4部 反省の夏

#33 幼馴染のお節介

 

 折角の夏休みだからと、優木会長とアフロが俺んちに泊まった翌日。

 まだ午前中だというのに、俺達は既にヘトヘトになっていた。



 優木会長は「ヒィ!ヒィ!もうダメ!死ぬ!」と言って何度も笑い死に、そして俺もアフロも全力ダンスを続けていた為、最近運動不足気味の俺達は体力の限界を迎えていた。

 優木会長はいつも綺麗に整えている髪が乱れてても気にする余裕がないほど息も絶え絶えとなり、俺もアフロも両腕を限界までグルグル回し続けていた為、最後には腕が上がらなくなり、3人とも汗でびっしょりになって倒れこんだ。


 水分補給をしながら3人とも落ち着いた所で「シャワー浴びて着替えるか」と言うと、アフロが「マゴイチに会わせたいヤツが居るし、今からそいつに会いに行こう」と言い出した。


 先ほどまで笑い過ぎて死んでいた優木会長が急に鋭い目つきになって「それって女の子なの?」と確認すると、「そうだよん」とアフロはいつもの様に軽い調子で答える。


 それを聞いて、優木会長は「私も行くわ。マゴイチはそのベビー服のまま行きましょ。私も舐められない様に着替えるわ」と言って、俺のタンスから西高の体操服を出して着替えた。

 どうやら優木会長は、アフロが俺に女の子を紹介すると聞いて警戒心を強めて、俺がその子と良い感じになったりしないようにマヌケなベビー服姿のままで行くように強制して、自分も相手に舐められない様に西高の体操服を着ることにした様だ。

 なぜソコで体操服をチョイスしたのかは、多分バイオレンス的な意味での舐められない様にってことだろう。



 ◇



 愛車(自転車)の後ろに優木会長を乗せて、アフロも自分の自転車に乗って近所の公園まで来た。

 この公園は、ガキの頃よく遊んでた公園で久しぶりに来たけど、なんだか懐かしい。

「そう言えば小6の時にアンナちゃんが浮気してたの見つけて、相手の男を蹴り飛ばしたのもこの公園だったな」としみじみとしつつ、自転車に乗ったまま公園内に入ると、ベンチに小豆色のどこかの学校の体操服を着た女の子が座っていた。


 アフロがその子の傍で自転車を降りて話しかける。


「アンアンお待たせ~。マゴイチ連れて来たよん」


「アッコ先輩、遅い。またすっぽかされたかと思って帰ろうかなって考え始めたトコっすよ」



 俺も優木会長を後ろに乗せたままその子の傍まで自転車を寄せて、停める。



「悪い悪い。マゴイチんちで踊ってたら楽しくなっちゃって、止まらなくなってた」


 二人の会話を聞きながら、その子を観察する。


 髪は少し明るめの色のショートカットで、身長は優木会長と同じくらい。そして何よりも目を惹くのが、その巨乳だ。

 容姿に関しては、パッチリとした瞳と色白の肌に少しソバカスがあるのが特徴的だが、スッピンでもかなりの美少女だった。


 っていうか、安藤アンナ。俺が小6の時に初めて付き合った元カノだ。


 小学生の頃は、いつもツインテールでキラキラひらひらしたオシャレな服ばかり着て、甘え上手でブリブリしてて「私って可愛い!」アピールしてたイメージあったけど、今は見た目も喋り方も地味めの印象が強く、俺と付き合ってた頃とは真逆の幸薄そうな雰囲気をまとっている。


 同じ西中だったし、卒業するまでは学校や近所でたまに姿を見かけることはあったから、地味めで大人しくなってたのは知ってたけど、浮気を見つけて別れて以降は一度も会話をしていない。




 しかし、アフロとアンナちゃんとは、妙な組み合わせだな。

 会話の内容から普段から会ってるみたいだけど、同じ小中だから顔見知り程度なら理解できるが、アフロがアンナちゃんと仲良かったとは記憶にないし、いつの間に仲良くなってたんだ?

 あ、そう言えば、アンナちゃんもダンジョンだって聞いたことあったな。高校繋がりか。



 停めた自転車に跨ったまま、そんなことを考えていると、話が俺に振られた。


「マゴイチ、こいつアンアン。安藤アンナ覚えてる?」


「ああ、覚えてるよ。アンナちゃん、久しぶり」


「・・・・久しぶり、マゴイチ、くん・・・・」


 挨拶はキチンとしないとダメだと幼少期から親に厳しく躾けられてきた俺は、例え浮気された元カノに対してでも目を見て冷静に挨拶をするが、アンナちゃんは俺から視線を外してボソボソと挨拶を返した。

 さっきまでアフロと普通に会話してたのに、やはり俺に対しては気不味そうだ。


 まぁ実際、俺も気不味い。

 俺が浮気された話を広めたせいで、小学校でも中学でもアンナちゃんは周りから距離置かれてずっとぼっちっぽかったし、自業自得とは言え、今思えば可哀そうな学校生活だったと思う。



 挨拶を交わした後お互い無言になると、無言の重い空気が耐えられなかったのか、後ろの荷台に座ったままの自主性モンスターが自主性を発揮し出した。



「アナタ、マゴイチとどうゆう関係?もしかして昔の彼女? 今更マゴイチになんの用事があるの?」


 だが、アンナちゃんも負けていない。

 ベンチから立ち上がると先ほどの俺への態度から一変して、後ろの荷台に座る優木会長に対して腕組みして見下ろす様に反撃した。


「は?アンタこそ誰なん?いきなりしゃしゃり出て来て彼女気取り? マゴイチくん、今彼女居ないって聞いてるんだけど?」


 それに対して、勿論優木会長も大人しく引き下がる訳も無く、荷台から降りて、アンナちゃんに頭突きでもするかのようにアンナちゃんの真正面から顔を近づけて、反撃する。


「私は、マゴイチの婚約者よ。本人は認めようとしないけど、ご家族には昨日了承を得ているわ」


「はぁ?本人が認めてないのに婚約者って、頭おかしいんじゃない?」


 優木会長が頭おかしいのは、否定出来ないな。うん。


「平気で二股するような女に言われたくないわね。アナタこそ頭おかしいんじゃない?」


「っていうか、息がくさいんだけど?顔ちかづけんな」


「臭いって言うんじゃないわよ!もう何なの!朝からみんなして私のこと臭いって!」


 お互い至近距離で睨み合い、相手にツバ飛ばしながら醜い口喧嘩を続ける。

 一応、優木会長の名誉の為に言うが、優木会長はいつもとても良い匂いがする。

 口臭だって臭くない。臭いのはトイレでのウンコに限った話だ。



 優木会長に関しては最近こういう場面ばかり続いているのでいい加減慣れてしまったが、アンナちゃんがこんなに気が強いことを知らなくてビビった俺は、アフロにアイコンタクトで「お前が連れて来たんだから、お前がどうにかしろ」とサインを送った。


 アフロは「まぁまぁまぁまぁ」と言いながら横から二人に近づき、至近距離で睨み合っている二人の後頭部を左右の手で軽く押した。


 アフロに声かけられたことで無言になっていた二人は、不意打ちされた形で頭を押され、そして二人の鼻と唇同士がガツンとくっ付いた。



 初対面で激しい口論の末、キスした二人の女の子。

 優木会長が「ナニすんのよ!」と怒り出し、素早い動きでチョークスリーパーを掛けると、アフロは今朝絞め落とされた事を思い出したのか「ノーノー!ギブギブ!」と即ギブアップした。


 二人のやり取りに固まるアンナちゃん。

 そして、手持無沙汰の俺。


 こうなると、俺もアンナちゃんもお互いの存在をスルーする訳もいかなくなり、優木会長がアフロを地面に正座させてお説教している間に、俺はアンナちゃんに話を聞くことにした。




「それで、俺にナニか用事あったんじゃないの?」


「う、うん・・・。アッコ先輩が、マゴイチくんに会ってみないかって言ってくれて・・・」


 俺が話しかけると先ほどまで優木会長と口論していた強気の態度は途端にナリを潜め、俯きがちに視線をキョロキョロとさせ声も小さくなり、オドオドしはじめた。 その姿が浮気発覚後、クラスで仲が良かった友達たちから糾弾されて泣いていたアンナちゃんの姿を思い出させる。 

 だから、やはり気不味い。


 そんな空気の中、当時の話題を直接出すのもはばかられ、誤魔化す様にどうでも良い話題で話を続ける。


「アフロと仲良かったんだね。全然知らなかった。前はそんなことなかったよね?高校から?」


「うん。高校入ってすぐの頃に助けて貰ったことがあって。それから仲良くなったの」


「アフロが人助けか」


「入学式の数日後だったかな。 学校終わって一人で帰ってる途中に他校の二人組の男子に声掛けられててしつこくて困ってたら、たまたま自転車で通りかかったアッコ先輩が自転車ごと相手に突っ込んで追い払ってくれて」


「へー、アフロらしい追い払い方だな」


 アフロは普段マイペースだし直ぐに人の事を揶揄ったり面白がったりするアホなヤツだが、なんだかんだと結構お節介なトコもある。


 そう言えば、昨夜の焼肉のあと片付けながら色々話してた流れで、俺に誰かを会わせようと連絡を取っていたが、それがアンナちゃんだった訳だな。 その時の前後の話の流れから考えると、絶対的真理に拘り可愛い子や美人との交際を頑なに拒否する俺に、拘りすぎだとたしなめる目的でアンナちゃんと会わせようとしていたことが考えられる。 これだってアフロなりのお節介だろう。


 アンナちゃんと会話しながら、なんとなしに視線をアフロたちに向ける。

 アンナちゃんも俺につられる様にアフロに視線を向けた。


 二人の視線の先では相変わらず優木会長のお説教が続いており、アフロは地べたに正座しつつも鼻の中が気になるのか、右手の小指で鼻の穴をホジホジしていた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る