大事なのは過去よりもこれからだ。


 だから、山倉アヤが「過去に触れて欲しくない」「過去を思い出させる存在である俺とは関わりたくない」と思うのなら、俺はそれを暗黙のルールとして従うし、図書委員の仕事に恋愛を持ち込む気も無い。


 そう思って1学期を過ごして来た。

 まぁ、あの頃は料理部の方でアクア先輩との恋愛を成就させるのに夢中だったし。


 山倉アヤとの関係を一言で表すのなら「仲良くは無いが、一応は信頼は出来る」 そんな関係だと思えた。だから山倉アヤの態度に俺は反発することなく、素直に合わせる様にしていた。



 2学期に入ってからもお互いそんなスタンスのままだった。


 業務中はお互い干渉せずに黙々と宿題をしたり読書をしたり、たまに来る利用者の対応をしたりして、閉館の時間が来れば戸締りと片付けを済ませて、入口の鍵を締めてその場で解散。鍵は毎回俺が一人で職員室へ返却していた。




 9月中旬のこの日も同じように、閉館作業を済ませて鍵を締めてから解散し、一人で職員室に返しに行った。


 アンナちゃんから「アクアって先輩とどうなったか報告しろ」って催促されてるんだよな

 でも、今の状況説明したら、また怒られそうなんだよな

 最近のアンナちゃんってやけに俺には厳しくて怒りっぽいんだもんな

 折角相談に乗って貰ったけど、報告するのはメンド臭いな


 とブツブツ独り言を漏らしながら職員室から下駄箱に向かって廊下を歩いていた。


 下駄箱に到着すると、靴を履き替え玄関から出た。

 ココまでの動作は完全に無意識で、相変わらず頭の中では「アンナちゃんへの報告がメンド臭いな。でもあのぶよんぶよんおっぱいも捨てがたいんだよな」と悶々と考え事をしていた。


 すると、いきなり背後から「西尾くん」と声を掛けられた。


 アンナちゃんのぶよんぶよん揺れるおっぱいを思い浮かべてダラしなく油断していた俺は、いきなりの不意打ちに心臓が止まるかと思う程ビクッとして「ヒィ!?ゴメンナサイ!」と叫んでしまった。


 俺に声を掛けて来たのは、俺の驚きざまには関心無さげで普段と同じ神経質そうな表情の山倉アヤだった。




「ちょっと話があるんだけど。今からいいかな?」




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