#34 元カノ達と生徒会長との違い




 アンナちゃんが俺に会ってナニを話したいのかは何となく察していたが、しかし中々本題を口にしてくれず、全身モコモコなベビー服姿の俺はこのまま日陰の無い公園で話を聞くには暑すぎて熱中症待った無しな状態なので、マックに移動してクーラーの効いてる店内で涼みつつ昼メシ食べながら話を聞くことにした。


 来た時と同じように俺の愛車の後ろに優木会長が座り、そしてアフロの自転車には何故かアンナちゃんが前に乗り、後ろの荷台にはアフロが座っている。 アフロに「運転たのんだ」と一言言われると、アンナちゃんが反抗することなくすんなりサドルに座る様子に、二人の普段からの関係性が如実に表れていた。


 マックに行くと夏休みであり土曜日でもあり丁度お昼時でもあったので、お店の中はかなり混雑していた。


 西中の緑色のジャージを履いて上は体操服の金髪アフロなセクシーブス。

 西高の濃いブルーの上下ジャージを着込んだ黒髪美人。

 ダンジョンの小豆色のジャージに上は体操服の地味めな巨乳美少女。

 そして、身長180で全身水色でモコモコのベビー服を着こんで汗びっしょりで爽やかさ皆無のイケメン。 因みにアクア先輩の言いつけを守り、フードは常にオン・ザ・ヘッドだ。

 

 こんな4人が混雑したお店に来店したものだから否が応でも衆人の注目を集めていたが、超美人生徒会長の優木会長は人目を集めることに馴れているのか飄々と普段通りだし、個性的な容姿のアフロもいつでもドコでもマイペースでそういうのは気にしてない。そして俺も普段からポジティブシンキングで人目を気にしない様にしている。

 唯一アンナちゃんだけは視線が気になる様でモジモジしていたので、アフロとアンナちゃんには先に2階席に行って席が空いたら確保するようにお願いして、俺と優木会長がレジ前の列に並んで注文することにした




 優木会長と二人で並んでいると、優木会長は俺の着ているベビー服の袖を掴んで取り留めも無く話し始めた。


「あの子とヨリ戻すとか、私は認めないわよ」


「それは、無いですって」


「ならいいけど。  アフロってどうして毎回毎回下らないことばかりして私を怒らせるの?バカなの?」


「楽しいんでしょ」


「やっぱりバカなのね。   ねぇ、今日も泊っていい?」


「良いですけど、さっきみたいに襲われそうで怖いな。 別々の部屋で寝ましょうか?」


「それじゃあ意味ないじゃない。今夜こそパジャマパーティーするわよ」


「あいあいさ。  ところで、パジャマパーティーって具体的にナニするんです?」


「そうね・・・とても楽しいことよ!」


「パジャマパーティーっていう単語使いたかっただけで、実はナニも考えてませんでしたね?」




 優木会長との普段通りの中身の薄い会話をしていて、ふと思う。


 アンナちゃんを始めとした過去の彼女たち、特に浮気された4人の彼女たちとは、当時は会話1つするのも気を使っていたと思う。

 先ほど公園でアンナちゃんと再会した際、そういう会話のプレッシャーみたいなのが甦り、当時も無意識にそういうプレッシャーを抱えながら会話していたことを再認識させられた。


 特に初めての彼女だったアンナちゃんに対しては「変な事言って嫌われない様に」とか、「俺と会話してて楽しいと思われたい」とか、そんなことばかり考えてて常に気を張っていたと思う。 さっきの公園での久しぶりの会話でも、腫物を触る様に気を回しながら言葉を選んで会話していた。


 しかし今、優木会長と二人きりになった途端会話のプレッシャーから解放され、気張らずにいつも通りの気の抜けた会話をしている。


 じゃあ、何で優木会長だと気を張らずに会話が出来るのか。


 知り合ってからの友達としての付き合いは、まだ4カ月に満たない。

 そして、年上で美人で学校イチ有名人の生徒会長。

 普通の西高1年男子なら声掛けられただけでも緊張してしまうような相手だ。

 なのに俺は全く緊張しない。


 まずは年上というところ。

 例えば担任の諏訪先生に対しても、俺には年齢的な部分での敬意などは持ち合わせていない。 「学校の先生だから」とか、「部活の先輩だから」とか、そいう立場的な物での気遣いや遠慮はするけど、「年上だから」という部分に俺は気遣いをしない質のようだ。


 改めて冷静に自己分析すると、年齢に関してはアフロの影響が大きいだろう。

 俺にとってアフロは、本来なら近所に住む年上のお姉さん的な幼馴染だ。だが、ガキのころからお姉さん的な扱いをしたことがない。だって憧れを持つほど立派だったり素敵な年上じゃないし。 その影響なのか、俺は年齢に関する敬意とか遠慮とか気遣いが薄いのかもしれない。


 そして容姿に関して。

 正直言って、可愛い子や綺麗な女性は今でも好きだ。だが恋愛対象にはしないようにしている。

 普通、綺麗な女性と会話するとなると、「気に入られて仲良くなりたい」とか「ワンチャンあるかも」と考えてしまい、それはプレッシャーとなってしまう。俺も中3までに付き合った4人の彼女たちに対してがそうだった。 だが、今の俺には美形の女性に対してそういう欲求がない為か、美人相手でも肩の力を抜いて会話が出来ている。


 他にも「生徒会長」とか「学校イチ有名人」という付加価値的な部分。

 これらに関しては、初対面で注意された際に頭下げたのに無視され、「失礼な女だな」と敬意など持てない様な出会いだったことや、有名人としてっていうのも、中学では俺もそういう目で見られていた自覚があるから、憧れとかよりも「あの人も俺と同じで大変そうだな」という同情の気持ちのが強いからだろう。ちょっとしたシンパシー?


 こういった幾つもの要因が重なって、俺は高々3カ月余りの付き合いである優木会長に対して、十年来の幼馴染であるアフロと同等の付き合い方が出来ているのだろう。



 その優木会長が昨日台所で昼飯の準備をしながら言っていた「気を使わない関係のが友達としても恋人としてでも長続きするんじゃないか」という話。


 見事なまでに逆の結果となっているのが、過去5人の彼女たち。彼女たちとの交際は長続きしなかった。

 アクア先輩の例は特殊過ぎて当てはまらないが、今なら浮気した4人に関しては条件的に逆の意味で当てはまる部分があるように思えてならない。気を使い遠慮し、「キスしたい」とか「おっぱい揉みたい」などの本音を隠して、相手を大切にしているというスタンスで清い交際を続けてきたが、結果は俺の思いを嘲笑うかのような残酷なものだった。

 つまりは結果として浮気されたが、浮気に至るまでに俺の態度や言動にナニか不満を感じさせる物があったのかも知れない、と思い至る。


 もしかしたら、今日アンナちゃんから語られる話の中で、その辺が分かるかもしれないな。今後の彼女選び、そしていづれ彼女が出来た時に役に立つような何か教訓が得られればいいんだけど。




 レジ前の列が進み俺たちの順番が回ってくると、注文は優木会長に任せた。

 だってこの女性店員さん、俺のベビー服姿見てめっちゃ意識してるクセに目線あわせず笑い堪えてるんだもん。


「チキンクリスプ4つと、チキンフィレオ4つね。あとは、シャカチキ4つとチキンナゲット15ピースのを2つ、ソースはマスタードね。ドリンクはアイスティー4つ」


「いや、チキン頼みすぎでしょ!チキンしかねーじゃん!」


「うふふ」


 優木会長は、俺のツッコミを待っていたかのように満足そうな笑みを浮かべるが、注文内容を変更することはなかった。








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