#36 初代元カノの禊(みそぎ)



 やはり、間男と俺との違いは、その積極性や強引さか。

 アンナちゃんの話を聞いてると、俺が反省するべきは、彼女が求めている物を読み取ろうとせずに「女の子は大切に扱う物だ」と決めつけて、行動しなかったことだろうな。 本当の所は、ただビビってただけのクセして、色々もっとらしい言い訳考えて逃げてただけなんだよな。

 自分で言うのもなんだけど、普段の生活では相手が何考えてるとか何を求めてるとか察することが出来ていると思うが、恋愛となるとビビって臆病になってしまってるのかもしれないな。


「それで、マゴイチは今の話聞いて、どうするの?」モグモグ


 アンナちゃんの話を聞いて俺が黙ったまま考え事をしていると、優木会長がシャカチキを頬張りながら俺に質問して来た。



「うーん、どうもしないっすよ。 その時に相手の男、泣くまでボコボコにしたし、中学の方でもアフロが拡散してそいつハブられてたらしいし。アンナちゃんに対しても俺が自分で話し広めて仕返ししたし、そもそも小学生の子供の頃の話ですからね、今更ナニかしたりはしないっすよ。 っていうか、アフロは俺とアンナちゃん会わせて、どうしたかったの? 俺が提唱してる『可愛い子は浮気する』っていう説を裏付けするような話だったと思うけど?」


「マゴイチそんなこと考えてたの? 私の告白断るのって、それが理由なの?」


 おっと、優木会長にはこの話はしたこと無いんだっけ。

 うっかりしてた。


「マゴイチの拘りは否定せんけどさ、「それだけじゃないんじゃない? マゴイチ自身にもナニか見直して気付く必要があるんじゃないの?」って言いたかったんだよね」


「なるほど。 アフロにしては珍しく的を得たまともな意見だな。確かにアンナちゃんの話聞いて色々考えさせられたよ」


「まぁね。 そんで、とりあえずウチとしては、マゴイチとアンアンが仲直りしてくれたら、これからは一緒に遊べるし、マゴイチのカチカチに硬い頭もチンコも柔らかくなるんじゃないかって思ったん」


「で、私の告白断る理由はやっぱりそういうことなの?私がブスになれば断らないの?」


「アンナちゃんはどうなの?俺とまた遊びたいとか思う? 俺だって大概だよ?当時はアンナちゃんのこと「クラスで一番可愛くて、小学生なのに巨乳で」ってそういう風に見てたし、アンナちゃんが言ってたアクセサリー感覚って、俺もそんな感じだったから。 それに、俺が浮気された話を広めたからアンナちゃんずっと周りから距離置かれてた訳だし、そんなヤツと今更仲直りしたいと思う?」


「私は・・・ヨリ戻したいとかそんなんじゃなくて、やっぱり仲直りはしたい。 アンナ、友達はアッコ先輩くらいしかいないし」


「なるほど」


「ねぇ!聞いてる?マゴイチ! 私がブスならOKなのかって聞いてるのよ!っていうか私浮気なんて絶対しないわよ!」


「じゃあさ!今からアンアンのみそぎやろーか!それでお互いわだかまり捨てて、仲直り出来るようなヤツやろーぜ!」


「アフロ、お前楽しんでるだろ?」


「そんなことないよん。あ、でもオモロいこと思いついた。アンアンだけじゃなくてマゴイチも参加する二人同時のみそぎ


「なんで俺もなんだよ」


「ねぇねぇ!無視しないでよ!私の話もkうぇsdtfyrfgyhk」レロレロレロレロ


 優木会長がいい加減五月蠅いから手で口を封じて強制的に黙らせた。

 こら!レロレロ舐めるな!


「それで、みそぎってナニすんの?」


「マゴイチとアンアンが今着てるの、交換しよう!それで今日一日過ごす!」


「これでマゴイチの味、憶えたわよ」うふふ


「いや、俺の味じゃなくて、ベビー服の味だと思うんすけど」


 で、マックのトイレに入って、アンナちゃんと着てた服交換して着替えた。



 アンナちゃんは身長は160無いくらいで、おっぱいは大きいが体形はスマートな方だろう。 そんなアンナちゃんが着ていたのは、ダンジョン(段田女子学園)指定の小豆色のジャージのズボンと白い体操服だ。


 上も下も伸縮性があるので俺でも着れたけど、ピチピチで伸び伸びな挙句、腕のそでや脚のすその長さが足りてなくて、サイズ合ってない感がかなりマヌケな絵面だ。

 因みに、なぜアンナちゃんも学校のジャージを着てたかというと、アフロに対するリスペクトだったらしい。アフロをリスペクトするとか、流石ダンジョン、頭ゆるいな。



 対する俺が着ていたのは、身長180の俺の体形に合わせて母性のモンスターによって作られたモコモコ地の全身タイツの様なカバーオール。 おまけに、朝の全力ダンスからずっと着てたからふんだんに汗が染み込んでて、早く家に帰って脱ぎたかったくらいの代物だ。

 それをアンナちゃんに着させる。


 先に着替え終えてテーブル席に戻って来ると、優木会長に「ピチピチで胸の筋肉がクッキリね」とうっとりした目で胸あたりをサワサワ撫でられ、「あふぅ」と変な声が漏れてしまった。


 着替え終えて遅れて出て来たアンナちゃんは、すげぇしかめっ面。

 サイズブカブカだし、若干湿ってて汗臭いだろうし、真夏なのに両手両足全部モコモコだし、不快感ハンパないだろう。禊というより罰ゲームだな。

 さっきまで着てた俺が言うのだから、間違いない。



 テーブル席に戻って来たアンナちゃんは、イスに座ると不貞腐ふてくされ気味だ。


「アンアン、どう?ドラえもんの気持ちになれそう?」


「いやマジ意味分かんないんですけど?なんでこんなに湿ってるの?っていうか、そもそもなんで普通の服着てこないの?普通元カノに会うとかそういうイベントって、めっちゃデリケートじゃないっすかぁ?なのになんでベビー服着て来るの?三人ともこれが当たり前みたいな顔してたからツッコミたいの超我慢してたんすけど、やっぱりどー考えてもおかしいっすよね?こんなん着てるマゴイチくんに面と向かって笑わずに懺悔したアンナ超凄くないっすか?っていうか、こんな服ドコで手に入るの?こんなサイズのベビー服売ってないですよね?」


「おかしいのは優木会長だけだ。俺は優木会長の命令に従っただけだからな。それに今日アンナちゃんが来ることだって事前には聞いてないぞ? あーあと、フードもちゃんと被ってよ?俺だって暑いの我慢してずっと被ってたんだから」


「所詮は過去に終わった女ね。こんなことくらいで動揺するなんてまだまだよ。 私ならマゴイチの脱ぎたて喜んで着るわよ!」


「じゃあアンタが着ろよ。喜んで譲ってあげるわ」


「それじゃあみそぎになんないじゃん。アンアン文句ばっか言ってないで諦めなって」



 禊のお蔭でやさぐれモードのアンナちゃんは、先ほどまでの俺に対する萎縮してるような態度は見せず、遠慮もしなくなっていた。 なんだかんだと優木会長に対しての荒い口調とか、コレが素の性格なんだろうな。付き合ってた頃はそんなことに全然気づけなかった。




 この後4人で俺のウチに帰り、アンナちゃんも含めてこの日もウチに泊まって行った。

 アンナちゃんは付き合ってた当時何度もウチに遊びに来てたから、かーちゃんも憶えてたみたいで「あら~、アンナちゃん美人さんになったわね~」と懐かしんでいたが、その時、全身水色のベビー服姿だった為に頭痛い子だと認識したようだ。


 夕食の食卓は昨日以上に賑やかで、とーちゃんもかーちゃんも優木会長もご機嫌で、アンナちゃんも沢山笑っていた。

 食事とお風呂の後は、俺の部屋で4人でワイワイ騒いでいたが、パジャマーパーティーに意気込んでいた優木会長とアフロは早々に寝落ちし、俺のベッドで二人仲良く寝てしまった。


 俺はまだ起きていたアンナちゃんと少しだけ距離を取り、テーブルを挟んで遅くまで色々語り合った。

 二人きりになるとやはり少し緊張しちゃうのか、最初はお互い遠慮がちにポツポツと共通の話題で言葉を交わしていた。でも直ぐに懐かしい気持ちが湧いてきて、わだかまりはサッパリ消えた。多分、アンナちゃんもそうだったのだろう。


 今の高校のこと。

 中学の頃、どんな事考えてたか。

 小学生時代の思い出。

 ベビー服のこと。

 おっぱいへの情熱。

 etc


 二度と話をすることは無いだろうと思って忘却の彼方に追いやった元カノだったのに、実際に話してみると怒りや不快感が収まってたお陰か、彼女の謝罪や釈明をすんなり聞き入れることができた。 それに付き合ってた当時や公園で再会した時に感じてた気を張るようなプレッシャーも無くなってたと思う。お互い肩の力抜けて、気楽な心持こころもちで会話出来てたんじゃないかな。 0時を過ぎる頃にはお互い謎の深夜テンションで、バカ笑いしながら楽しくお喋りしてた。こんなことは付き合ってた頃にはありえなかったな。

 これが大人になったということなのか、それとも少しの後悔や未練が残っていた為なのかは分からないけど、こうして今のアンナちゃんとじっくり話してみると、昔とは全然口調違うし、性格もなんかひねくれてて俺たちとノリが近くて、今の方のが気軽に話せて面白いし、こんな感じなら友達として上手くやっていけるだろうと思えた。





 翌朝起きると、優木会長だけ「コンビニ行って来る」と言って一人でそそくさと出かけた。

 多分、コンビニでトイレ借りてウンコしてたんだろうな。

 俺んちのトイレでウンコして匂いが残ることに恐怖心を抱くのも、仕方ないしな。







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