#35 初代元カノの回顧



 4人分の会計を俺が済ませて、優木会長と手分けしてトレーに乗せた4人分のハンバーガー等を持って2階席に上がると、壁側のテーブル席を確保して座っているアフロが笑顔で手をぶんぶん振っていた。



 テーブルでは壁側のイスにアフロが座り、向かいのイスにアンナちゃんが座っていた。

 アンナちゃんの隣は気不味いので一瞬アフロの隣に座ろうと思ったが、そうなると優木会長とアンナちゃんを隣り合わせで座ることになり、その方のがもっと不味いと思いなおして、仕方なくアンナちゃんの隣に座ろうとするが、結局優木会長がアフロに向かって「アフロがあっち座ってよ。私とマゴイチでコッチよ」と言い、強制的にアフロがアンナちゃんの隣に座ることになった。


 俺の右隣に優木会長。正面にアンナちゃん。右斜めにアフロ。というボジションだ。



「ちょ!チキンばっかじゃん!ぎゅう無いの!?っていうかポテトも無いじゃん!」


「五月蠅いわね。牛肉なら昨日沢山食べてたじゃない。嫌なら全部私が食べるわよ」


「誰も食べないとは言ってねーし」


 目立つ格好してさっきから周囲の注目を集めていると言うのに、アフロと優木会長が騒ぐから、たまらず注意する。


「二人とも声大きいよ。ただでさえ目立ってるのに、恥ずかしいから少しは大人しく静かにしてよ。これだから現役JKは」


「目立ってんのはマゴイチだけじゃん。全身水色で来るのが悪いんだし」


「仕方ねーじゃん!会長がコレ着て行けって言うから!だいたいこの服、指の先まで覆ってるからナゲットとか食べにくいんだよ」


「あらイイじゃない。カッコいいわよ? ・・・・ぷっ」



「カッコいいわよ」と言いつつ、笑いをこらえる優木会長。どうやら俺の全力ダンスを思い出した様だ。 超絶凹んでいた優木会長を折角俺が身を削って励ましたと言うのに、恩を仇で返すとはまさしくこのことだな。



「・・・ウンコがくさいのバレてさっきまで凹んでたくせに(ぼそ)」


 俺がチキンフィレオを食べながら隣に座る優木会長にしか聞こえないトーンで反撃すると、いきなり右肩をガッチリ掴まれ「え!なに?」とビックリして優木会長のほうへ向くと、目力めぢからハンパない真剣な表情で俺の顔を見つめ、無言のまま首を左右に振った。

「それ以上、言うな」ということらしい。



 優木会長とアフロが静かになると、漸く落ち着いて4人とも黙々と食べることに集中しはじめた。


 そもそもこの集まりは、わいわい騒ぐ目的でも仲良く食事をする為でも無い。

 アンナちゃんと俺が会うことで、何かしらの話し合いをすることが目的のハズだ。


 話し辛いとは思うが、いつまでもズルズルしててもしょうがないので、ココまで空気と化していたアンナちゃんに本題に入ることを催促した。



「アンナちゃんはナニか話があったんでしょ?そろそろ話してよ」


「うん・・・」


 俺が声を掛けると、アンナちゃんは手に持ってた食べ掛けのチキンクリスプをトレーに置いて、アイスティーをストローで一口飲むと姿勢を正した。



「マゴイチくんにずっと謝りたかったの。あの時、ごめんなさい。アンナ、調子に乗ってました」


 アンナちゃんの謝罪に対し、俺は慎重に言葉を選びながら問いかける。


「アンナちゃんはあの頃、調子に乗ってたから浮気したの? もっとナニか、具体的な原因とか、切っ掛けは無かったの?」


「原因・・・相手の人は、ウチの隣に住む2つ上の男子で・・・幼馴染っていうのかな。でも元々私の方は全然タイプじゃなかったし相手にもしてなかったけど、私がマゴイチくんと付き合い出したの知ったらしくて、それからは凄いアプローチしてくるようになったの」


 続きを促す様に、アンナちゃんの目を見つめたまま無言で頷く。


「その人から「あんなヤツより俺のが男らしくてアンナのこと守ってやれる」とか「あんなの顔だけだ。心からアンナのこと愛してるのは俺だけだ」とか、顔を会わせる度に言われ続けて、最初はウザかったのにその内『私はみんなからチヤホヤされてて、学校イチイケメンのマゴイチくんを彼氏に持って、更に年上の中学生からも求愛される人気者なんだ。私ってその辺の子たちと違ってそれくらい超可愛いんだ』って優越感を感じる様になってた」


「マゴイチくんのことは、最初は本当に「カッコいい!」って憧れて好きになったの。告白してOKして貰えた時だって凄く嬉しくて幸せだった。 でもその人から熱烈なアプローチが続いて、後で色々考えて思い返すと、そんな状況にも徐々に慣れて勘違いするようになってたと思う。 好きになって自分から告白して付き合って貰ったのに、気づいたらマゴイチくんが彼氏なのが当たり前のことのように勘違いしちゃって、アクセサリーみたいな感覚? 学校中の女子から人気のイケメンを彼氏に持つ私ってスゴイ!って感じで」


 アンナちゃんは、俺に浮気が見つかり周りから距離置かれて、以降ずっと一人ぼっちだったと思う。 その間、何度も考えたのだろう。自分の何がいけなかったのか。どうして自分はそんなことをしでかしてしまったのか。

 少し客観的な物言いになったりするのは、恐らくそういった自問自答をこれまで何度も繰り返してきて、自分なりの答えを出しているからだろう。


 そして、アンナちゃんの話に対して俺は、自分でも驚く程冷静に、そして他人事の様に聞いていた。 俺に対する当時の気持ちの変化を聞いても「へーそうなんだ」って、怒りとか不愉快な気持ちが湧いてこない。

 寧ろ、イケメンを彼氏にしてアクセサリー感覚だったという話に、「俺も似たようなものだったな」と反省する気持ちが湧いて来た。 何せ当時は、可愛いくて巨乳というだけでOKしちゃってたからな。「アクセサリー感覚で可愛くて巨乳な子と付き合ってたんだ」って言われると、今なら強く否定できない。



「その内に「自分は周りの子と違うんだから、もっと進まなくっちゃ!」って考える様になってた。 でもマゴイチくんって普段から凄くクールで奥手で、私が手を繋げば応えてくれるけど自分からは手を繋ごうとしてくれないし、ハグとかキスとかも全然無くて。 何度かお家に誘って二人きりになってそれとなくボディタッチとかして誘惑してみたりしたけど、マゴイチくんは全然気にしてない感じでいつも通りクールのままで、でも私の方は余計に悶々とするようになってて」


「そんな時に、いつもの様にその人が話しかけて来て、男の人の気持ちとか知りたくて思わずその人にマゴイチくんとのことを相談しちゃったの。 それがあの時の公園。 「男の子に積極的になってもらうのに、どうしたら良いんだろ?」って私の相談聞いたその人、「そんなガキより俺のが色々知ってるし!俺がアンナを抱きしめてやる!」って言い出して抱きしめて来て、中学生だから抱きしめる力が凄く強くて、でも私びっくりして「逃げないと」って気持ちもあったけど、「マゴイチくんにして欲しいのはこういうことなんだ」って気持ちも自覚しちゃって、抵抗する気持ちが弱くなっちゃって。 それで多分だけど、相手は私がハグを受け入れたんだって思っちゃったんだろうね。「俺が色々なこと、教えてやる」って言って私のアゴに手を添えて顔を自分に向かせると、キスされちゃったの」



 シャカシャカシャカシャカシャカ


 俺の隣では優木会長がアンナちゃんの話に飽きたのか興味がないのか、シャカチキの袋を両手で持って一心不乱にシャカシャカ上下にシェイクしている。

 それ見てアフロまで両手でシャカチキをシェイクしはじめた。

 コイツら、マジ邪魔。



 そんな二人を気にせずに、アンナちゃんは話を続けた。


「突然のキスに頭真っ白でビックリしたけど、それは一瞬だけで、「遂にファーストキスしちゃったんだ」って気持ちが湧いてて、後で思えば結局私はマゴイチくん以外の人でもキスを受け入れちゃってて、そんな私の態度にその人は更に調子に乗ったんだろうね。私の胸まで触り始めて、流石にそれは嫌だったし痛かったから「ヤメテ」って言おうとした所で、その人が後ろから蹴り飛ばされて、吹き飛んで行ったの」


 俺のドロップキックがさく裂した瞬間だな。


「蹴り飛ばしたのがマゴイチくんだって解った瞬間、「キス見られた」って怖くなって、言い訳とか出来る余裕なくて、逃げた。  これが私の浮気の全部。相手の人やマゴイチくんのせいにして言い訳みたいに聞こえたかもだけど、私がバカで調子に乗ってた自覚あるし、抵抗せずにキスを受け入れたことは事実だし、見つかった時だって逃げずにちゃんと説明してたらもう少し違う状況になってたハズなのに、結局、自分が浮気しちゃった自覚あるからまともに説明出来る自信なんかなくて怖くて逃げるしか出来なかったの。 だから私が浮気したクズなのは間違いないって今でも思ってる」




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