#42 失恋後の女神
笹山さんと長山さんから話を聞いた俺は、教室を飛び出して保健室に向かった。
後ろから二人が「待ってマゴイチくん!休憩時間終わっちゃうよ!」と言いながら追いかけて来たけど、俺は保健室へ向かう足を止めなかった。
因みに、廊下を走ると職員や生徒会に
そのお陰か、「私たちも行くから」と言って俺を追い駆けて来た笹山さんと長山さんは直ぐに追いつき、3人揃って早歩きで保健室へ向かった。
今日は始業式で部活は無かったから、アクア先輩とはまだ会うつもりは無かった。
だから返すつもりだったベビー服も今日は持ってきていない。
そして、何よりも俺には今日はまだ、アクア先輩と会って話をする心の準備が出来ていなかった。
だがしかし、アクア先輩が貧血で倒れたと聞いた瞬間、アクア先輩の体調不良は俺のせいなんじゃないか?と不安が沸き上がり、昨日まで悩んでいた憂鬱な気持ちとか吹き飛んで、とにかく今はアクア先輩の体調や様子を確認したくなった。
貧血の原因は、精神的に病んでいるとか拒食症とかなんだろうか。
もしそうなら、その原因は俺と別れたことなんだろうか。
そんな不安に
保健室前に3人到着すると、二人が俺に「マゴイチくんが先に入って」と言いたげに無言で視線を送って来たので、荒くなった息が落ち着くのを待たずに「失礼します」と一言かけてから扉を開いた。
保健室の中ではクーラーが効いており、女性の養護教諭と料理部の2年と3年のメンバーが勢ぞろいしていた。
みんな一斉に俺たちの方へ振り向き、みんな息ぴったりに人差し指を口に当て「シ~」と言った。
緊迫した場面だというのに、ぽっちゃり体形の先輩達と中年の養護教諭が一斉にやる「シ~」は、ちょっと面白かった。
3つあるベッドの1つが、カーテンで仕切られており、どうやらその中でアクア先輩は休んでいると思われた。
中の様子が気になったが、流石に女性が体調不良で寝ている様子を覗き見るのはマナー違反だと思ったので俺は遠慮したが、笹山さんと長山さんはよっぽど気になるのか、そ~っと近づき音を立てない様にカーテンの隙間から首を突っ込んで中の様子を確認していた。
カーテンから離れた笹山さんは何とも言えないような悲壮感っぽい空気を漂わせながら、「アクア先輩・・・髪が・・・」と零した。
「え!?髪がどうしたの!?」
失恋したら髪を切るとかいうヤツか!?
「うん・・・アクア先輩、髪がね・・・」
長山さんもアクア先輩の髪の異変に気付いた様で、同じ様に悲壮感っぽい空気を漂わせている。
ま、まさか、極度のストレスで白髪にでもなったのか!?
たしかマリーアントワネットだっけ。
俺が不安と恐怖に
「病人に対して、失礼だな」と思うも、アクア先輩の体調が凄く気になっているのも事実なので、俺もそ~っとカーテンに近づき、隙間から首を突っ込んで中の様子を確認した。
アクア先輩は、熟睡していた。
若干顔色は悪く見えるが、元々顔が丸々として血色も良い人だったから、表情からは心配していたほど体調不良には見えない。
そして、拒食症などで急激な体重減少による貧血ではないかと心配したが、相変わらず丸々としてるので恐らくそれは無いだろう。
そして、髪だが・・・
前髪が極端に短くなっていて、毛先がパッツンと揃っている。
以前は眉毛に掛かるくらい長くてオデコも常に隠れていたのに、今のアクア先輩はオデコオープンスタイルだ。俺の前髪よりも短いし、いくらなんでも短く切り過ぎだな、うん。
丸々した顔にツヤツヤのオデコ全開で、若干濃い目の眉毛が印象的なアクア先輩の寝顔を確認した俺は、カーテンの隙間をそっと閉めて元居た位置に戻り、天井を見上げ目を
「アクア先輩、どうしちまったんだ・・・まるで金太郎みたいじゃないか・・・」
すると、俺以外の料理部メンバー全員が笑いを堪えきれずに「ぷっ」と声を漏らした。
因みに、寝る前のアクア先輩本人から聞き取りした養護教諭の先生が言うには、ココの所ずっと夜更かししてて夏休み中は昼間寝てたけど、昨夜も深夜遅くまで起きてたのに今日は学校に来てて寝れなくて、それでダウンしたらしい。
今日は始業式ということでお昼には終わる為、アクア先輩はこのままお昼まで保健室で休んでから下校することになった。
俺たち料理部が保健室を出る頃には既に授業が始まっていたが、俺はみんなを呼び止めて話すことにした。
「俺とアクア先輩、6月の後半頃から付き合ってたんです。でも夏休みに入って直ぐに別れてて・・・」
アクア先輩の
やはり罪悪感もあったし、黙って居るよりは正直に説明して、「微妙な空気になるかもだけどごめんなさい」と先に謝っておいた方が良いだろうとの判断からだ。
「え?知ってるよ? アクアちゃん、夏休み入って直ぐの頃に料理部のグルチャで「マゴイチくんに嫌われちゃったよ~!どうしたら良いの~?びえん」とか言って、みんなに相談してたし」
「そうそう。マゴイチくんもグルチャ入ってるのに全然既読付かないから、見てないなぁとは思ってたけど」
「マジかよ・・・」
そう言えば、入部してすぐの頃に登録してたっけ。
クラスのとか部活のとか一々確認するのが面倒だから、完全にスルーしてた。
「まぁ恋愛のことは、私らじゃイケメンで経験豊富なマゴイチくんには大したこと言えないけど、アクアちゃんは私らと同じで全然恋愛経験無いし、それで同じ非モテ女子の料理部のみんなに相談するしか無かったんだね。 だから、アクアちゃんのことは怒らないであげてくれるかな?」
「ええ、まぁ、俺も自分から話そうと思ってたし、そのことで怒るつもりは無いんですけど・・・」
実際にドコまで話しているかが重要だ。
買い出しデートで手を繋いだことくらいは全然おっけーだ。
ハグして愛の言葉を囁き合ったことも、恥ずかしいけど、まぁおっけーだ。
しかし、赤ちゃんプレイはまずい。
話してるのか?どうなんだ?
確認したいが、もしそのことまでは話してなくて、俺が確認しようと何か聞いたところで「別れた原因はなに?」とか逆に聞かれでもしたら、
さて、どうしたものか。
「それにしても、ベビー服まで自作で用意するとか、アクアちゃんは
はいアウトォ!
ダメじゃん!
アクア先輩、それ言っちゃぁダメだよー!
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