#31 ベッドで二人で過ごすひと時
股間が冷静さを取り戻したので部屋に戻ると、アフロの姿は無く優木会長が一人でベッドの上に寝転がって俺の小学校の卒アルを楽しそうにページをめくっていた。
「あれ?会長一人? アフロは?」
「お帰りマゴイチ。アフロなら一度家に帰るって。でも直ぐに戻って来るって言ってたよ」
「あいあいさ」
しばらくは優木会長と二人キリか。
ちょっぴり気まずいな。
優木会長、俺に股間の陰毛をガン見されたことは認識しているハズだが、いつも通りに振舞ってるな。 俺には見られても平気ということなのか、それとも既に記憶から消し去って無かったことにしているのかは不明だが、ガン見してたことを追求されれば俺としても非常に辛い立場なので、コチラからはこのまま触れないでおくのが得策だろう。
「そういえば、洗い物任せちゃってすんませんでした」
「洗い物くらい大丈夫よ。お泊りさせて貰ってるのに昨日の夜も片付け手伝えなかったし、これくらいのお手伝い当たり前よ!」
やはり見た限りでは、完全に普段通りの優木会長だ。
あれだけのことがあった後だと言うのに、流石は自主性モンスターと言うべきか。
俺はベッドの傍に近づき、ベッドの縁に腰掛けて優木会長と会話を続けることにした。
「そんなもの、ドコから引張り出したんですか?押し入れの奥だったかにしまってたハズですけど。さては漁りましたね?」
「いいじゃないの少しくらい!それよりもこの小学生のマゴイチがすっごいんだけど!なんでこんなにカワイイの!? マゴイチも一緒に見よ?」
優木会長は興奮気味にそう言って、寝ころびながらも体をズラしてベッドの上に俺の為のスペースを空けてくれた。
「これでも小5小6の頃は格好つけてクールを気取ってたんですけどね。そしたら『ツンデレ王子』って呼ばれる様になっちゃいましたが」
「流石イケメンマゴイチ。狂犬とか王子とかネタに事欠かないのね。でも今のマゴイチもカッコイイけど、この頃のマゴイチはマジで王子様だよ。こんなに可愛らしい男の子目にしたら
「完全に犯罪者の思考じゃないっすか。やっぱやべーなウチの生徒会長。だいたい、小学生攫ってナニしようとしてんすか」
優木会長がヤバイ女だというのは今更の話だし、半分は冗談だろうと思いつつ、その冗談にノリながら空けてくれたスペースに優木会長と同じように俺も寝転がり、卒アルの懐かしい写真を
「うふふふ、内緒よ。 でも、マゴイチならどんなことして欲しい?」
優木会長の視線を感じ、横で寝転ぶ優木会長に視線を向けると、柔らかい表情で俺に微笑みを向けていた。
恋愛対象として見ていないと言っても、流石にこれほどの美形の女性にベッドで一緒に寝転がる距離で微笑まれると、ドキリと心臓の鼓動が速くなる。
「ねぇ?マゴイチは私にどんなことして欲しいの?」
右手を俺の肩にそっと添えながら、再び同じ質問をしてきた。
「べ、別に、特にして欲しいことは、ナイっすよ・・・」
思わず声が
優木会長相手に意識して緊張してると知られたら、まるで俺が負けたみたいに思われそうでモヤモヤする。
「本当に? ナニもしなくてもいいの?」
俺の肩に手を添えたまま、顔も近づけて来る優木会長。
先ほどまで柔らかい表情に見えていたのに、今は妖艶と言うのかフェロモンむんむんのエロティックな微笑みに見える。
心なしか、いつもよりも良い匂いがするし。
俺の中の絶対的真理が、警報アラームをビーコンビーコン五月蠅く騒ぎ始める。
『可愛い女の子は、浮気する』
目の前に居る西高イチ美人の優木会長だって勿論その対象内だ。
このままでは危険だ。
ココは俺の部屋で俺のテリトリーなのに、いまこのベッドの上だけは優木会長のワールドだ。
自主性モンスターであり年上のお姉さんであり生徒会長でもあり常日頃から俺に対して遠慮なく好意を向けて来る女性が、今まさにベッドの上で俺を
このまま優木会長の艶っぽい雰囲気に流されてしまったら、逃れることが出来なくなるぞ。
そしてその先に待つのは、NTRの悪夢に違いない。
ヤバイ、逃げなくては。
しかし、動けない。
優木会長の瞳から視線が外せない。
見つめ合ったまま動くことが出来ないぞ。
こんな時に金縛りなのか!
どうしたんだ俺!
直ぐに逃げるんだ!
「ふぅ♡ やっぱりマゴイチってすっごくカッコイイよね♡」
そして、優木会長の表情からフッと微笑みが消えたと思ったら、そっと目を閉じて、タコのモノマネする時みたいに唇を突き出し、じっと動かなくなった。
どうやらキス待ちの体勢に入ったらしい。
そのマヌケなタコの顔を見て、金縛りが解けた。
いくらフェロモンむんむんな大人の女性になりきってても、所詮は
無理して背伸びしていただけなんだろうな。
優木会長って天上天下唯我独尊って感じあるけど、逆にこんな風に残念なところもあるよな。
だいたいさっきのウンコの件だって、二人とも気が付いていない様だったが、あの時の会話で二人ともウンコをしたこと自体は否定していなかった。
そりゃそうだ、昨日あれだけ食べてたんだもの、朝イチでウンコするに決まってる。つまり、二人とも心当たりがあったからこそ、ムキになって否定してたんだ。そしてムキになればなるほど『自分のウンコが臭かった自覚がある』と言っているのと同義なんだということに、二人とも気づけないおマヌケさんなんだ。
そこまで考えると、先ほどまで優木会長のワールドだと思ってたベッドの上が、途端に自分のテリトリーに戻った。
俺はスマホを取り出すと速やかにカメラアプリを起動して、マヌケなタコの顔(本人は大人の女性のキス待ち顔のつもり)をした優木会長をどアップに照準を合わせて、しっかりピントが合っていることを確認してから、シャッターを押した。
何枚も押した。
スマホのシャッター音が続いているのに、タコの顔のまま動かない優木会長。
本気で俺にキスして貰えると思っているのだろうか。
優木会長ほどの美人ならそんな風に自信を持ってしまうのも仕方ないことだろうが、ここまで来ると少し痛々しく感じる。
いつまで経ってもキスしてもらえないからなのか、優木会長がタコの顔のまま右目だけ開けた。
その顔が更にマヌケだった。
カシャ!
「ちょっと!なんで写メ撮ってるのよ!いま絶対キスする空気だったよね!なんでキスしてこないのよ!」
そう叫びながらバチンバチンと俺の肩や背中を何度もハリテしてきた。
流石、弟のタカシくんにゴリラと呼ばれるだけのことはある。マジで痛い。
「やめろ!叩くのやめるんだ!マジで痛い!」
「なんでキスしないのよ!キスして欲しかったのに!マゴイチのバカバカバカバカ!」
今度は両手でポカポカ殴りはじめた。
マジで痛いが、アフロにパンツ下げられた時ほどの怒りは感じない。
多分、怒りが50%、キス顔晒したのにキスして貰えなかった恥ずかしさが50%と言う所だろうか。
顔真っ赤だし、かなり恥ずかしい様子だ。
女性相手に真正面からの暴力では男の俺には分が悪いので、両手で優木会長の脇腹を掴んで、指を立てる様にしてコチョコチョくすぐった。
そりゃもう遠慮なく10本の指をこれでもか!と言う程激しく、そしてしなやかに。
その効果は
「ちょ!ヤメテ!卑怯よ!くすぐらないで!ウヒィィィィィ」
俺の攻撃から逃れようと髪を振り乱してヨダレを撒き散らしながら必死に暴れる優木会長と、逃がすモノか!と全力全開のコチョコチョ攻撃を続ける俺。
ベッドの上で
「ヤメテ!ホントもうギブ!ギブアップするから!」
「本当ですね?負けを認めますね?」
コチョコチョしながら念押し確認。
「むお!ウヒぃ!私の負けでいいから!」
優木会長が敗北宣言をしたので、コチョコチョ攻撃から解放した。
優木会長は顔を伏せ、乱れた黒髪を直すことも無く激しく呼吸を繰り返していた。
優木会長に初めて勝つことが出来た。
俺は今日のこの日を『ヴィクトリーディ、勝利の日』と名付けて、大人になっても忘れずに毎年この日には勝利を祝おう、と感慨深くしみじみとしていたら、ガバっと起き上がった優木会長に押し倒されて素早い動きでマウントポジションを取られた。
いきなりの事で慌ててしまい「あわわわわわ」と動揺しながら両手でガードしようとするも、手首を掴まれ両手を封じられた。
俺のお腹に跨り前傾姿勢になって両手で俺の手を抑え込む優木会長の顔が目の前に迫る。
「油断大敵よマゴイチ。そんなことじゃいつまで経っても私には勝てないわよ」
そう言って優木会長は、今度は目を見開いたまま顔を近づけてくる。
不味い!
このままだと俺の尊いファーストキスが優木会長に奪われてしまう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます