#37 仲直りの後には




 夏休みも8月に入ると、俺んちが本格的に溜まり場となっていた。


 毎日の様に朝9時になるとアンナちゃんが一人でやって来て、俺の部屋で二人でそれぞれの夏休みの宿題を始める。

 これは仲直りして直ぐの頃、たまたま俺の部屋でアンナちゃんと二人の時に「マゴイチくん西高だから勉強得意でしょ?アンナ苦手で宿題困ってて、勉強教えてもらいに来てもいい?」と胸の谷間を見せつつアンナちゃん得意の上目遣いで頼まれ、迷わず即答でOKしてしまった。

 言い訳させてもらうが、別に「アンナちゃんとワンチャンあるかも」とか「ヨリ戻したい」とかそんなことは一切考えてない。 ただ、おっぱいには逆らえないさがとだけ言わせてもらおう。


 そして10時過ぎると優木会長が自転車に乗ってやってくる。

 来て早々小姑みたいに勉強中のアンナちゃんに向かって「宿題をエサにマゴイチと二人キリになろうだなんて、あざといわね」とか「体操服はどうしたのよ。スカートなんて履いて下心見え見えなのよ」などの小言から始まり、アンナちゃんも負けじと「アリサだって胸強調する服でアンナに張り合ってるクセに」と冷静に反撃している。


 ただアンナちゃんはアフロと違って学習能力があるのか、過去の苦い経験から危険察知センサーが備わり、優木会長に対して挑発するような言動はするが本気で怒らせるようなことはしないので、アフロの様に関節技や絞め技を掛けられたことは、今の所まだない。


 まぁなんだかんだとこの二人は『アンナ』『アリサ』と名前で呼び合うようにはなっているので、本気で嫌い合っているわけでは無いと思う。 優木会長は回りくどいこと言わずにストレートにズバズバ言うタイプだし、アンナちゃんも気が強いから優木会長に言われると黙ってられないだけだろう。

 猫被って裏でコソコソ陰口言い合うよりよっぽど健全だ。


 因みに二人が言い合いする際は、毎回優木会長は俺の腕に抱き着くなどの俺へのボディタッチをしながらで、逆にアンナちゃんは俺の体に触れてくることは無い。

 優木会長は俺に対する好意を相変わらず隠すことはしなくて、アンナちゃんの方は恐らく好意では無くて、本人も言ってた様に本当に俺達と友達としての仲を築きたいだけなのだろう。


 こんな二人のやり取りも既に慣れてしまっているので、俺は黙々と宿題に取り組み、お昼頃になるとみんなの昼飯の準備を始める。アフロはだいたいこの時間にやってくる。

 4人揃って昼飯を食べると、後はゲームしたりプロレスなんかの動画見たりストレッチ技の練習相手したりとゴロゴロダラダラしてるだけ。こんな毎日が続いてる。


 当初の夏休みの遊ぶ計画では、海に行ったり買い物に行ったりと遊びに出かけるのをメインで予定を立ててたのに、例年よりも激しい猛暑が連日続いたせいで、日中は外に出たがらなくなってしまっていた。だから、週イチの図書委員の当番で学校に行くのと、たまーに萬福軒に4人で食べに行くくらいしか外出してないのが実情だ。


 とは言え、折角巨乳揃いのメンツなので1度くらいはみんなのセクシーな水着姿を拝みたいと思うのはおっぱい大好きな童貞じゃなくても健康的な男子なら皆思うこと。「折角の夏休みだから、1度くらい海かプール行こうぜ」と何度も誘ってみたが、「日焼けするからヤダ」だの「水着なんて持ってないわ」だの「ドーテーキモイ」だの今更言い訳ばかりで、結局夏らしいこと何もしないまま、気付けばお盆も過ぎてしまっていた。


 き、キモくねーし!



 そんな感じで貴重な10代の夏を不健康に浪費する不毛な日々を送っていたが、遂に待望のあの件が近づいてきた。


 そう、わんちゃんだ。

 優木会長んちから子犬のテンザンを西尾家にお迎えする日が決まったのだ。


 優木会長から「4匹ともおトイレ憶えたし、そろそろ良いわよ」と言われて、ではどうやって子犬たちをウチまで運ぼうか、犬小屋やリードの用意とか迎える準備も進めなくちゃ、と色々相談しているのだが、あの普段マイペースなアフロですら俺と一緒に犬の躾のことや食事のことなんかを調べたり、分からないことがあると優木会長に教えて貰ったりして犬のことを真面目に勉強している。


 そして子犬の事で盛り上がる俺たちを見てアンナちゃんが興味ありげに、だけど会話に入ろうとせずにモジモジしていたので、これはもしかして?と思い「アンナちゃんも犬は好きなの?子犬飼うのに興味があるんじゃないの?」と尋ねると、目をキラキラさせて「うん!アンナも子犬欲しい!」と正直に白状して、それを聞いた優木会長も「それならそうともっと早く言いなさいよ。是非アンナも1匹引き取ってよ」と、すんなり交渉成立した。



 で、アンナちゃんが残ってる2匹の子犬のどちらを貰い受けるかを選ぶ為に、久しぶりに優木会長のお家にお邪魔した。俺もテンザンの成長ぶりを見ておきたかったしな。


 約1カ月ぶりの優木家では、アキラを始めとしたわんちゃん達は庭で元気に過ごしていた。

 子犬達はコロコロと転がる様に走り回り、キャンキャンとじゃれあってる様子がとても可愛くて、見ていると自然と頬が緩むのが自分でも分る。



「前に見た時は家の内で大人しくお乳を吸ってるだけだったけど、成長っぷりが著しいっすね」


「うふふ、すっごく元気でしょ? 子犬達が元気過ぎて五月蠅いくらいなのよ」


「ねね!アリサ!散歩は夕方行くの?」


「そうね。アキラが夏バテ気味だから少し涼しくなってからのがいいのよ」


「おっけー、じゃあそれまでムトーに「お手」覚えさせる!」


「どの子がタナハシとコバシなの?」


「尻尾だけ白いのがオスのタナハシで、全身白がメスのコバシよ。好きな方選んでいいわよ」


「ママがオスならって条件でオッケーしてくれたから、タナハシかな。 あ~!タナハシめっちゃ可愛い~!」


 アフロとアンナちゃんがそれぞれ子犬相手にはしゃいでいて、優木会長も縁側に座り楽しそうにその様子を眺めている。


 俺もテンザンの特徴である頭頂部の黒い模様を確認すると、テンザンの前で胡坐をかいて座り、「おいで?」と言って両手を伸ばした。


 テンザンは俺の指をペロリと舐めると、俺に向かって突進してヒザに駆け上り、俺の顔に向かってピョンピョン飛び跳ねた。

 ビックリしてテンザンを抱く様にしてそのまま後ろに倒れると、テンザンは俺の顔をこれでもか!と言う程ペロペロ舐めだした。

 くすぐったくてゲラゲラ笑っていると、他の子犬達も俺の所へ集まって来てみんなで顔をペロペロ舐めだした。


「ヤメテ!ヤメテ!襲うならアフロかアンナちゃんにして!あっちのがお乳おっきいよ!」


 狂犬と呼ばれた俺が子犬達にタジタジの様子に、優木会長もアフロもアンナちゃんもみんな大笑いしている。 夏バテ気味のアキラは、我関せずで大人しくお休み中。



 この光景、きっと平和で楽しそうに見えるだろう。


 なんだかんだと優木会長たち3人と過ごした夏休みは楽しかった。

 アクア先輩との別れから始まり、優木会長との交友を深め、アンナちゃんと仲直りした。

 人生で初めて女性の陰毛を間近に目撃するという衝撃的な体験もした。

 そして8月の終わりには、テンザンが俺の家にやって来る。

 


 夏の終わりは、すぐ目の前に迫っていた。






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